67.クランはエレナに翻弄される
「ねえクラン。今日はこの楽園に残ってくれない?」
「え?」
「実は今さ、かくれんぼしているんだけど……」
「ちょっと!? 今、かなり重要なことを言ったわよね?」
かくれんぼしているってことは……誰かがこの楽園にいるってことよね?
「えーそうかなー?」
「誤魔化さないで。……そんな中、わたくしの用事に付き合ってくれたのはありがたいけど……」
「そうでしょ?」
「それで?」
「いやー、やんちゃな子で困っているんだよねー。かくれんぼしているから僕は出ていくことは出来ないし、手伝ってもらおうかなーって」
「嫌よ。せめて何かと交換条件にしてくれないかしら? ……ってあら?」
「どうしたの?」
「鬼ごっこじゃなくてかくれんぼなの?」
「だって隠れているからね」
「じゃあ何でわざわざ鬼ごっこだって言ってきたのよ」
確かにあれはかくれんぼな気がするけど……一応鬼ごっこと名付いていたはずよ。
「だってさー、かくれんぼだったらみんなやる気出さないんだもん」
「あら、わたくしはやる気を出すわよ?」
「クランは例外だよ」
「酷いわね。あ、そうそう。それで、何か交換でくれるの?」
「えー……」
「じゃあ交渉は不成立よ。帰るわ」
「ちょっと待ってよ。内容は……また今度考えるから」
信用できるかしら?
「『『約束』……って心には効かないのよね? どうしましょう?」
「僕は心の神だよ? 心優しい神様何だから安心してよ」
「無理よ。世界を暇つぶしで作るような人たちに心優しいもあるわけないわ」
「あるからそう言っているの」
「はいはい。そういうことにしてきましょう。そう言えばこんなところにいて見つからないの?」
「うん」
あら?
「心は影に隠れるんじゃないの?」
「あの子の影に隠れるのは飽きちゃった」
「珍しいわね……イメージだけど」
「珍しいよ」
「そうなのね。大変そう」
「そうなんだよ! だから手伝ってよ」
「嫌よ」
面倒くさい気しかしないわ。
「今度なにかお願い聞くから」
「無償で?」
「うん!」
それだったら……
「つまり、今回のように『約束』を消したいというのも叶えてくれるのね?」
「うーん……まあそうするしかないか……」
「分かったわ。手伝ってあげる」
「本当!?」
「その代わり心も言ったことはちゃんと守ってよね」
「分かってるよ」
なら……良くはないけどいいということにしておきましょうか。
「ちなみに連絡は……」
「出来ないよ」
「えぇ……心配かけるのはちょっと……」
サリアが怖いのよね。
「まあいいか。紙なら送ってあげる」
「ありがとう! 助かるわ」
「あ……それをお願いにすれば良かった……」
あ……危ないわ。せっかくの神々にお願いできる特権を使ってしまうところだったわ。
「助かったわ。ありがとう、心」
「うー……どういたしまして……」
「で、どんな人が今ここに来ているの?」
「やる気がないくせに能力はある女の子」
「あぁ……面倒くさいパターンね」
「さらに、せっかく楽園に来たというのにずっと昼寝している」
あらら……
「遊び甲斐がないのね」
「そういうこと! だから、ちょっと話しかけて、一旦かくれんぼは終わりって……いや駄目だ。話し相手になってきてくれない?」
「え? かくれんぼは終わってもよくないかしら?」
「ダメダメ。僕が自分に課しているルールだから。今日が4日目で、あと2日間、触られない限り、隠れておかないといけないんだけど……」
「あらら……大変ね。で、協力するのは1日だけでいいのかしら?」
「うん」
「分かったわ」
『一日、少し出かけるわ。学園に休みだと伝えておいて』
そう書いた手紙を送ってもらった。
「クランがここにいる間は地上のことを忘れられますように」
心がそう呟いたのは、心しか知らない。
そして、その後心は影に隠れた。
「あ、いたわ!」
草原で寝転んでいる女の子を見つけた。
「だれ?」
「わたくし? わたくしは……」
まあ本名を言ってもいいかしら?
「クラン・ヒマリアよ」
「え?」
あら? 何か驚かれるようなことがあったかしら?
「知っているの?」
「うん! だって私、フィメイア王国の貴族だもん!」
「名前は?」
「エレナ・モンテーナよ」
……。
「ごめんなさい、分からないわ」
もともとそこまで覚えているわけでは無いのだけど……
「うん、知らないと思うよ。子爵家だし。しかも私は次女だし」
子爵家か……じゃああまり知らなかったことを気にする必要はないわね。
「そう言えば、なんであなたはここにいるの?」
え……どう答えましょう?
「秘密よ」
「え〜教えてよ〜」
「そうね、あなたが心を見つけたら教えてあげる」
「本当!?」
「えぇ」
すごい食いつきようね。そんなに興味深い内容かしら?
「分かった! じゃあ探してみる!」
「そう、楽しみね。見つけたら教えてね」
エレナは辺りをゆっくり見ている。こんなもので見つけられるのかしら?
心配になってくる。
「ええっと……。見っけ! 影にいるんじゃない?」
え?
天才というものは……どこにでもいるのね。驚いたわ。驚きすぎて顔を動かす余裕もないくらいには驚いた。




