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65.メリーナは状況を把握し、セルアンは理解できない

 

「クラン様がラーネカウティスクを倒したのですよね?」

「知らない」

「では誰が倒したというのですか? クラン様以外にありえますか?」

「落ち着け」

「先生こそ落ち着いてください。なでこんな当たり前のことで知らないなどというのですか?」


 そこで、学園長が訪れた。


「先生には、同情の余地がある理由があるんじゃ。今回は見逃してくれ」


 学園長のおかげでセルアン先生はその包囲網から逃れられたようだ。



「先生、一体何があったのですか?」


 わたしは聞くことにした。大聖堂から帰ってきたらこれだ。気にならないほうがおかしい。


「あぁ、聖女様……いや、メリーナ・セントニアか。実はな、クランのことでトラブルに出くわしてしまってな」

「クランがどうかしたのですか?」

「実は、さっきの生徒の質問に対して答えられなくなったのだ。答えようにも、知らない、と勝手に口が動いてしまってな。どうしようかと考えてたところだ」


 クラン様が? 


「クラン様が何をしたことについて答えられなかったのですか?」

「ラーネカウティスクを倒した人物についてだ」


 あぁ、クラン様がラーネカウティスクを倒したのね。まああり得るなぁ。


「言えているではないのですか?」

「今のは間接的だろう? 直接的に言われると答えられないのだ。はぁ……学園長が事情を知っていてくれて良かった……」


「それは大変でしたね」

「そうだろう……。心配してくれてありがとな」

「ではまた」


 そして、帰ることにした。

 何それ? 言うことができない? そんなもの、信じれるわけがないじゃん。


 それにしてもクラン様たちは今はジャネル学園にいるらしい。

 あぁ……。そんなことなら残っておけば良かった。そしたら監視できたのに。無駄なことをしたなぁ。

 しかも、アナもいるみたいだし。


 まあ学校行事で行っているのなら、逃げるとかはないか。


 帰ったらいろいろ仕事を与えておかないと。



「「「「「フィメイア学園、バンザーイ!!」」」」」


 みんなで歓待する。

 一部の人は見に行ったとはいえ、ほとんどの人が試合を観ていない。


 だけど、情報は伝わってきている。



 クラン様が、ジャネル学園のゼノイド・ガステリアという今までサンウェン様が負け続けていた相手に勝ったという情報は伝えられている。


 それを聞いた時の他の人の喜びようと言ったら……あれは少し引きかけた。


「クラン様以外のだれがラーネカウティスクを倒せるというのですか!?」

「先生、私たちに嘘をつきましたね!?」

「ついていない、知らないと言っているだけだ」

「だからそれを嘘と言っているんですよ!」


 先生への糾弾はどんどん強くなっていっていた。


「メリーナ様、一体何がありましたの?」


 クラン様に声を掛けられた。

 これは……伝えるべきかしら? 


「セルアン先生が嘘をついたという話よ」

「セルアン先生が、なの?」

「そうよ」

「あまり嘘を付くタイプには見えないわよね?」

「しかし実際嘘をついているもの。同情の余地はないわ」

「そうなのね……」


 クラン様は少し疑っているようだけど、全然疑う余地はない。私は知っている。セルアン先生がクラン様がラーネカウティスクを倒したと言えないことを。


 この騒ぎは少しずつ大きくなっていっていたのだ。

 だから、ついには……


「お母様に先生が嘘をついていることを伝えました!」

「そうか……え?」

「両親たちで今度先生を訴えてくれるはずです!」

「え?」


 馬鹿な先生。

 あんなに嘘をついているのに見逃されるとでも思ったのか? 

 そんなに生徒は先生に甘くないし、保護者も自分の子供を預かっている先生に対しそんなに甘いわけではない。


 ◇


 なぜ、俺はクランがやったと言えないんだ? 

 いや、理由はわかっている。クランと「約束」したからだ。だが、「約束」したからといってなぜそれを守らされている? 

 一体、何が起こっているんだ? 


「先生、どうされたんですか?」


 他の先生からも心配されている……。情けないな。


「分からない」

「分からない……って……先生らしくないですね」

「そうだよな……どうしちゃったんだろう?」


 自覚している。なのに話せない。こんな時に限ってクランはジャネル学園に行っていて聞くに聞けないかった。昨日、ようやく帰ってきたが、全然会うタイミングがない。

 そうして聞くに聞けないまま朝が来て……


「先生これは一体どういうことですか!?」


 保護者たちが怒鳴り込んできた。


「娘は、先生が嘘をついていると言っていますが、それは本当なのですか!?」


 保護者の中には平民もいれば貴族もいる。たかが1教師がどうにか出来るわけがない。


「嘘はついていないのだ。曖昧にしている……というか」


「なぜそうする必要があるのですか!? あなた先生でしょう!?」


 あぁ……そうだ。自分から教師の仕事をやめればこんなふうにはならなかったのではないか。

 そうだ、やめれば……


「先生!」


 クランか? 見ると、そこにはクランがいた。

 お願いだから、この状況を説明してくれよ!!


 本当の、心の底からの気持ちだった。


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