41.クランの平穏は、使節によって消え去る
魔物を一掃させて、3日が平穏に過ぎたわ。
水曜日が含まれていたけれど……その日は特に面白い話題はなかったわね。
そんなときに回ってきた木曜日。
わたくしは、何かが近づいてきたのを感じた。しかもかなり近くまで。
しかし、心当たりは全くと言っていいほどなかった。
まず、これが何かも分からないもの。気にしないことにしましょう。
そう決めた。
昼休み。
今日も……生徒会室に向かわなければならないのよね……
「失礼します」
「いらっしゃ~い」
アナが迎えてくれた。
「アナとクラン、少し残れ」
「はぁ……?」
「分かったわ」
「何だ、クラン? 文句でもあるのか?」
「いえいえ、まさか第一王子様の命令に文句があるわけがないでしょう」
「……つまり、命令じゃなかったら文句があるんだな?」
「もちろんそうに決まっていますわ。当たり前でしょう? いきなり、問答無用で残れ、と言われたのよ?」
「それはすまない。だが、この場で事情を言うのは適当ではないと思うから、少し我慢してくれ」
まあ、そこまでして伝えたい内容というのはなんなんでしょう? 気になるわね。
前も似たようなことがあったわね。確か、その時は……わたくしとお話をしましょう、ということでしたが今回はアナもいるわね。ということは個人的な用事ではないのかしら? しかしそれでなくては話される話題がないわよね。ましてやアナと共通する話題なんて!
そして、諦めた。
「サンウェン様、いったい何の御用でしょうか?」
「急ぐな。まずはアナから伝える」
「はい」
「お前の姉、メリーナが今日使節とともに王宮に到着した。放課後私と一緒だったら連れて行くことも可能だが……どうする?」
「行かせてください!」
驚いたわ。
アナにお姉さん? しかも王宮に到着ということはなにか偉い使節なのかしら? けれどアナは平民出身よね? それなのに使節か何かに取り立てられるなんてこと……あるのかしら?
「アナ、お姉様がいるの?」
「そうよ、聖女だからと大聖堂に行ってしまったのだけど……」
驚いたわ。
アナのお姉さんって聖女だったのね。確か……アナは平民出身よね? 素晴らしい家なのね! ……まあ、神々のせいでランダムなのだけど。
「では、放課後生徒会室の前で」
「分かりました!」
今までに……まだそんなに長い付き合いではないけれど……あんなに張り切っているアナを見たことがないわ。
それだけ、メリーナ様は大事なのだろう。
「そして? 何の御用でしょうか?」
「さっきの通りアナの姉であるメリーナという聖女が王宮に到着した」
「ええと……それがどうかしましたか?」
よくわからないことを言うのね。わたくしには関係なさそうだけど……?
「おそらく目的は聖女を見つけ出すことである」
「あ……そういう……」
つまりわたくしを探すためにということね。
「しかし、聖女を連れてきたところで、簡単に聖女は見つけられないと思うのですが……」
「私も聞いた話だから、信じなくてもいいのだが、聖女には、聖女を感知することが出来るらしい。お前は何か感じないか?」
「何か感じないか……と言われましても。普通に今朝は何かがやってくる感じを感じましたわよ。先ほどまで忘れていましたけど」
「何故忘れていた!?」
「なぜって……気の所為だと思うでしょう、普通は」
「そうか……それなら仕方がないな……」
「はい、仕方のないことですわ」
「……なんか違う気がするが……やはりか」
何が違うのでしょうね?
「多分それと同じようにメリーナもお前を見つけることができるだろう。今回は逃れられないと思え」
うーん、確かに、知らない時よりははるかにいいかも知れないわね。
「ご忠告、ありがとうございます。そういえば……先日、魔物を一掃したときの報奨をまだ決めていませんでしたわね。それを、わたくしが聖女であることを相手方に秘匿してもらう……というものなどでもよさそうですわね」
思わず、口をついて出た言葉に驚く。
あら? これ、意外と面白そうね! ただ、総本山に、普通の魔術も治癒魔術も使える者がいるとバレてはいけない……と考えていただけなのだけど……
あら? サンウェン様があまり動いていないわね? どうしたのかしら?
「相手方に隠し通せるわけないだろう!? どうやって秘匿するんだ!?」
あら、サンウェン様が声を荒らげているわ。
そんなに難しいことかしら? ただ、相手方に聖女だとバレたときにでも黙ってもらえるようにお願いしてもらうだけですのに。
何か事情でもあるのかしら? 一見、なさそうなのだけど……
(※勘違いをしているようです)
「ではクラン、『約束』しよう」
サンウェン様から「約束」? 一体何でしょうか? 不思議ね。
「何を、でしょうか?」
「お前はあの使節団がこの国にいる間、聖女ではない存在としてある、と。それが上手くいくかどうかは、知らん!」
なるほど。さすがサンウェン様ね。
まさか、わたくしが聖女であること自体を隠そうとしてくださるなんて。
なんと、悪知恵が働くのでしょう!
けれど……意外と、嘘をつけないサンウェン様に合った適性かもしれないわね。
「えぇ、『約束』しましょう」




