66.クランは、自分の浅はかさを悔いる
セルアン先生が保護者に絡まれているそうだ。そのことをノアが教えてくれた。
きっと、嘘をついたという話のことでしょう。関係ないわよね。
そう思ったのだけど……
「え? わたくしのことで嘘を付いているの?」
「そうですよ!」
「内容は?」
「ラーネカウティスクを倒した人物は……」
まさか!?
わたくしは前、セルアン先生と「約束」した。
わたくしがラーネカウティスクを倒したと公言しない、と。
内容は多少違うかもしれないけれど、大体こんな感じだったわ。
だから……セルアン先生はわたくしが倒したとは言えない。それに関して嘘を付いた……と言われていたら……!
「教えてくれてありがとう、ノア」
この時間に先生がいるところは……
「娘は、先生が嘘をついていると言っていますが、それは本当なのですか!?」
「嘘はついていないのだ。曖昧にしている……というか」
「なぜそうする必要があるのですか!? あなた先生でしょう!?」
職員室から剣呑な声が聞こえてきた。どうやら……間に合わなかったみたい。
「先生!」
「クラン……!?」
あら、驚かれてしまったわ。って今はそんな場合ではないわ!
「すみません、わたくしとした『約束』のせいでこんな事になってしまって……」
「約束……?」
「どういうことですか、先生」
「実は……私はクランと約束していたのです」
「どんな内容を?」
「それは先生は言うことは出来ないので、わたくしから説明いたしますね」
「あなたが? 先生は言えないそうだけど、あなたは説明できるの? つまり、一方通行の約束だったの?」
「そうですわよ? だってそのことについて知られたくなかったのはわたくしだけ。そしてわたくしは自分から広めるようなことは致しません。だから、セルアン先生そう『約束』していただければ何も問題はなかったのです」
「先生はなんでそれを守っているの?」
「生徒思いの先生なんじゃないでしょうか?」
実際は、ただ「約束」のせいで言えないだけだけどね。
「おい、クラン」
「先生はいらないことを言わなくていいです」
生徒思いに関して下手に否定されても困るものね。
「納得いただけたでしょうか? それではわたくしは戻りますね」
状況説明は十分に行ったはずよ。
この後は、先生がどう行動するか、それにかかっている。
だけど……
ああなったのって、わたくしが無理に「約束」させたせい。
そして、わたくしとの「約束」で、先生の人生が変わるかもしれなかった。
これは、紛れもなくわたくしのせいであり……
リルトーニア森に行く。
「心ー!」
呼ぶのは初めてだけど、来てくれるかしら?
……。
来ないわね。駄目だったかしら? まあ無闇に神々を呼ぶものではないとは分かっているのだけど……
その時、目の前が白くなった。
「久しぶり、クラン」
そして、気が付いたら心が目の前にいた。
そして、足元にはいろんな花が咲き乱れていた。
「心……! 久しぶり。ちなみにここって……」
「そうだよ。楽園だ」
「わたくしは確か心を呼んだのだけど、わたくしが呼ばれてしまったの?」
「うん、僕は地上に降りれないからね。ところで、今日はどうしたの?」
へぇ〜。心は地上には降りられないのね。それはきっと不便でしょうね。
「どうしたの……ってどうせ事情は知っているのでしょう?」
「まあそうだね。面白そうだったから」
「お願いがあるわ」
「何?」
「『約束』を消すにはどうすればいいのか教えてくれない」
「何もないよ」
「え?」
「何もない。じゃないと呪いの意味がないよ」
「じゃあ、何かと対価に引き換えられないかしら?」
「対価? うーん……ちなみに何の『約束』を取り消したいの?」
「サンウェン様とした聖女の力の解放以外すべて」
「それは……まあまあの個数あるね」
「そうよ」
もうどんな「約束」をしたのかも覚えていない。だから、またこんなふうになる前に一度消すべき、そう思ったのよね。
「うーん……けどクランのお願いだしなぁ……」
わたくしをそんなに特別に考えていてくれたなんて嬉しいわ。
「そうだこれから最低で一日一個は『約束』しなければならない……という僕たちを楽しませてくれる条件と引き換えなら……今回は『約束』を破れるようにしてあげてもいいよ」
「いいの!?」
「うん」
ちょっと待って。一度冷静になってみましょう。
交換条件は、最低で一日一回の「約束」をすること。
これは達成することはできそうかしら?
あ……!
これなら達成することができそうかもしれない。
「じゃあお願いするわ」
「いいんだね。じゃあ『約束』しよう」
「ええ。わたくし、クラン・ヒマリアは、これから……」
あら?
「どうしたの?」
「もしわたくしが『約束』が出来ない状態となったらこれはどうなるのかしら?」
「そんな状態、あり得るかなぁ?」
「例えば、牢屋に一人で閉じ込められた時、とか?」
「自分と『約束』すればいいじゃん」
「証人はいなくてもいいの?」
「もちろん。それは僕たちが見ているからね」
「でも……」
「分かったよ。じゃあ一日平均一個以上になるようにしてもらおうかな」
それだったら……今のうちに『約束』を何回もすれば出来そうね。
不測の事態にも対応できるでしょう。
「分かったわ。わたくし、クラン・ヒマリアは、明日から一日平均一回以上の『約束』をすると『約束』するわ」
「オッケー。じゃあ僕とした『約束』と、聖女の力の解放のやつ以外を消すね」
「うん、お願い」
「終わったよ」
「え?」
簡単すぎないかしら?
わたくしは一体今日何に悩んでいたのか……少しショックだわ。
「ねえクラン、もう一つ、お願いしたいことがあるんだけど」
「何?」
「今日はこの楽園に残ってくれない?」
「え?」




