40.国王までもが、クランに興味を抱く
国王……アンジェロ・リルトーニア……は驚いた。
アンジェロは噂を集めるよう兵士に指示している。
そしてここ最近集まってきた噂が。
……リルトーニア森に聖女が出た? しかも破格の魔力の? そして、その後に魔物が大量に発生した? さらにその後は1年生の少女一人が収めただと?
信じられぬ。到底信じられぬ。しかし、大勢の者がそう証言しているらしい。
アンジェロは、第一王子サンウェンに聞いてみることにした。ちょうどサンウェンもその場にいたのだと聞いていたからだ。
「サンウェン、今日呼んだのは今朝の出来事について聞くためだ」
「分かっていますよ。父上」
「あの少女は何者だ?」
「我が国デルメイア王国唯一の学園、デルメイア学園の1年生であり、生徒会役員である公爵令嬢です」
「ふむ。彼女が生徒会入りを断ったという面白い少女か。他には?」
サンウェンはこの頃にはもう理解していた。クランが聖女であることは言おうとしても言えないことだということに。
「面白い少女だとしか……」
だから聖女という言葉出なくても驚かない……。
……などということはまだ出来なかった。未だ自分が嘘を言っていることに驚いている。そして、呪いよりもクランとした「約束」が有効であることに対しても。
実は……これは心からの信頼度で決まっているのである。サンウェンが勝てるはずもなかった。
「お前が人に興味を持つとはまた珍しいこともあるのだな。どうして彼女に倒させた?」
このサンウェン王子。優秀な王子によくある通り、人への感心は薄いのである。
「彼女が授業の際、ラーネカウティスクを倒したと聞き、その実力を見たいと少し前から思っていましたので、ちょうど良い機会だと。しかし、クランにも謝ったのですが、彼女はどんな魔物も一撃でしたので……これだったら兵士に任せて、彼らの鍛錬にしてもらうべきところでした」
「謝ったのか? 王族であるお前が」
アンジェロが驚くのも無理はない。王族が謝るなど滅多なことでなければいけない。
「父上、私は正しいことしかできないのです。先ほどのことが誤っていると思えば謝ります」
「そうだったな」
「あと、一つご報告が」
「何だ」
「その……彼女の実力を見るために少し願いを叶えるという餌を使いました」
「それは……お前は大丈夫なのか?」
「クランなら大丈夫でしょう。彼女は身の程をわきまえています」
「そうか。お前が信頼出来るのだったらそれでいい」
アンジェロはもうクランを例外として見始めることにした。彼女を一般人と考えてもいいことは何も無い。……ただでさえ公爵令嬢なのだから。
「そうだ。今度妻に会わせてみようか……」
そしてアンジェロは今までいろんな国王が例外に対して王妃に合わせてきたのと同じように、王妃とのお茶会を考えるのであった。
「断られ……いや、身分的に出来ないでしょうが……悪感情を抱かれると思いますよ?」
少し違うのは、クランの性質を理解しているものが国王の近くにいた事。それだけで、クランは大助かりなのであった。
「そうか……ではやめるべきか。しかし一度会ってみたいな」
「実行する時があったら教えてください。頭と口ならお貸しします」
「ふっ。それは助かるな」
「ところで聖女の方はどうなっているんだ?」
「父上もお分かりでしょう。真実である可能性が高いと考えられます」
そうだよな。アンジェロは思う。
聖女が大規模な治癒魔術を放ったところはきっと植物も生き生きしている。そしたらそれを狙って魔物がやってくる。理解できることであった。
「その治癒魔術を放った面積はどれくらいだ?」
「約25mが半径の円だと推測されます」
「破格の魔力だな」
「捜査は進展しているのか……」
「私には分かりかねます」
サンウェンは段々話が中核に近づいてきたと考えている。
また捜査に関しては、進んでほしいが、多分見つけられないだろうと、やけに達観しているのであった。
そうやって普通のいつもの会話に戻っていった。
アンジェロはこの後クェーラを呼んだ。聖女捜索の進展を聞くためだ。
しかし、結果は芳しくなかった。
クェーラがもう聖女を探すのは辞めますといい始めたのである。
クェーラにとってはゲーム感覚で始めたものであったが、進まないゲームというのは非常に気だるいだけだ。
だから、クェーラは捜索から手を引くと伝えた。
アンジェロは慌てた。クェーラは今まで何度も無理難題をこなしてきた。しかし今回に限って無理などと……信じたくなかった。
まあそれでも信じるしか無いのだが。
かくして、聖女騒動は有耶無耶になり、結果は、サンウェン、クラン、クレマラの3人の心のなかに留まることとなった。




