64.クランは移動で、一歩進む
「クラン様、またいずれ、戦いましょうね、次は魔法も剣も含めて」
「あらあら、あなたが勝てるわけないでしょう?」
「それでもだ」
「まあ機会があれば、いいかもしれないわね。……もちろんあなたが今より強い前提よ?」
「問題ありません」
馬車に乗る前、少しだけ会話した。
「「「「「さようなら〜!!!」」」」」
そんな大歓声に見送られて、わたくしたちは今、帰路についている。
「サンウェン様」
「ん? どうした?」
「何か言うことは無いのですか?」
「ん? そうだな、よくやった」
「あら、それだけなのね。ゼノイド様が負けたというのに」
「ああ、ゼノイドが負けたのは……、お前らの試合を見ていたら、私じゃ絶対に勝てないというのが分かったからな」
「あら、サンウェン様は気が弱いのね」
「あ゙?」
まあ! はしたないと思うわよ?
「強い相手にも、勝たなくてはならないのよ?」
「……わかってる」
「さっきまでの様子だと諦めてそうだったのだけれど?」
「……そうだな、肝に銘じるよ」
「それで、わたくしはちゃんと勝ったわよ?」
「ああ、報酬のことだな、忘れておらん」
「わたくしが卒業するまで有効なのよね?」
「もちろんだ」
「それは嬉しいわね。だけど……6年生になったら正直意味はないわよね?」
「それはそうだな」
「なにかオプションを付けられないの?」
「はあ? 知らん。その時に何とかしろ」
「うーん、まあ先生を使えば何とかなるかしらね。それまでに何とかしましょう」
「……こうやって制度って崩壊していくんだろうなぁ……」
「何か言いました?」
「いや、独り言だ」
「そう。……そういえば、今回は何日で着くの? 3日?」
「一応その予定だ。一度通った道だからな。もちろん油断できないが」
「それは良かったわ」
「……何を考えてた?」
「まさか、遅かったなら一人で先に行こうなんて考えてないわよ」
「……そうか」
うーん、遠い目をされている気がするわ。何故でしょうね。
「お兄様」
「なんだ?」
「お兄様はどうでした、今回の大会?」
「最後のやつ以外はいつも通りだったなぁ」
「そうなの? いつもあんなものを食べていたのね! 羨ましいわ」
「いや、クラン。まだ1回しかこっちの学園には来ていなかった」
お兄様は4年生。……確かに、多く見積もっても今回は2回目ね。
「確かにそうね」
そして、その帰り道。わたくしはアナとソレルーラに少しだけ、心を開いてみた。
二人とも喜んでくれて、だけどいつも通りで、それが心地よかった。
そして、のんびりと移動して、フィメイア学園に戻ってきた。
わたくしたちが勝ったという報はもう届いていたらしい。
そこでは、行きのジャネル学園よりも大きい歓迎を受けた。
旅は、とても順調だった。
そして、ガベストラージを倒したところまで、一行は戻ってきた。
そこには……
「当たり前よね」
「そうだな、1週間も経っていないんだしな」
何故かサンウェン様が自分に言いかけるようにい言う。何か問題でもあるかしら?
ただ、ガベストラージよりも雑魚の魔物が取り切れなかった死骸を狙って、大量にたむろしているだけなのだけどね。
肉なんて全部持っていけるわけがないし、肉よりも皮とか骨とかの部位を優先したのだからこれは仕方のないことだと思うわ。
「頑張ってくださいませ、中から応援していますよ」
「はぁ……」
まったく、王族というものには絶対なりたくないわ。こういうときに出なくてはならないのが王族なんだもの、ね。
そこらを見ると、冒険者30人ほどで討伐できるものから100人ほどで討伐できるものまでたくさんいるように見受けられるわ。さすがガベストラージね。
……そして、ここで半日ほど時間を取られた。
「遅いじゃない」
「あんなに大量にいたんだぞ?」
「この前慣れの森にいた魔物よりは少ないわよ?」
「それはそうだが、一匹あたりの強さが違うだろ」
「それがどうしました? 雑魚は多少強さが変わった程度ではどうとも無いはずよね?」
「はぁ……」
まあ、こんな事もあったわ。
だけど、この帰りで重要なのは、もっと他のことよ。
わたくし、とうとうアナとソラレーラに心を開いてみようと思えるようになったのよね。
多分、二人とも感づいているわ。
だけど、それでも今までどおり接してくれている。それが、とても心地よかったわ、
ふふ、正解を引けたわ。
少しずつ、少しずつ、「約束」せずに過ごせる人間関係を増やしていきたいわね。
そんなふうに思えるようになった。
「あ、王都だわ!」
4日目の朝……木曜日、とうとう、王都に到着した。
「「「「「フィメイア学園、バンザーイ!」」」」」
うん、壮大な歓迎ね。
歓迎においてはジャネル学園にも負けないわ、きっと。
ただ、この反応からも想像がつくけれど、とっくに結果は知っているのね。何か便利なものでもあるのかしら? 気になるわね。
そして、次の日……
「セルアン先生、私たちに嘘をつきましたね!?」
「ついていない、知らないと言っているだけだ」
一体何があったのかしら?




