77.クランは面白い依頼にありつく
『わたくしが今回依頼を受けさせてもらった聖女です』
そう書いて依頼主に見せる。
「あなたなのね、受けてくれたのは」
今回の依頼主は女性だったわ。
「喋れないのかしら?」
頷く。本当はしゃべらないのだけど、わざわざそれを言う必要はないわよね。
「では、一応概要は依頼に出しているとは思うけど、説明させてもらうわね。まず、この依頼は……」
特に変わったこともない依頼だった。
「あとは……あの依頼のところに寄ってみるつもりだったのよね。……この家かしら? カーソン家? 聞いたことがあるような気がするわね。けれどわたくしは子爵家なんて覚えていないわよね? 一体なんでなのかしら?」
分からないこともあるけれど、とりあえず入ってみましょう。
『聖女のクレアです』
……書くのが面倒くさいわね。何とかならないのかしら?
……あ!
水の板を作り出して、それに魔法で書き込めばいいんじゃないかしら?
わたくしって天才ね。
そう思ったところではたと気づいた。
わたくし、聖女だから魔法があまり使えないことになっているのだったわ……
仕方ないわね。ちゃんと紙に書くことにしましょう。
『聖女のクレアです。お話を聞きに伺いに来ました』
そう書いて、衛兵に見せる。
「あなたがクレア様ですか? お話は聞いております。ぜひ話してみたいと仰せなので、屋敷の中にでも入ってもらってもいいでしょうか?」
あら? 許可をもらえたのね。嬉しいわ。
頷く。
そうすると、会談をする部屋へと連れて行かれた。
……少し質素ね。子爵家だし、こんなもののなのかしら?
「聖女クレア様、カーソン子爵家当主、ベゼル・カーソンと申します。今日はお話を聞きに来たということでしたよね?」
頷く。
「さっそくですが、お話をしてもよろしいでしょうか?」
頷く。
そして、ベゼル様は、それを見届け、話し始めた。
「私の父……前当主で、ヤミル・カーソンというのですが、彼には少々トラウマがありまして……」
トラウマ? 一体どんなトラウマを持っているのかしら?
「実は、そのトラウマというのは私の姉のことでして……」
ふうん。
「私の姉……セイル・カーソンというのですが……は、実に不思議な人でした」
でした、ね……
今はどうなっているのかしら?
「姉は植物を育てるのが好きで、姉が育てた植物は、よく見るものよりも、大きい花を、たくさん咲かせるのです。父は、それを神様のご加護だ、と喜んでいたのでしたが、私は、少し不気味にも思っていました。
その話は貴族の間にも広がりましてね。隣国の有力貴族が、姉を貰いたい、などと言ってくることもありました」
それは……凄いお姉様ね。さぞかし自慢でしょう。
「隣国の有力貴族ですから、もし嫁いだのなら未来は安泰です。だけど、姉はそれを拒みました」
あら? 拒んでしまったの?
「その貴族の領地は、姉の望む農業が発展したところではなく、鉱業が発展していたからです。
もちろん姉は、この縁談の意義を理解していたと思うのですが、それでも拒みました」
人気者は大変なのね。
「まあもとより子爵家には出来すぎた縁談でしたし……」
そう言って苦笑いをしている。
もちろん、出来すぎた縁談を断ることには賛成よ。そういうことは身を破滅させるもの。
「その姉は、子爵領と王都の間の移動の際、魔物に襲撃されて死んでしまいました」
あら……だから過去形だったのね。
けれど、これがどうトラウマになるのかしら? もう少し詳しく伝えてほしいわね。
「これだけだったら別に普通の話だと思います。ただ、姉の最期の戦いが……
……これは生き残った護衛から聞いたことなのですが、姉は最期の戦いで、自分を囮に使うように、そして危険を顧みずに、剣を振るったそうです」
あら? 剣が得意なのかしら?
あとで聞いてみましょう。
「その時は、縁談でゴタゴタしている最中でしたから……それに父は姉の意思は尊重していたとはい、縁談を推している方でしたから、そんなふうに自棄になって戦ったのは自分のせいだったのではないか、と後悔しているのです」
さぞかし辛いでしょうね。自分のことを責めるということは存外大変なことだもの。
その苦労を感じているのが自分だけなら……周りからの同意も得づらいもの。
わたくしは……他のことをやることで、何とか誤魔化している最中だし。
……意外とちょうどいいタイミングでの話ね。
わたくしと似たようなことをしている人に出会うなんて。
「まあそうやって責めるだけなら構わないのですが……」
ん? 話の先が見えないわね。他にも何か問題があるのかしら?
「その後から父は悪夢を見るようになりましてね。寝言で、『セイル』や、『すまない』などと言っているのです。父もそのせいで寝不足になるようになって……
今回依頼したいというのは、この悪夢への対策です」
悪夢を見ないようにさせる。
これは確かに大変そうな依頼だわ。この依頼は話を聞く状態にしていて良かったわ。受けたところで解決できるようには思えないもの。
『お姉様は剣を扱うのですか?』
「はい、姉は魔術が本当に少ししか使えなくて……それに私達の家はもともと剣に秀でておりますので」
へえ、そうなのね。
セイル・カーソンは、植物を元気にさせる、魔術が苦手で剣が得意。
……何か、引っかかるわね。
似たようなことをものを先日聞いたような気がするわ。
………あ! 思い出したわ! 昨日の光との会話よ! これってまさに……
「聖女の条件……」
メリー・クリスマス!




