60.クランはライバルと祝杯を交わす
そして、破壊実験が終わってしばらくして、3種目目が始まった。
「きゃああ! 頑張って下さい!」
「素敵ですわー!」
貴族がするとは思えない応援である。
この雰囲気、嫌いではないわね。
そしてそんな中で始まる魔術での戦い。
これは、対戦を仮想とした試合である。しかし、自分が狙われてはたまったものではない。そこで考えられたのが、中の物を自分として、どちらが先に相手のものを魔法で割れるか。そういう勝負になった。あとは…………それぞれ、1度だけ試合を1分止める権利がある。
たしかにこれなら危険はないのよね。よく考えられているわ。
この試合はジャネル学園の勝ち。
うーん、まったく対策をしていないからか、フィメイア学園は弱いわね。
そして、それからも試合は進んでいった。
「きゃあ! ザステラ様ーーーー!!!!」
「こっちを向いてください!」
「まあ! なんと凛々しいことか…………」
ザステラ・フィーセルのとき、歓声が今までにないくらいになった。これが2位の応援なのね。ゼノイド様にはどんな応援が来るのかしら?
アナは、危なげなく勝ったようであった。
ジャネル学園2位もそこまで大したことは無さそうね。
「最後は、異例中の異例、二人とも並外れの力を持った、我らが生徒会長、ゼノイド・ガステリアと、クラン・ヒマリアの戦いだー! とくとご覧あれ!」
「ゼノイド様ーー! !」
「頑張って下さーーーい! ! ! !」
「フィメイア学園に負けんなー!」
「始め!」
その一言が合図となった。
「「水よ、壁となれ!」」
まず両方とも防御した。そして相手のを破ろうと…………あら? あんまり手応えがないわ。もしかして、ゼノイド様は、力を少しなくしているわたくしと同等までにはなるのかしら?
「タイムで!」
私は声を張り上げた。
周りがざわついているのが感じられる。それはそうだ。こんなに早くからのタイム。そして今までは一度も使われなかったことで、よりざわめきが広まっていく。
さて? どうしようかしら? 考えるのよ。聖女を今解放するのは危険だ。だったらもとの力でやるしかない。あの魔物の時みたいに工夫すれば行けるかしら? まあもしものときは、聖女を使うということにしましょう。今はまだ工夫するときよ。
「問題ないです」
「では、再び。始め!」
短期決戦を狙う。長期は明日に持ち越しましょう。
「水よ、壁となれ! 水よ、反射せよ!」
二重でかける。そして…………
「火よ、焼き尽くせ!」
あの水の壁を、火で蹴散らす。薄くする。そのことを明細にイメージする。よし、行けたわ!
「火よ!」
――ガチャン
何かの物体が壊れた。これで勝ちね。圧勝かしら? まあ一時期危うかったから少しおまけのような感じもありますけど。
「勝者、クラン・ヒマリア!」
…………。
やはり他校でやるとこうなるのよね。ジャネル学園の方が勝ったときは、盛況だったのに、フィメイア学園側が勝ったらしーんとするのよね。これは交流戦ではなかったのかしら? わたくしもある程度は力を出したとは言え、交流は行っているというのにこの雰囲気。悲しいわね。
勝敗は、合計で魔術部門はフィメイア学園の勝ち。
まず、サンウェン様とアナとわたくしで、1位2位3位が勝ってしまったし、他の方も頑張ってくれたので。
順位が一つずれるだけでもかなり勝敗は変わる模様だし、わたくしがいなかったら負けていた可能性もあるわ。
そして、フィメイア学園は6年ぶりの片方の部門とはいえ、優勝を果たしたのであった。
「助かった」
サンウェン様がやってきた。
「まあサンウェン様も貢献したのですから気にしなくていいわ」
「そうか……でも礼は言わせてくれ」
まあ正しいことしか出来ないサンウェン様だったらそう言うわね。
最近思ったのだけれど、サンウェン様は口数が少ない方だ。これで王族として成り立つのか……とおも思わなくはないけど……まあわたくしも一概に人のことは言えないでしょう。
そして昨日と同じく屋台がジャネル学園の校庭に並び始めた……
「やあ」
「あら、ゼノイド・ガステリア。何の用?」
「お礼を言いにきた」
「なにかしたかしら?」
「楽しませてくれたじゃないか」
「あぁ、そのことね。けれどわたくしも楽しませてもらったわ。まさか同じことをしてくるとは思わなかったけど」
「まさかこちらが高度と精度で負けてしまうなんてな」
「ほんとまさかでしたわよね、もう少し耐えてほしかったのですが……」
「要求が高いな。だが、それは私の実力不足だ。あと、最後の試合」
「あぁ……あれは大人げないことをいたしました。申し訳ないですわ」
「いや、楽しめた。あんなに完膚にされたのは始めてだよ」
「そう、それは良かったわ。今度からはあなたも力だけではなく頭も使うことね」
「あぁ、身にしみたよ。明日が楽しみだ」
「明日は……少し寂しいわよね。たったの1試合しかないもの」
「本当にその通りだ。もっと楽しみたかった」
「まぁいずれ何処かで再開するでしょうし」
「まあそれもそうだな」
「では、これからの交流を記念して乾杯しましょう」
「そうだな。乾杯」
その時見えた景色は晴れ晴れとしていた。
ゼノイド様はきっとわたくしより感受性が強い。だったらこの仲間がいない恐怖もわたくしより感じてしまっていることでしょう。そんなゼノイド様が、その孤独から逃れることができそうになっているのだと認識しているのだけど……
わたくしが誰かの役に立てた。
そして、それが似た者だった。それが嬉しかった。




