38.クェーラは遊戯に失敗する
今回もクェーラのところは他者視点です。
クェーラは頑張っていた。
あのやりがいのある遊戯に立ち向かおうと。
それも真っ向から。
そして、悪くない手は打っていた。
聖女と共にいた者から聖女を探す。確かにこれはかなり有効な手である。常識に則って考えれば。
今回は相手が悪い。しかし、クェーラは相手がどれほど規格外の……偶然によって出来ていたのかを知らない。このままだと、的外れな方法に行きそうである。
まず、学園に問い合わせてみた。
学園でそのその日出かけていて、なおかつ実力もあるものは生徒会所属、1年生のクラン・ヒマリア唯一人であった。
その時点でクェーラは外れだなと思った。
公爵令嬢が、聖女の存在を黙っている必要はない。
しかし、出てきた情報は一度精査する必要があり、一応呼びに行ったのだが……使者が帰ってきた。家に帰るために月曜日にしてほしいだと? 教会を舐めてんじゃねえか?
まあそんなわけで……クラン・ヒマリアは月曜日に精査することになった。
ふざけんなよ!
他にもちょうどこの街にいたハンターで、実力のあるものに聞いてみたりした。しかし、それらしき人はいなかった。みな、複数人で行動しており、その皆の意見が揃っていたからだ。
これでは嘘を付いた余地はないと見て、諦めるしか無いだろう。
ハンター以外には……騎士の可能性についても考えた。しかし、皆その時間帯は訓練だったりしていて、どうやら違うようだった。
クェーラの焦りは募るばかりであった。
他に強い人物がいるとは聞かない。だったら、クラン・ヒマリアしかしないのか?
そして思った。
ーー私は手を出してはいけない遊戯に手を出してしまったのではないか、と。
もちろんそんなことはない。
しかしそんなことを知らないクェーラはもう後がないと思い、月曜日、自分で直接クラン・ヒマリアに会いに行くことにした。
その後にすれ違いで騎士がやってきた。
彼らは討伐隊を作ってほしいと訴えてきた。
理由と目的は……
クランがそこら一帯を治癒してしまったので、それを狙って多くの魔物がやってきているというものだ。
騎士もクランがした、というのは知らなくても、それ以外の大まかな事情なら知っているから、正しく報告できる……はずであった……。今すぐ準備すれば余裕であった。
しかし、神官長、クェーラにすぐ出会うことはなかった。
月曜日。
「クラン・ヒマリアか?」
校門の前で変な人に声をかけられたわ。
見た目……というか服装が……カラフルなものを使っていて、なおかつ形が今まで見たことが無いもので(日本におけるピエロみたいな?)……そして、それによりこの人が誰なのか分かることが出来ましたわ。
この人……多分王都の神殿の神官長よ。
ということは、わたくしにお話をしに来たのよね。
でしたら……
「お話ならば昼休みにお受けしますが?」
ついでに生徒会の集まりもサボれるようにいたしましょう。これが策士というものよ。
(※策士は自分の策に溺れたりはしません)
「いや、少しでいいので今でいいか?」
「え……」
「話は聞いておる。君は生徒会なのだろう? 昼休みには集まりもあるそうではないか。そしたらそれを邪魔することなど出来ないよ」
「はぁ……」
迷惑ね……
そんなの、どうでもいいのだけど……仕方がないか。
「それで、あの日の何が知りたいのですか?」
「その日のお前の行動だ」
神官長というのはこんな変人でもなれるのね。
そして、貴族を含めれば大した地位ではないというのにこの傲慢不遜な態度。
なにがよくて神官長になったのかしら?
こちらも随分傲慢不遜である……
「あの日はそうですね……散歩をしていたわ」
森の中をね。
「それだけか?」
「いいえ。気持ちの良いところでは走ったりもしましたし……。お陰でいい運動になりましたわ」
気持ちの良いところではなかったけれど、急いで移動するために走ったりもしたわね。
「他は?」
「それくらいですわよ? 気付いたら少し遠くに行き過ぎてしまっていて。帰寮時間をまもれそうになかったので、帰るのは諦めて、そこら辺で泊まることにしたわ」
「泊まるとは……宿か?」
「そうね。一応宿よ」
自前のね。
「今度紹介してくれないか?」
「嫌よ。面倒くさいもの」
「そうか。ではまた来る」
「はい?」
一体何だったのかしら? あの神官長。
変な人だったわね。
一応疑いははらせたということでいいでしょう。
クェーラは迷っていた。どう考えていいか分からなかったからだ。
クラン・ヒマリア。
あの日は散歩していた。気持ちいいところでは走ることもあった。いい運動にはなったが、遠くに行き過ぎていて、宿に泊まった。紹介してくれと頼むも面倒だからと断る。
具体的なものがないから怪しいと言えば怪しい。
しばらくして、クェーラは良いことを思いついた。もう消えているかもしれないが、足跡から探してみるのはどうだろう。
まさか消されているはずが無いよな。
そして、クェーラはその思いつきに満足気であった。
……。




