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71.クランは、皆の訪問を受ける


――コンコン


「こんにちは」

「お見舞いに来ました〜」


 誰かしら?


「どちら様ですか?」

「アナ・セントニアです」

「ソラレーラ・ミアンナです」

「メリーナ・セントニアです」

「……あ、えーっと、ノアです」

 

 ん?

 これは‥…一体どういう組み合わせなのかしら?


「それで、何の用で?」

「お見舞いに……」

「ちょっと用事が……」

「手紙を届けに……」


 あら、アナの声は聞こえないわね。アナはメリーナかソラレーラと一緒に来たんでしょうね、きっと。


「クラン様はどうされていますか?」

「部屋で過ごしておられます」

「あのー……体調はどうなのかしら? 朝は学園にいたようですけど」

「体調は特に変わりは見られません。私にも食事以外会ってくれず……」

「そうなの……大丈夫なのか?」


 あぁ、この声はソラレーラだ。アナとメリーナだけでなく、ソラレーラも来てくれたなんてうれしいわ。だけど……


「え!? なんでこんな大物が……」


 この声は……ノアかしら? 


「あなたは?」

「ノアといいます。クラン様に手紙を届けに……」


 申し訳ないわ。みんな、わたくしのためにこんなことをしてくれているのね。


 わたくしは……学園に行くべきかしら? また人の人生を変えるかもしれないことを起こしてでも? やはり、そうは思えないわ。

 そう考えている間も、話は進んでいく。


「かわいい~」


 この声は、メリーナ? 


「えっ?」


 ノアが言われたのかしら? 戸惑っているようね。


「うんうん、かわいいね」

「なんでクランちゃんは休んだの?」

「それが……私にもわからず……昨日の休みは、急に一日出かけていて……」

「出かけていた? どこへ?」

「分からないんです」

「そう、大変なのね」

「そうなんですよー」


 え? 大変に思われているの? 悲しいわね。


「手紙は渡せましたし、私は帰ります」

「え~」

「気を付けてね」

「気をつけなさいよ」

「はい! ……恐れ多い……」


 どうやらノアは帰ったよう。


「私はこれをお嬢様に渡しに少し戻ります」

「待っておきます」


――コツコツ


 足音が近づいてくる。


「お嬢様、話は聞こえているでしょう。手紙、置いておきますよ」

「ええ」

「じゃ、そういうことで」


 手紙は後で取りに行こうかしら? 


 今はまだ話を聞くことにしましょう。


「お待たせしました。立ち話もなんですし、中へどうぞ」


 え? いつのまにそれを決められたの!? わたくしは何も聞いていないわ! 


「いいのですか?」

「ええ、お構いなく」

「分かりました。ほら、アナも入りましょう」

「えっ……わたし、帰ろうかしら?」

「だめだよ」

「え~……」


「お邪魔します……」

「失礼します」

「どうぞ。初めに私から質問してもよろしいでしょうか?」


 サリアが質問? 一体何をするのかしら?


「ええ、いいわ」

「ありがとうございます。学園では……お嬢様はどのような様子なのですか?」

「クランねぇ、まああんまり人とは関わらないわよね

「やはりそうですか

「あ、でも、交流戦の帰りからは結構話してくれたよね?」


 アナ……気づいていたのね。予想はしていたけれど、それが本当に伝わっていたんだと思うと嬉しいわ。


「確かにそうかも知れないな」

「え? そんなことあったんだ」

「そうだよ」

「私も用事を伝えて早く帰ろうかな」

「え?」

「実は、クラン様に仕事の仲介を頼もうと思っていたんだよね」

「そのことを伝えればいいんですか?」

「はい」

「分かりました。お気をつけて」


 仕事の仲介……聖女のやつだわ。そういえば、その仕事もしないといけないわね。やることはたくさんあるのに……


「わたしたちもクランがとりあえず体調不良じゃないことが分かったし、帰りましょうか」

「そうだね」

「お気をつけて」


 そして、2人は……4人は帰っていった。



 ノアの手紙をノロノロと取りに行く。


「あったわ」


 えーと、どんなことが書いてあるのかしら? 


『クラン様へ


 お元気ですか? クラン様がいない教室はとても寂しいです。クラン様は今まで休んできませんでした。

 そんなクラン様が休むのですから、何か事情があるのでしょう? だけど、寂しいのです。私は、クラン様に憧れていますから。だから、クラン様がいてほしいと願っています。


 昔、孤児を守るために、それでも人を死なせないように攻撃したクラン様を尊敬しているのです。確かに孤児は守れなかったかもしれません。それでも、私はそれを見て孤児院に行こうと思えました。あのままだったら私は死んでいたかもしれません。その点で、クラン様は少なくとも私は守ってくれたのです。


 ラーネカウティスクを一人で討伐してくれたとき、孤児を守ったクラン様を思い出しました。


 そして、交流戦、クラン様の活躍はとても素晴らしいものだったと聞いています。クラン様は、私たちの誇りです。交流戦でのクラン様の活躍を聞いた生徒たちは、クラン様に会いたがっています。会わなくてもいいです。姿を見せるだけでもいいです。どうか、学園に来てください


 クラン様が、学園で楽しく過ごせますように』


 そして、その下には、何人もの人のサインがあった。


 わたくしが学園に行くことを、望む人がいる。


 それに気づけたのは、ノアと……皆さんのおかげだ。


 だけど……まだ怖い。皆さんはまだわたくしが根本的な原因だったと気付いていない。

「約束」をしないようにすれば……学園に行けるかしら? 

 だめ、それでは騙していることになる。


 あぁ……どうすればいいの? 


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