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クロスブラッドの魔法  作者: Takamomo
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プロローグ

 周辺一帯を紅く染め上げる、数千の花が揺れていた。項垂れるように付いている真っ赤な花びらが特徴的で、神秘的であり、どこか不気味な雰囲気を醸し出していた。

 その紅い花畑の中に、彼らの姿はあった。総数八人がおり、七人と一人が向かい合っている。七人の内一人は、紅い花の中に埋もれるようにして倒れており、他六人は向かい合った一人を前に呆然と立ち尽くしていた。

 そして、そんな六人を前にして、堂々と立つ一人には底知れない威圧感があった。周囲の空気そのものが震えているのではないかと思うような威圧感に、その場にいた全員が戦慄した。

 人間である六人に恐怖を覚えさせている一人は、人間ではなく魔物だった。

 その魔物は一見しただけでは、人間と大差ない姿をしていた。整った顔立ちをした若い男であり、銀の長い髪が風に揺れて不気味にうねっている。美しくも冷徹な雰囲気をまとった魔物だった。肌の色が紫がかっている点を除けば、人間とそう変わらない。

 魔物は老若男女六人の人間を見据え、冷たい声音で淡々と言葉を紡いだ。

「私の望みは、ニンゲンのいない、魔物のみの世界にすること。すなわち、全ニンゲンを排除することだ」

 あまりに非現実すぎる内容であるはずなのに、彼から発せられた言葉は六人の人間たちに悪寒を感じさせた。目の前にいるこの魔物が、人間を殺して行く画が、脳内を電流のように駆けた。

 魔物は六人の人間を見渡し、笑みを浮かべる。その笑みは満足気であったが、六人の背筋を凍り付かせた。

「お前たちには感謝している。我が肉体の長きに渡る封印を解く、礎となってくれたことに」

 魔物はそう言って、六人に背を向ける。銀の長い髪が翻り、不規則にうねった。彼は手に持った長い杖を構え、何かの魔法を発動させようとする。

 魔物が立ち去ろうとしていることに気づいた六人の内一人が声を上げた。

「待て!これから何をする気だ?」

 魔物に問いを投げたのは、老年の男だった。

 魔物は背を向けたまま、視線だけを老人に向けて、芯まで凍るような冷たい声で返答した。

「言っただろう?ニンゲンは、排除すると」

 次の瞬間、老人はその場から飛び出した。

「じいちゃん!」

 赤髪の青年が老人の背に呼びかける。魔物に突然向かって行った老人に他の五人は驚いていた。

 老人が携帯していた槍の先を魔物に向かって突き出した。

 魔物はそれまで発動させようとしていた魔法を消し、新たに発動させた魔法で透明な壁を作り出し、老人の攻撃を防いだ。

 老人は魔法の壁に槍を何度も突き付けながら、魔物を睨みつけ言う。

「お前は今ここで倒す!」

  魔物はそんな老人を一瞥し、杖を持つ手とは反対の手を老人に向ける。次の瞬間、魔物の手から怪しい光があふれ、魔力の塊が老人めがけて放たれた。

 老人は咄嗟に攻撃から防御に切替え、槍を魔物の方へ構えたが、魔物が放った魔力を槍で受け止めきれず、数メートルほど後方に弾き飛ばされた。老人の身体は紅い花畑に埋もれる。

 老人の元へ五人の仲間たちが駆け寄って来る。

「おじいちゃんっ!大丈夫?」

 老人の身体を起こしながら、金髪の小柄な女性が尋ねる。

 老人は大丈夫だと返し、鬼気迫る様子で言葉を続ける。

「奴を行かせるな!何としても止めろ!」

 その老人の言葉のすぐ後に、今度は赤髪の青年が魔物に向かって飛び出して行く。

 赤髪の青年は魔物の背後にあっという間に辿り着き、素早く腰の短剣を抜いて、今回は魔法の壁を出していない彼の首筋めがけて短剣を振り下ろした。

 赤髪の青年の剣先が魔物に届く数センチの所で、またも魔法の壁に阻まれてしまった。青年の攻撃が魔法の壁に当たったその瞬間には、既に魔物は手に魔力を込め終わり、青年に向けて放つ準備が出来ていた。

 魔物の手から魔力の塊が放たれる。しかし、赤髪の青年は見事な反射神経と、目にも止まらぬ身のこなしで、魔物の攻撃を回避した。

 魔物は感心した様子で青年を見る。

 青年は回避の後はすぐさま体勢を立て直し、魔物に反撃する。

「行かせねえ!テメエには聞きたいことが山ほどあんだっ」

 赤髪の青年の攻撃を杖で受けながら魔物は涼やかに言った。

「今はお前たちと話している暇はない。邪魔だ」

 魔物の杖から紫の光がほとばしり、赤髪の青年を弾き飛ばす。赤髪の青年の身体が激しく地面に叩きつけられる。

 淡い青色の瞳の少女と小柄な女性が、赤髪の青年の元へ駆け寄って来る。

「今、治癒魔法をおかけします!」

 淡い青色の瞳の少女が持っていた杖をかざすと、杖から優しい緑色の光があふれ、赤髪の青年の身体をその光が包んだ。

 その間にも、背の高い若い男と先程の老人が、魔物に立ち向かって行っていた。

 背の高い男は腰に携帯していたフライパンで魔物の正面から殴りかかる。その打撃も魔物の強固な魔法壁に阻まれる。

「人間を排除するなんて言葉、聞き捨てならないわっ」

 一旦退いた背の高い男は、魔物に向かい声を上げる。

 そこを付いて老人が魔物の背後から槍を突き出す。老人に合わせて、背の高い男も攻撃を繰り出す。

 しかし、その双方方からの攻撃にも魔物は表情を一ミリも変えずに魔法で反撃し、二人の身体も弾かれる。

 まるで自分にたかる羽虫を払うように、魔物はごく僅かな動作で彼らの攻撃を払いのけてしまう。魔物は再びこの場を立ち去る準備を始めた。

 しかし、魔物はまた、防御の魔法に切り替えざるを得なくなった。

 あたり一帯を照らすほどの、光り輝く光剣を振りかざした深い青色の瞳の少年が、魔物の前に姿を現したからだった。

 少年の光剣が魔物の作り出した魔法壁に打ち付けられる。

 魔物が始めて表情を変えた。少年の光剣から放たれる光に対し、苦しそうに顔を歪めたが、それはほんの一瞬のことで、今は笑みを浮かべて少年を見て、こう言った。

「お前には、特に感謝している。お前がいなければ、私はこうして今ここにいない……」

 後方に下がった少年が魔物に問う。

「どうして僕だったんだっ。僕の何を知っている!」

 少年は再び魔物に攻撃を仕掛けながら、声を荒らげて言った。

 魔物は少年との戦いを楽しむかのように、少年にはしばらく反撃せず、攻撃をかわすだけにしていた。

 やがて魔物は、少年の気づかぬ一瞬の内に少年に接近しており、少年の耳元でこう囁いた。

「……クロスブラッド」

 少年は、突然発せられた聞いたこともない単語に気を取られる。

 そこを魔物に反撃され、少年の身体に魔物の魔力の塊が直撃する。少年は後方に弾き飛ばされ、同時に少年の剣から光が消える。

 魔物は少年を見据えて言った。

「私が知っているお前のこと。それは、リヒト、お前がクロスブラッドということだよ」

 リヒトと呼ばれた、深い青色の瞳の少年は痛む身体を何とか起こそうとしたが、力が上手く入れられなかった。リヒトの元へ五人の仲間たちが駆け寄って来る。

 しかし、仲間たちがリヒトの元へ到達する前に、魔物が魔法を発動させ、彼らはその場に倒れ込む。今までとは桁違いの威力を宿した魔力の波が、魔物を中心に広がり、爆ぜて、彼らを完全に制圧する。

「お前たちでは、私は止められない……」

 魔物はそう言って、彼ら六人に背を向ける。魔物は杖を構え、魔法を発動させようとする。ほんの数秒経って、彼の足元に魔法陣が現れた。

 魔物は視線を僅かに背後に向けて、六人に向けて言った。

「今はまだ、お前たちを殺しはしない。だが、次会うときは……」

 魔物の杖が魔法陣を打つ。魔法陣がこれまでにない程輝き、魔物の姿が覆われる。

 次の瞬間、唐突に光は消え、魔法陣も魔物も跡形もなく消え去っていた。


 そして、この日から、人間の世界が終わった―――。




まだプロローグです。先はまだまだ長い!

頑張って書き進めて行こうと思います。のんびり書いて行くつもりなので、次がいつになるか分かりませんが、どうぞよろしくお願いします!

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