50.メリーナは、報告を無事に終える
フィメイア学園は居心地のいい場所だった。
アナと同じクラスにもなれ、昨日はとうとう聖女を見つけた。
途中には、いろいろあったけれど、結果的には上手くいったんだから、大聖女になることにはなんの問題もない。
そして、朝、クラン様に植木鉢を取りに行った。
「これで問題ないわよね?」
「……! えぇ」
驚いた。わたしがやっても少しもどるか、ぐらいの枯れ具合だったものが、すっかり元気になっている。この植物、実際は言われていないけど、あの木の一部だよね? それをこんなに元気にするなんて……。改めてクラン様の実力に恐れ入る。あの存在の大きさどおりの実力だ。
「それで、学園からは去るのかしら?」
「いいえ、残るよ。せっかく入ったし、アナもいるもん」
「では報告はどうするの?」
「1,2週間出かけようかな」
「そうしなさい」
クラン様は、人と関わることを嫌う傾向があるけど、本性は優しそうだ。この前も孤児を救えなかったことを悔やんでいたし。
「報告はとある人物でお願いするわよ。わたくしが関わっているなんて言わないでね」
「もちろん。それくらいは理解しているよ」
無意識な「約束」が行われた。二人はもちろん気付いていない。
「サズザン、一旦帰るわよ」
「よろしいので?」
「えぇ、聖女の知り合いを見つけたの。これからは彼女が連絡してくれるわ。そして、あの植木鉢も治癒してもらったの」
「それは良かったですね。大聖女に一步近づいたのでは?」
「そうだといいわよね」
この前は急いだから3日でついたけど、今回は特に急ぐ用事はなかったから5日ぐらいかかって大聖堂に着いた。
それにしても、クラン様はこの木をこんなにも治癒できるんだ。すごいなぁ。
そして、それを見つけたわたしも……
そう想像して、少し、気分がよくなった。
「ただ今戻りました」
大聖女様と教皇様に挨拶する。
二人とも、神殿の中でそれぞれ聖女として、神官として、最も権力が大きい人物である。
「して……植木の中身はどうなった?」
「この通りです」
そして植木鉢を見せる。
「まぁ!」
「これは……驚いたな。人物は……特定できたか?」
「出来ませんでした」
「では……これは誰がしたのだ?」
「その聖女様でございます」
「どういうことだ? 説明せよ」
もとよりそのつもりだ。
「その聖女様はとある人物の知り合いのようでした。そこから彼女に頼んでこれを行ってもらったのです」
「その人物は……誰だ?」
クラン様です。そう言おうとして気がついた。喋れない。
「……」
「誰だ?」
「学園に通っている者です」
「名を聞いておる!」
「言えません」
なんで! 言い訳を考えなきゃ!
「なぜじゃ?」
「そう『約束』をしました」
もう、よくわかんないけど、これしか思いつかないし……そうするしかないか。
「ほう。そういえば……お主はフィメイア学園に通い始めたそうだな?」
「はい。妹もいますので。仕事もできますし。聖女との橋渡しも出来ます」
「なるほどなるほど。では聖女の話に戻ろう」
「何か質問でも?」
「わたくしは聞きたいわ! どうやってこんなにも元気になったの?」
「わたしも知りません。きっと……教えてくれないでしょう」
「そう。わたくしはいいわ。教皇様、どうぞ」
「存在は感知できぬのか?」
「一時的に感知できましたが、今は……」
「そうか。こんど大聖堂に連れてこれぬか?」
「出来ないことはないでしょうが……断られるかと……」
「ふむ。それではどうしようか……。また、何かできそうなことがあれば連絡する。それまでは、あちらで聖女業務に励んでもらえ」
「分かりました」
満足だった。クランの名を伝えることは何故か出来なかったけれど、存在とその威力は知らしめられた。わたしに功績は付くだろうし、聖女全体の株を上げることにもなる。
そうだ、他の聖女たちにも会いに行こう!
「ただいま!」
「メリーナ! おかえり」
「おかえりなさい」
大親友のネレイア、マクエニに出会うことが出来た。
「今回の任務も無事に終わったの?」
「えぇ。それで、これからフィメイア学園に通うことにしましたの」
「まぁ! どうして?」
「今回は聖女を探しに行ったわけですけど……その聖女様は秘密主義でして誰かは教えてくれなかったのです。なんとかその友人を見つけることが出来ましたので、なんとかなりましたが……これからはその聖女様は匿名で活動されるでしょうね」
「大変な任務だったのね!」
毎回リアクションを返してくれるのはネレイアの方だ。
「ここにはまだしばらく滞在しますが、3日後くらいには帰ろうと思っていますの。寂しくなるから会いに来たのです」
「残ってくださってもいいのよ。わたくしたちは。でも、無理なのでしょう?」
「えぇ」
「そうなのね。また最終日もお会いしましょうね?」
「そんな…………」
「もちろんです!」
よくある青春の1ページみたいな会話をして、仕事をしにいく。
そして、2日後にも会いに行って、そして帰路についたのだった。その手には仕事をもって。
クランはこれからいそがしくなりそうだった。




