78.クランはただただ働き、過ごす
「聖女の条件……」
「え?」
あら、いけない。喋らない設定なのに、喋ってしまったわ。
「聖女、ですか? 何がでしょうか? ……それに、喋れたのですね」
『失礼しました。以上があり、あまり喋らないようにしているのです』
「そうですか、こちらこそ失礼しました。……どうして聖女がでてきたか教えてもらっても構わないでしょうか?」
『構いません。
とある知り合いが言っていたことですが、聖女は、力の強い聖女になると、周りの植物を元気にさせ、魔術をちょっとしか使えない、らしいのです』
「聖女は魔術を使えるのですか?」
『はい。大きいものを使うことは稀ですが。……できる限り多言されないようにお願いします』
「ええ、承知しております。それにしても、植物を元気にさせ、魔術をあまり使えない……?
姉に似ていますね」
『はい、偶然かもしれませんが』
もし、これが本当だとしたら……
教会は、思っていたよりも聖女を見逃している可能性があるわ。わたくしも注意してみましょうか?
「そうだったら不思議だったことにも納得ですね。……それで、父の治癒はしてもらえるのでしょうか?」
『悪夢の件でしたら分かりません。が、寝不足を一時的に治癒して解消させることは出来ると思います』
「……父を呼んできます」
『ありがとうございます』
……せっかくこう書いたはいいけれど、それを見せる前に部屋を出ていってしまったわ。
「お主が聖女か?」
『はい』
前当主と思われる老人がやってきたわ。
「失礼した。儂が前当主のヤミルじゃ」
『聖女のクレアです』
ヤミル様は…‥隈を持っていて、寝不足のひどさがうかがえるわ。これは大変ね。
「儂の寝不足をましにしてくれると聞いたが本当か?」
『はい。悪夢の件は難しそうですが』
「よい。それだけで十分に助かる。もちろん、褒賞も出すから、ぜひそれをしてもらいたい」
あら、いいの?
……それにしても、あちらはわたくしが公爵令嬢だと知らないから仕方のないかもしれないけれど、子爵にしては尊大すぎないかしら?
ちょっと心配だわ。
『わかりました。では、さっそく行います』
「頼む」
「治癒」
ぼそっと呟く。
隈は、みるみるうちに消えていった。
「ほう! なんと素晴らしい! 久しぶりに気分がいいぞ!」
気分高揚しているようだわ。だけど、それも仕方のないことかもしれないわね。
毎回毎回悪夢を見ているというわけでは無いでしょうけど、それでもきっと、かなり昔の頃からよね?
同情するわ。
「聖女クレア、本当にありがとうございました。これだけで父がこんなにも喜ぶなら、寝不足解消のところだけ、というのも依頼してみようと思います」
ええ、それがいいと思うわ。
悪夢は、ヤミル様自身が頑張るしかないわよね。
そこに関しては諦めましょう。
だけど、少しは問題の解決に役に立てたし、気分がいいわ。
「ただいま〜」
「おう、お帰り」
「お帰りなさい、シリル」
ん?
シリル……シリル・カーソン?
もしかして、カーソン家って彼の家なのかしら?
「あれ? おじいちゃん? 今日は元気だね」
「おう、そこの聖女様に睡眠不足を解消してもらったからな。またどこか遊びに行こうか?」
「うん!」
うん、良い家庭だわ。
それならお邪魔虫のわたくしは早々に退散するとしましょうかね。
1週間後。
仕事はどんどん進んでいった。
毎日何個かずつ仕事を行っているおかげか、依頼の量は多少減った。そして、今までこなした依頼に効果が見られるようになって、報奨も少しずつ届いているよう。
いったいこのお金はどうすればいいのでしょう?
分からないわ。
とりあえず、そのお金はまだ残している。
そして、学園を休むことにも慣れたわ。
サリアには嫌な顔をされるのだけど……
それでも一日部屋に籠っていたあの日よりはいいと思ったのか、一応は文句は言われていないわ。気が利くメイドで助かるわ。
学園関係では……サンウェン様にときどき「約束」しに朝、学園に出かけていることかしら。それで少しは顔を出すことにはなるのだけど……最近はあんまりいい顔をされないのよね。
あら? いい顔をされないことばかりね。もしかして、聖女の仕事以外で最近いい顔をされたことがないのかしら? そんな悲しい事実、知りたくなかったわ。
なにはともあれ今日は水曜日。
今日は3つの依頼を受けていて、そのうちの2つは終わらせた。
そして、最後の依頼を達成するため、わたくしは少し、遠出していた。
依頼は、リルトーニア森の中の、修行の森に、師弟で住んでいる人から。
動物が怪我をしてしまったから、治したいらしいわ。
どんな動物か、非常に気になるわ。
だけど、それよりもそんなふうに暮らしているか、も気になる。
……思ったよりは長居してしまうかもね。
「あ、あの服装の人、この前貴族の家に出入りしているのを見たよ!」
「あ、俺も見たぞ! ほら、あの伯爵様の家だろ?」
「いや、違うよ。子爵様の家だった。」
「え? 僕は侯爵様の家で見かけたけど…」
「「え?」」
「どういうこと? 同じ人物が複数の貴族の家に出入りしているということか?」
「そうなんじゃない? なんでかはわからないけど。」
そんな会話が聞こえてきたわ。
これは……一体どういうことでしょう?
けれど、これ、事情を知っている人ならば、この服装をしていたら聖女だ、という印象が根付いてくれているということは、そこまで悪いことだとは思えないのよね。
このままで問題ないかしら?
……今考えても何にもならないわ。諦めましょう。それに、必ずしも悪い、というわけでは無さそうですし。
キリが悪くてごめんなさい




