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56.クランは自分に、無自覚すぎる

 

「「「「「ようこそ! ジャネル学園へ!」」」」」


 そんな歓待を、わたくしたちは受けた。ジャネル学園とフィメイア学園はもう100年以上にわたり、交流戦を、毎年交代交代で行っている。そして、今年がジャネル学園で行われるのだ。


「お待ちしておりました。私がジャネル学園生徒会長ゼノイド・ガステリアです。またよろしくお願いします」

「私がフィメイア学園生徒会長サンウェン・リルトーニアだ。お招きいただきありがとう。今年も楽しみにしている」

「では、明日から交流戦を始める。今日は歓迎会を行う。皆、存分にお金を使い、存分に食べてくれ」

「「「「「おお!」」」」」


 そうして、宴……いえ、歓迎会が始まった。


「こんにちは」

「こんにちは。あなたがゼノイド・ガステリア?」

「そうだ。クラン・ヒマリア」

「何か用かしら?」

「いや、顔を見ておこうと思ってね。あなたは魔術部門でも剣術部門でも一位となったらしいじゃないか。しかもサンウェン様を抜いてね」

「あら? あなたもどちらも1位ではないの?」

「そうだ。だから相手の様子を見に来た。去年までは毎回サンウェン様で少し飽いていたんだが……今年は楽しくなりそうだ」

「あら、それは良かったわ。わたくしを是非とも楽しませてちょうだいね」

「そちらこそ期待しているよ」

「うふふ……」

「あはは……」

「「楽しみね(だ)」」


 そう言って去っていった。

 一体何がしたかったのでしょう? よく分かりませんわ。

 しかし……似た者同士な気がするわね。

 これからが楽しみよ。確かに交流戦というのは面白そうかもしれないわ。


「クラン」

「あら? サンウェン様? どうかしました?」

「さっきゼノイドと話していただろう? どんなことを言っていた?」

「そうですわね。サンウェン様に関することでしたら……去年まではサンウェン様ばっかりで少し飽いていたとは、言っていた気がするわ」

「そうか……」

「あとは……いえ、サンウェン様には関係ないわ」

「なんだ?」

「わたくしと試合するのが楽しみだそうよ。きっとわたくしを楽しませてくれるのではないかしら?」

「あちらも楽しみだと言ったのか?」

「えぇ」

「そうか……」


 そんな感じで去っていった。


 サンウェンは悲しかった。自分がまったく認められていないから。そして、飽きていたと言われて落ち込みは増した。しかし、クランと試合をするのは楽しみだという。一体どういう試合を見せてくれるのか。そう思うと少しは楽しく思えるのだった。


 人が多いわ。一旦離れましょう。

 そう考えて、人影のないところへ向かう。


 ここがジャネル学園。


 ジャネル皇国首都アスナウィアンにある、貴族だけが通える学園。

 そして、今まで5年間フィメイア学園に勝っている学園。


 しかし、今見えている喧騒は、貴族が行うものとしては、騒がしい気がするわ。

 そういえば……先程生徒会長ゼノイド・ガステリアの開始の合図に皆さん「おお!」で応えていたわね。これが貴族の学校かしら? 


「おや? どうしたの?」


 知らない人物が声をかけてきた。一瞬、フィメイア学園の誰かかしらとも思ったが、見覚えがなかった。……つまり、ジャネル学園の男子生徒ということね。


「誰でしょうか?」

「私は交流戦で魔術部門2位のザステラ・フィーセルだ」

「そう、わたくしはクラン・ヒマリアよ。その様子だと、知っていて声をかけたようね」

「おや、そこまで気付かれてしまったか。そうだよ。私は君がクラン・ヒマリアと気付いて声を掛けた」

「何か用でもあるのかしら?」

「ないよ。魔術、剣術両方優れている人が、いったいどんな人物なのか興味を持ったんだ」

「それだったらゼノイド・ガステリアと変わらないわよ。毎日がつまらなくて、そして今回お互い戦えることを楽しんでいる、それだけよ」

「ゼノイドと戦うことを楽しむ……興味深い人だね」

「あら? 自分と実力が近そうな人と戦うのは楽しみではないの?」

「いや、楽しみだ。だけど、学園を背負って戦うとなると、あんまり楽しめないよ」

「大変ね、けれど多分わたくしは勝てるのよ。だから気負わずに楽しめるわ」


 今までつらい戦いというのは起こったことがないもの。

 みんな隙がたくさんあって、いつでも倒せる。……今のところは。


「それは自信満々だな。ゼノイドも似たことを言っていたよ」

「あら? ゼノイド・ガステリアも今まで本気を出せない、みたいな感じかしら?」

「そうだな。そんなことを言っていた」

「明日は魔術……まずはお手並み拝見ね。だけど、ゼノイド・ガステリアに楽しみにしていると伝えてくださる?」

「いいよ。そのお願い、私が確実にこなそう」

「ありがとう」


 ザステラ・フィーセルね。地位はどれくらいあるのかしら? 


 もうすぐ宴も終わりそうね。

 あら? この曲は……


「ただ今より、ダンスパーティーに変わります。皆さんそろって踊ってください」


 あらら、貴族の学園だしそういうのもあるかもしれないわね。

 さて、逃げましょう。


「どこに行こうとしている?」

「ユーリお兄様……」


 バレてしまったわ。


「これは交流戦。2校が交流するために行われる、そうだよな?」

「ええ、そうですわね」

「だったらお前も交流をすべきだろう? クラン」


 ユーリお兄様……まともだと一回思ってしまったけど、普通の方でしたわ。しかもサンウェン様の同類の方の。


「そうですわね」


 そうして、無理やり参加させられているというわけなのですけど……

 誘われてしまうのよね。やっぱりフィメイア王国の貴族というのは珍しいのかしら? 


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