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7.クランは何故か、話しかけられる 上


 今日は月曜日。また、いつもの変哲のない日常が戻ってきたわ……


―—ガヤガヤ


 あら? 教室が騒がしいわね。今日は何かあったかしら?

 ……いや、何もなかったはずよね。ではなぜこんなに騒がしいのでしょう?


「「「クラン様、おはようございます!」」」


 ……?


 なぜ、わたくしは大勢に挨拶されているんでしょう?

 というか……クラスにいる人ほぼ全員が今、話しかけてきたわよね。しかも全員の声が揃っているわ。皆さんタイミングでも計っていたんでしょうか? いったい何のためなのでしょうか? 媚び売りが妥当……よね?


「おはようございます?」


 これで挨拶を返したことにはなるわよね? というかそうなって! あまり人と喋りたくはないのよ! ……あまり人と喋りたくないのに、ここで無視したら公爵家の名に泥を塗ってしまうわ。ああ、なんてむずかしいの!


「まぁ! クラン様が返してくれたわ!」

「本当だ。あの方、喋らないというわけではないんだ……」


 今の男性、あなた、それ、悪口と受け取られてもおかしくないわよ。

 まあ、実際はそう思っても喋ることはない。


 だってわたくしは公爵令嬢。

 変に価値を落とす必要はないわ。お父様のためにも。そして、自分の信念を守るためにも。さらには、呪いを発動させないためにも。……これ、主にわたくしのためになっているわね。間違っていないけど。


 それにしても、わたくしが喋るだけでこんなに反応が返ってくるなんて……今まで考えもしなかったわ。これだったら少しは喋ってもいいかもしれ……なくないわ。さっき価値を落とすわけにはいかないと思ったはずよ。

 さあ、しっかりしましょう!


「クラン様、今日も相変わらず綺麗ですね!」

「そう」


 また取り入りに来たのかしら……いい加減疲れるのだけど……

 そう思いつつその女の子を見てみる。

 あら? この子見覚えが……きっと、今までも取り入りに来たことがあるのでしょう。けれど……笑顔が可愛いわ。これが嘘だったら、演技力の天才と言わざるを得ないかも。


「何でそんなに薄い反応なんですかー?」


 また話しかけてきた。何でそんなに薄い反応かって? けれど、その前に、あなたがなぜわたくしに話しかけてくるのかを説明すべきだと思うわよ。どうせ取り入るためでしょうけど。しかも言葉が軽いわ。品性を持って話すことを覚えなさい。


「これが普通だもの」


 まあこれが無難ね。さっさと立ち去ってくれないかしら。


「絶対違うと思います!クラン様は、もっと明るいお方です!」


 それ……本人の前で言うかしら?


「そう、ではそう思っていればいいわ。けれど、これがわたくしよ。明るというのは幻想でも見ているのよ。少し冷静になりなさい」

「そんなことないのに……クラン様は、もっと明るかった。忘れてしまったのか、本当に変わってしまったのか……」


 何かを呟いているようだけど、取り敢えず立ち去ってくれた。


「クラン様。今度出かける際にご一緒にさせてもらえませんか?」


 今度は男性ね。

 何でしょう? 出かける際に同伴したい? つまり、わたくしに娶られたいのかしら?

 けれど、公爵家はエステルお兄様が継ぐはずよね。ではわたくしを嫁がせたいのかしら? けれど……侯爵ならまだしも、それ以下のように見えるわ。となると、わたくしが嫁ぐことが出来ないのは分かりきっていることよね。

 でしたら………………。思いつかないわね。


「クラン様?」


 考えすぎてしまったみたい、訝しまれてしまった。


「無理よ」

「それはどうしてでしょう?」

「公爵令嬢として、よく分からない者を連れて出かけることは出来ないわ。分からないかしら?」


 少し威圧感を与えるように言ってみた。


「いや、分かります。えっと……その……急に突拍子もない事を言ってしまい、申し訳ありませんでした!」


 あらら。勢いよく謝られてしまったわ。そんなに威圧できたのかしら? だとしたらまた特技が増えたわ!


「今回は許します」


 取り敢えず許してあげましょう。許さないと後々めんどくさいことになるし。

 というか、この場合、()()をつけなければならないのよね。わたくしの場合は。ただ許すだけだったら、未来永劫許すことになってしまうもの。やはり、人と話すのは嫌いよ。

 宣言でも、ただの許可でも、何ととられるのか分からない。

 約束をしなくても、これだけで呪いの効果が出てしまったら……そう思うと、少し身震いが出てくるわ。まだ、この感覚には慣れることができないでいるし。


「……! ありがとうございます。2度とこんなふうに突拍子もない事はしません……!」


 あらら、感激されてしまったわ。

 それにしても……今回、と言ったせいで何やら怖い印象がついてしまったかもしれないわ。そう考えると……さっきのは失敗だったかもしれないわね。

 けれど……やっぱり「今回」はつけておかなくては呪いが勝手に誤解してしまうはずよ。それはわたくしは望んでいない。それなら、「今回」はつけるべきね。となると……悪いのは、やっぱり話しかけてきた男性になるわ。


 次こんなふうになっても、公爵令嬢の風評を悪くしたとかで、許さなくてもいいのかもしれないわ。


 そんなことを思った。


 まだまだ授業が始まるまでの時間はたっぷりある。


よくこれで今まで無視してきた、って言えたな……

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