76.クランは、森にて活躍する
彼らを帰らせてすぐかしら、魔物の気配を感じたわ。
そこに向かっていくと、ちょうど彼らと、デストロイヤー……破壊の王との名称で知られている魔物がいたわ。
「水よ、火を消せ!」
「土よ、貫け!」
うーん、頑張ってはいるのだろうけれど……彼らの方が少し分が悪いかしら? それも仕方のないことかもしれないわね。退路を防がれているもの。これは……少しくらい手助けしたほうがいいわよね?
魔法だと被るし、剣で対抗しましょう。
デストロイヤーは四足歩行。そして、その尻尾は木々を倒す。
これは尻尾が邪魔ね。切り落としちゃいましょう。
一閃!
「ぐげああああああああああああ!!!!!!!」
下品な鳴き声ね。もっとましな鳴き声もあるでしょうに。
「さっきの人!? ありがとうございます!!」
「どうしたしまして! 頑張りなさい!」
「「「はい!!」」」
うん、いい返事ね。
「土よ! 貫け!」
善戦はしているわね。だけれど、まだまだ足りないかしら。
次狙うとしたら……足のどれかよね? バランスを取りにくくなる後ろ足を切りましょか? わたくしも魔物の後ろの方にいることですし。
一閃!
うん、魔物も大変ね。けれど、これで彼らでも倒すことが出来るんじゃないかしら?
……。長いわね。20分くらい経っているわよ。
あとちょっと、急所に攻撃を当てたら終わるというのに、勿体ないわ。
そして5分が経過。
……ようやく終わったわ。
それを確認して、わたくしはさっさと去ることにした。
「お礼、言えなかったな……」
「助けてもらったのにね……」
「けれど! あたしたちなんかが助けてもらったとはいえ、デストロイヤーの討伐だよ! すごくない!?」
「だがな……」
「……」
「……」
「まあ、行っちゃったし、とりあえず素材でも解体しようか。無駄にする方が勿体ないもんな」
「それもそうだね……」
「あたし、お母さんに言って、情報を集めてもらう!」
「それはいいな、女子は服とか買うから情報も集まりやすいだろう……そうなると俺は親父だな」
「バンダ商会がやるなら僕はすることがないね……」
「大丈夫だって、スレーダは人望があるんだから」
「そうだよ、安心しろ!」
「そうかな……」
「そうに決まってるよ!」
さて、ここらへんでいいわよね?
「光ー!!」
「はあい」
「あ、来てくれたわ」
「久しぶり。呼ぶのが遅かったね……」
「あら、ごめんなさい。最近は用事がたくさんあって、中々一人になれなかったのよ」
「うん、知ってる。だけど、心のところに遊びに行っていたらしいじゃない」
あーそれは……
「不可抗力というものよ」
「事情は心に聞いたけれどさ」
「あ、そうなの? 良かったわ」
暇なのね。
「それで? 今日は聞きたいことがあったんでしょ?」
「あ、そうそう。えーっと……なんでこんなにも聖女が少ないのかが気になるのよね」
「あー、そうなっているらしいわね」
「やっぱり違うの?」
「そうよ。細かいことは言えないけれど、少なくともそれ以上はいるわ」
やっぱりわたくしが知れないこともあるのよね。
心とか土とかを見ていると、神々には機密ってものがないのかしら? なんて思ってしまうことが多いのよね。少し安心したわ。
「それじゃあどうして発見されないのかしら?」
「これは、聖女を作った私たちに原因があるんだけど、聖女は、その魔術を使うことによって、聖女だと他の聖女に認識されるようにしているの。そうじゃなくても、力の強い聖女のまわりは実りが良くなることもあるらしいけれど、それは強い聖女だけだから」
「あーそれは見つかりにくいわね」
「そういうことよ。まあ皆そのおかげで賭けて遊んでいるんだけれど……クランのときは土が勝ったんだよね。お陰で聖女を選ぶのを土に一回させる羽目になっちゃった……」
なんか、聞かないほうが良いことが聞こえた気がするわ。聞かなかったことにしましょう。
「あと2つくらい気になることがあるのだけど、いい?」
「いいよ〜」
「わたくしは、魔力がたくさんあるから力が強めの聖女なの? それとも別で、聖女として強い方なの?」
「あー……ほんっとうにごめんなさい! 実は……後者の方なの……」
笑えない冗談ね。
「しかも、前者の方の効果もすこ〜しついてくるから、トリプルで……」
もっと笑えないわ。
それは、あんなに光が謝ってくるだけはあるわね。
「そう……、ただ、謝罪は前回受け取ったもの。気にしないわ。あと一つの質問は、聖女が精神的な病に治癒をかけたらどうなるのかしら?」
「精神的な病かぁ……。それは場合によると思う。ただ、その心理的な病そのものは治せないけれど、その心理的な病による疲れとかいうのは一時的になくすことはできるわよ」
なるほどねぇ。じゃあやっぱり事情を聞いてみないと分からなそうね。
明日を楽しみに待つことにしましょう。
「ありがとう、光。聞きたいことはこれだけよ。今日はもう夕方だから帰るけど、また時間があるときは四でもいい? かなり先になるかもしれないのだけど……」
「もちろんいいよ!」
「ありがとう。……今日はこちらが質問するばかりで悪かったと思っているわ」
「気にしないで。私がしたミスよりははるかにささいな出来事だから」
……うん、まあそりゃあそうよね。
神々にこういう会話をしている時点でこうなるのは想像のつくことよね……
「お帰りなさいませ」
「……ただいま。ご飯は?」
「準備できています」
「分かった」
そして、今日も、恒例となった「約束」をする。
「おやすみ」
「おやすみなさいませ」
夜は、普通にすぎていった。




