49.クランは、自分の失言を、慌てて取り繕う
時々、第三者視点をいれます(これから)
ちょっと……癖になってしまったみたいで……
放課後。
「クラン様!」
「邪魔よ」
見ていたノアは思った。私みたいだな、と。
「まあいいや、存在確認できたことだし。また明日ー」
「思ったのだけど、あなた、離れていてもわたくしの存在を感知できるのよね? わざわざ来る必要あるかしら?」
「もちろんある! 偉大な……になる方と事前に顔を繋いでおくことは重要だもん」
「そう、もうあなたの顔は覚えたのだからわたくしの信頼を得たいというのならば話しかけないほうがいいわよ」
「そんな……。少し、気をつけるね」
「少しじゃなくて完全に気を付けてほしいのだけど?」
「はいはい、じゃあそんなところでー」
そういってメリーナ様は帰っていった。
はぁ、ひとまず難は逃れたといってもいいかしらね。それにしてもどうしてメリーナ様はわたくしが聖女であることをあそこまでかたくなに信じているのでしょうか?
次の日になった。今日からわたくしは普通の人よ。そう思い、着替えを済ませ、廊下に出ると……メリーナ様がいた。そうなのね。聖女をやめたのだから、メリーナ様の気配を感じることもこれからはないのね。
「なぜいらっしゃるの? 昨日、話しかけない方がいいと忠告したわよね?」
「はい。だけど状況が変わったので。あなたから聖女の気配を感じ取れなくなったから」
「そう。それはおめでたいわね。きっと感覚が正常に戻ったのよ」
「いったい何をしたの?」
「何もしていないわ。昨日帰ってから今日まで、わたくしはメイドの……サリアとしか喋っていないわ」
「ではそのメイドが何かをしたの?」
「思い出しなさい。あなたが一回目に正常に戻った時、わたくしは学園にいたのよ。サリアが関わっているわけないわ」
「そうか……どうしよう?」
そういったきり、黙ったメリーナ様は、しかし何かを思い出したよう顔を明るくする。
「自白はもらいました。あとはこれを大神殿に伝えるだけよ」
どういうことかしら?
「わたしは聖女の存在を感知しなくなったタイミングはいっていないから。それを知っているということはあなたが聖女という事ね」
どうしましょう? まさかわたくしが失言をしてしまうなんて。
これは、どうやって逃げましょう?
考えた。必死で考えた。
「それはですね。わたくしがその方を知っているからよ。それならわたくしが知っていてもおかしくはないでしょう?」
「そういうことにしておくね。じゃあ、明日取りに来るからそれまでにその聖女の方にその植木鉢を癒してもらっていてね」
逃げることができたわ。
つまりこれからはわたくしを通してその聖女に依頼が来るということよね。覆面で皆を助ける聖女。面白そうじゃないの!
この植木鉢は……放課後、リルト―ニア森に行って、そこで治癒をかけましょう。
「サンウェン様、後でお話が」
「メリーナ聖女関連か?」
「はい」
「分かった。後で残れ」
「なんでクランばっか最近いろいろ起こしてんだよ」
うしろでヨハン様が悪態をついていた。
「それで、なんだ?」
「少しやらかしまして……メリーナ様に、聖女はわたくしの知り合いだと言ってしまいました」
「それだったら大丈夫じゃないのか?」
「このままだといずれバレますわ。その前に何か手を打たないといけませんわ」
「一体どういう状況でどうなってそうなったのだ?」
説明する。
朝からメリーナ様に会ってから、失言をしたことを含め、しかたなく知り合いを聖女だとしたこと。
「クラン」
「なんでしょう?」
「それ、メリーナ聖女にはバレていると思うぞ」
「え?」
どういうことでしょうか?
「メリーナ聖女は聖女を見つけたい。それは、任務を遂行するためだ」
「えぇ、分かりますわ」
「では何でそんな任務があるか。それは、聖女を使いたいからだ」
「そうでしょうね」
「ではお前に聖女の知り合いがいたとする。それがお前であろうが、誰か別の人であろうが、聖女を使えることに変わりはないだろう?」
「えぇ、そうですわね」
「メリーナ聖女はお前を聖女だと思っている」
「そうよ」
「だったらせっかくお前を聖女を使える機会を見逃すはずがないだろう」
なるほど……そういうことね。
つまり、バレていたということかしら?
それは困ったわね。でもメリーナ様が周りに伝えないのならこれでもいいのではないかしら?
「でしたらメリーナ様は見て見ぬふりをしてくれるということですわね」
「そうだ」
「なるほど。ありがとうございました」
ふむ。サンウェン様はやはり頭がいいわ。わたくしが気付かなかったところまで気付いてくれたもの。これからももっと利用してもいいかもしれないわ。
放課後、森に行き、治癒をかけた。今は必要な時だ、と念じて。
すると、その中にあった植物は元に戻った。しかし、周辺の草が少し元気になったように見えた。
治癒魔術のコントロールは難しいわね。
この前みたいに光は出てこなかったから、バレないでしょう。
そのころ、神殿では。
「あ!」
「どうされました?」
「リルト―ニア森のこの前の場所の近くでまた治癒魔術が使われた」
「それは! 探してきます!」
「いや、いい。今はメリーナ聖女がいるそうではないか。じきに見つかる」
「そうですか……」
そんな会話も起こっていた。




