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69.クランは周りを想い、心を塞ぐ

 

「ただいま帰ったわ」


 あのあと、リルトーニア森からまっすぐ寮に帰ってきた。


「おかえりなさいませ、お嬢様。いったい1日の間も何をしていたのですか」

「内緒よ、だけど危険なことはなにもないわ。安心して」

「それに関しては心配は多少しましたが……まあお嬢様なので。そうそうに手紙も置いていただけましたしね」


 あら? これって感謝されているのよね? それなのにサリアの目が怖いのだけれど……


「いったいこの手紙は何なのですか? 急に現れて驚いたのですよ?」

「あぁ……それは……」


 何でしょうね? 神様に頼んだなんて言えるわけがないし……


「魔術よ」


 うん、いい言い訳を思いついたわ。今度からも使えそうな言い訳を思いつけたなんて、なんと幸せでしょう? 


「はぁ……」

「驚かせたのなら、今度から玄関前に置くことにするわ」


 2度とそんな機会はないと思いたいけど。


「そういう話じゃ……しかもこんな高級な紙。もったいないと思わないのですか!?」


 えぇぇ……そこなの? 


「それしかなかったんだもの、仕方ないわ。しかもわたくしの家は公爵家よ? それくらい……」

「これは滅多にお目にかかれないほど素晴らしい紙ですよ!? お嬢様はわからないのですか!?」

「えぇ」


 わたくしも何も……普通の方はわからないと思うわ。

 しかもその紙……そんな丁寧に心は扱っていなかったもの。分かるわけがないわ。


「はぁ……分かりました。ではいったいお嬢様は何を教えてくれるというんですか?」

「そうね……1日出かけてたこと?」

「そんなの言われるまでもなく分かるじゃないですか!? もっと何かないのですか!?」


 何かと言われても……


「何もないわよ」


「はぁ……分かりました。次の質問に行きましょう」


 まだ次の質問があるの? サリアも大変ね。


「一昨日、お嬢様が起こした騒ぎは何なんですか?」

「騒ぎ?」


 何のことかしら? 


「違うのですか? 先生と約束をしたとかしていないとかで騒ぎになったとか……」

「あぁ、わたくしは騒ぎを起こしていないわよ。巻き込まれただけよ」


 ……そんなこともあったわね。何で今まで忘れていたのかしら? 


『じゃあ地上でも頑張ってね』


 ふいに心に言われた言葉を思い出した。

 そう、その時の心は、悲しい笑みだった……


 まさか……心が何かしてくれたのかしら? 


 そういえば……孤児院の時も、心はわたくしの記憶を消してくれる手助けをしてくれたわ。きっと今回もわたくしが、楽園で嫌な思いをしないように気を使ってくれたのでしょう。


――心、ありがとう。お陰でとても、気が楽になったわ。また、前を向くことが出来そうよ


心が、この出来事を覗いている気が、した。


「お嬢様が原因だそうではないですか」

「……そうかも知れないわね。ところで、早く寝たいのだけどいいかしら?」

「私はまだまだ言うべきことがたくさんありますが?」

「今度聞くわ。今日は見逃して。風呂は魔術で済ますから大丈夫よ。おやすみなさい」

「お嬢様!  ……はぁ。おやすみなさいませ」


 部屋に戻った。

「約束」は、心からの「約束」以外は消えた。……そういえば、わたくしは1つ以上の「約束」をしなくてはならないのよね。


 さっき、わたくしはかなりの会話をしたわよね?

 あの中に、「約束」になるものはあるかしら?

 ……分からないわ。


 けれど、エレナと複数「約束」をしていてもおかしくはないわね。


『じゃあ地上でも頑張ってね』


 これへの返答も「約束」かしら? そうなら明日までは無理に「約束」しなくても大丈夫そうね。安心したわ。

 意外と、あの方法を使わなくてもできるかもしれないわ。

 けれど、一度サンウェン様にも会っておかないといけないわ。あの方は嘘をつけないのだから。


 でも……会いたくないのよね。

 無駄な「約束」をしてしまうことが……怖い。

 また、誰かの人生を変えそうになることが、怖い。


 ……わたくしに、責任が来るかもしれないことが、怖い。


 わたくしって臆病者だったのね。

 今まで勘違いしていたわ。


 どうしましょう? 手紙でも使おうかしら? 手紙でしたら必要だと思うこと以外話さずにすむわ。

 ただ、それで「約束」できるとは限らない。


 どうすればいいのでしょう? 

 今は……わたくしのことを聞かれることはないと思うわ。だけど、それでいいとは言えない。

 セルアン先生の件で学んだ。もう終わったことだと思っていても、わたくしが活躍したりすることで変わることがある。

 だから、何かがあるかもしれない。



「お嬢様、朝ですよ!」


 朝か……

 学園……行きたくないわ。でもサンウェン様には会わないと。

 もし、サンウェン様が誰かに聞かれてわたくしのことを答えてしまったら、サンウェン様はきっと自分を責めるでしょう。

 だったら……



「サンウェン様はいらっしゃいますか?」

「私だが、何の用だ? というかお前、昨日休んでいたが大丈夫なのか?」

「えぇ、体調は問題ありません。実は、あの件についてお話したいことがありまして……」


 あぁ、こんな会話もしたくない。


「分かった。場所を移ろう」

「はい」


 そして、場所を移ることにした。


「それで、何だ?」

「実はわたくし、この前の件により一回『約束』をすべて……ほぼすべてリセット致しまして……」

「まて! そんなのどうやってできるのだ?」

「内緒ですわ」


 あぁ……こんな会話も煩わしい。


「それなので、サンウェン様とまた内緒にしてもらうという『約束』をしていただこうと考えまして」

「分かった。言わないといえばいいのだな?」

「それはそうなのですが……期間を設けようと思いまして……」

「あぁ、この前のセルアン先生のように事情が変わる場合があるからな。いいだろう。2日ぐらいか?」

「えぇ、それでお願い致します」


 実際はセルアン先生の件のせいではなく、「約束」のせいなのだけど。


「ではまた」

「あぁ、またな」


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