53.クランは、まさに無双を体現する
本日は、魔術の部が行われる。
今回は、対戦形式ではない。いえ、これも対戦形式ではあるのだけど、直接的な対戦ではない。何かをやって、それの記録で順位をつけ、上位10人が選ばれるのだ。
まずは、遠距離の的当てが行われた。
わたくしの出番は後半の方。
「サンウェン様ー!!」
「きゃぁあーー! アナ様よ!」
「クロバート様もいるわ!」
そして、同じ生徒会役員だというのにわたくしには何も無い。
ちょっとあからさま過ぎないかしら?
まあ、その3人を参考にすればよいでしょう。
どうやら、3人とも、一番奥の的を狙っているよう。
1発目で、その手前を狙い、出来たのを確認してから、2,3発目で一番奥を狙っている。だけど、当たっていないようね。
「クラン、お前は一番奥を狙え」
「……はぁ。そしたらこの競技では1位ですわよね?」
「当たり前だろう」
「分かりましたわ」
出番が回ってきた。
「水槍よ、貫け」
ぴゅうん、ペチャ。
まずは一番手前のものを。
「水槍よ、貫け」
ぴゅうん、バキっ。
そして真ん中にある的を。
的が壊れてしまったけど、まあ仕方ないわよね。最後の一番奥のやつでもきっと壊れてしまうでしょう。……少しぐらい気を付けましょうか。そりゃあある程度の速さは必要だけど、ちょっとなら勢いは衰えると思うわ。
「水よ、飛んで行け」
びゅうん、バリっ。
あらら、当たってしまいましたわ。それは予想通りなのでいとして、割れてしまったわね。それもかなりの勢いで。こんなところまで聞こえてくるなんて。いったいどんなふうに砕けたのでしょう?
まあ仕方がないわよね。
「後の方、ごめんなさいね。2つの的が壊れてしまいましたわ。どうしましょう? 最後の的を狙う方はいらっしゃる?」
全員に首を振られた。
「では問題ないわね。良かったわ」
……あの的はとても頑丈なもので出来ていた……はずであった。
そして次の種目。
今度は命中度ではなく、威力が試される。
つまり、壊してもよいということよね? 楽しそうだわ。
というわけで競技が始まった。前の競技の的とは違って、今回はいくつも予備が用意されているみたい。これなら心置きなく楽しめるわ。
「水槍よ、貫け!」
「火よ、焼き尽くせ!」
「土弾よ、ぶつかれ!」
いろんな魔術が使われているわね。
土って面白そう。土を協力に固めて、それで物を壊すのかしら?
パリン!
あぁ、駄目だわ。物体ではなく放ったほうが壊れているじゃない。
さて、わたくしは何で物体を壊しましょう?
3回試せるみたいだから……
風そして面白そうな土。それで駄目だったら火をぶっこみましょう。
「サンウェン様ー! 頑張って下さい!」
「アナ様ー!! ぜひ優雅なお姿を!」
「クロバート様ー!」
相変わらずわたくしには声援が来ないのね。別にいらないけど、差別されているのは悲しいわ。
サンウェン様、アナ、クロバート様は上から2番目くらいで困っていた。でしたらわたくしはそれを狙いましょう。
「風よ、高くまで運べ!」
風で物体を高く高く上げて……
「解除!」
バリーン!
砕け散ったわ……
そして……それが落ちてきた机……ボロボロね。
「あわわ……」
何やら先生方が忙しそうに動いているわ。まあいいでしょう、次の物体を壊しましょうか。
そうね、さっさと火で終わらせましょう。
「火よ、貫け!」
がッ
一体何の音かしら? そう言ってよく見ると、その物体が貫通していた!
「「「おいおいおいおい!」」」
「馬鹿げてんなぁ」
あら? 初めて声援が来ましたわ。名前は呼ばれていませんけど。
さて、では土で完全に潰しましょうか。
「土の棒よ、貫け!」
土を凝縮させて、硬い細長い物体にした。
ガン!
さっき開けた穴を中心に、綺麗に真っ二つになっていた。
「「「「え?」」」」
「「「「「「すげぇー!」」」」」」
あら? なぜかは分からないけど認められたようね。
先生たちは焦りながら次の物体を準備している。
「水槍よ、貫け!」
皆それぞれで奮闘しているよう。
第三種目。対魔物戦。
魔物を倒すまでのスピードを競う競技である。
まあ瞬殺すれば、1位になれるのよね?
そういうわけで競技が始まった。
皆に準備された魔物は……コンクルート。
「大変ね……」
「は? 何がだ?」
サンウェン様に声をかけられた。
「先生方よ。コンクルートはあまり見かけるわけではないのにそれを探して、捕まえここまで持ってくるなんて……」
この前はコンクルートを特別に用意したとか言っていましたのに。
「あぁ。そのことか。それなら王宮も協力している」
「なるほど……。しかしそんなにコンクルートを狩って問題ないのかしら?」
「問題ない。大体第三種目目までには一回選別がなされているからな」
「そうだったの?」
「あぁ、あまり実力がないものは除外している」
「そうなのね。だったら納得だわ。ところで、サンウェン様はどれくらいで倒すのかしら?」
「もちろん一撃だ」
「そう。情報提供ありがとうございます」
「? これだけでいいのか? じゃあまたな」
アナ様がすごかった。その前にサンウェン様がしたのだけれど、それよりも速いのが、見てるだけでも分かった。クロバート様は……サンウェン様より少し遅いくらいじゃないかしら? そう考えるとサンウェン様って凄いのね。剣も魔術も一流並みだわ。
そして出番が回ってきた。
「火よ、焼き尽くせ」
あら一瞬。きっとこれはアナより速いわね。
結局選ばれたのは、サンウェン様、アナ、クロバート様、わたくし、そしてその他6人であった。
「あのクラン・ヒマリアめ……」
「綺麗に優勝かっさらいましたね」
「何なんですのあのデタラメな実力は。しかもサンウェン様にも勝るという!」
「そう言えばサンウェン様とも親しげに話していたわ」
「「「クラン・ヒマリア。許すまじ」」」
「クラン様凄かったわね!」
「えぇ、サンウェン様ともお親しげに話していたわ。優秀な者は優秀な者でつるむのね!」
「クラン様は生徒会に入られているそうですし」
「え? そうなの?」
「はい。前はサンウェン様が迎えに来られていましたが、今は普通に行っています」
「サンウェン様が!?」
「「きゃあーー!」」
「羨ましいわ」
「そうよ!」
「ですけど……」
「実力があるのは本当なのよね……」
「「「うーん……」」」
「流石クラン様……とでも言っておきましょうか」
「ですわね! 流石ですわ!」




