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45.クランは無事に、メリーナと話し終える

 

 次の日。


「サンウェン様、今日は王宮に行くのですか?」

「いや、今日は行かない」


 残念ね。第一王子がいるのなら入るのがかなり楽になるのは昨日に分かりきってしまったのに。

 仕方ないし、一人で王宮に向かいましょう。方法は……馬車くらいしかないわね。それなら、御者として今回はカナンがいるにはいそうだけど……忙しいのに喋りかけるわけには行かないし、カナンはノーカンよね。


「あ、クラン様! お待ちしていましたわ!」


 王宮に少し入ったところで、メリーナ様に鉢合わせしたわ。

 まったくメリーナ様も無防備ね。兵士たちが殺気立っているじゃない。ちゃんと、安全なところにいないと、襲撃されたときに彼らに迷惑がかかるわよ?


「メリーナ様……。お迎えに来ていただきありがとうございます」

「いいえー。では行きましょうか」


 そしてメリーナ様はどんどん歩いていく。

 聖女って、こんなに自由で良いものでしたっけ……? もっと神殿に縛り付けられていそうなイメージがあったのだけど……

 ……固定観念が潰れてしまったわ。いえ、メリーナ様が例外であることに賭けましょう。


 そして1つの部屋に到着した。


「クラン様、どうぞお入りください」

「では……失礼致します」


 普通に豪華な部屋ね。王国が聖女に紹介するのだから、ある程度の部屋だとは考えてはいたのだけど、それを超えてきたわ。……とんでもないわね。公爵家とは大違いだわ。


「今日は来ていただき誠にありがとうございます」

「こちらこそ、お呼びいただきありがとうございます」


 お互い礼を交わす。


「本日はどういった御用で?」

「クラン様、堅苦しくなくていいですわよ。わたくしももとは平民ですし。あと、人払いは済ませていますから」

「そうですか。できるだけ気をつけますわ」

「そんな感じで大丈夫よ。今日はね、アナのことをいろいろ聞きたいの」


 聖女に関する話ではないのね。安心したわ。


「アナの話ね……。実はわたくしはアナと関わり始めたのはここ2,3週間のことなのよね。だからそんなに話せるわけではないわ」

「そうなの? ええと……二人は生徒会で関わっているのですよね? クラン様はどういう経緯で入ったの?」


 勧誘されたときのあれやこれやを思い出す……


「あれは……何でしょうか。脅された、といっても間違いではないような気がしますわ」

「一体何があったのよ……」

「わたくしが逃げられないように追い詰めてきたのよ。教室からはやく帰って逃げた日の次の日は寮の前で待ち伏せされたり」

「まあ……だれがそんなことを?」

「サンウェン様よ」

「それは……。クラン様の子供の頃とか聞いてみたいですわ」


 あ、話が変わったわ。

 流石に気まずい話題だと理解したようね。聡明で感心できるわ。


「アナの話はいいのですか?」

「えぇ、それよりもあなたに興味を持ったわ」


 嫌な予感がするわ。だけど、我が国きっての聖女のお願いよね……断れるはずがないわ。


「そうですわね……。神殿にいたとき、孤児院が襲撃を受けたことがあったのよ」


 だめね、良さげな話がこれくらいしか思い浮かばないわ。

 しかも、言ったあとでまた、憎しみを思い出してしまったわ。不適切な話題だったかもしれないわね。


「それは少し物騒な話ね」

「でしょう? 結局3人ほど死んでしまったのよ」

「3人なら少ない方では?」

「いえ、全員守れなかったのよ。わたくしが弱かったがゆえに」

「けれど、クラン様が戦ったのですね。素晴らしいですわ!」

「……。もう帰ってもいいかしら?」


 自分が褒めることはあっても人に褒められること慣れていないのよ。いたたまれなくないわ。


「お待ち下さい。今度はわたくしの話も致します」

「過去ではなく現在(いま)の話で申し訳ないんですが、まあわたくしは今大聖女を目指しています」

「大聖女?」

「大聖女とは……」

「いえ、大聖女は知っています。しかし、大聖女になるのは非常に難しいと聞いたことがありますわ」

「えぇ、そのとおりです。しかし、わたくしは平民のため、頑張ることに決めたのです」

「そして?」

「今、私は最弱ですが、一番若いのでこれは仕方ないのです。このまま順調なら、大聖女になることは出来るでしょう。しかし、この任務を失敗してしまっては、わたしは仕事もできない人、となるのです」

「それは大変ですわね」


 可哀想とは思うのだけど、それよりは自分の保身を考えるべきよね。

 じゃあ気にする必要はないわ。


「だからわたしはこの仕事を成功させたいのですが……難しくて」

「メリーナ様ならお一人できっと出来ますわ! 応援しております」


 けれど、きな臭いわね。一応巻き込むなアピールでもしておきましょうか。


「そうですか……」

「では、帰ってもよろしいでしょうか?」

「えぇ、いいですよ。楽しかったです」

「こちらこそ。またお会いしましょう」

 


 その日の夜。

 寮にいたわたくしは、何かの気配が遠ざかっていくのを感じた。


「メリーナ様が出ていったということですわよね?」


 けれどおかしいわね、わたくしは今聖女ではないのだけど。

 あ、もしかして、使節がもう王国を出たのかしら? だったら納得ね。




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