37.クランは母に、助けられる
「クラン様がこの馬車にいらっしゃると聞いたのですけど……」
「まあ! クランちゃん、もしかして何かやっちゃったの?」
「やっていないわよ! ……クランはわたくしよ。何の御用かしら?」
「神官長様がお呼びです」
「わたくし、今から公爵家に向かうのですが……」
「ご自宅でしょう。少し帰りが遅れたところで……」
「ちょっとまってね」
そのままグダグダになりそうだったのを、お母様が止めてくれた。
「クランちゃん、何かしたの?」
「何もしていませんわ」
「何かしていないと神官長に呼ばれるわけ無いわよね?」
「ですからわたくしは何もしていませんよ」
「では、一体何が何をしたのかしら?」
お母様も話を聞く気にはなってくれたようだった。
「噂が広まったからですよ」
「噂? もしかしてさっきの聖女の噂かしら?」
さすがお母様、鋭いわね。
「あれの候補として何故かわたくしが含まれているようで……」
「なるほど。けれどクランは違うのよね?」
「もちろんです」
あながち嘘ではないわよね。あちらが候補に入れているのは、わたくしが聖女と共に行動しいた相手ではないかと言うことで、わたくしが聖女であることではないもの。
「なんでクランが候補に入ったのかしら?」
「わたくしがその日外出していたからです」
「魔術を使えるのに?」
「今、彼らが探しているのは、聖女と共に行動していた、有能な魔術士らしいですので」
「あぁ……そういうことね。では行けばいいのじゃないの?」
「行きたくありませんわ」
「我が儘ね」
「お母様ほどでは」
「うふふ……そうね」
「そうですわよ」
「使者さん、わたくしたちは今から邸宅に帰らなければならないの。月曜日にクランちゃんなら戻ってくるからその時でお願いね?」
「しかしそれでは……」
「お願いね??」
「はい……」
お母様の押しに弱い使者ね。これで仕事をちゃんといただけるのかしら?
まあわたくしが心配することではないものね。
「あぁあ。クランはやっぱり面白いことをしていたわね」
「ところでお母様、今日はなぜこちらへ?」
「もちろんクランのお迎えよ」
「もう一つは何が目的だったのですか?」
「ちょっと昔の話をしていただけよ。気にしないでいいわ」
それを言われると気にしたくなるのだけど……お母様はそういう気持ちわからないのかしら?
いえ、絶対分かってやっているわ。お母様だもの。
まったく……
「お母様、ありがとうございました」
お母様のお陰で使者を後回しにすることができたのだもの。それくらいは言わないとね。
「お礼なんて言わなくていいわよ」
そう言っているものの、絶対喜んでいるのよね。お母様だもの。
「ねぇ、他になにか面白いことは無いの?」
「無いわよ」
「じゃあ生徒会について教えて?」
そうして、家につくまで、話題を提供させ続けさせられたのだった。
「ただ今帰りました」
「ただ今ー」
「お帰りなさい」
お父様がやってきた。
「あぁクラン、今日は別に部屋まで来なくていいよ。ミリアネに聞くから」
そうね。あんなに話題を提供させ続けられたもの。お母様に任せましょう。
「分かりました」
では……図書館にでも行きましょうか。
1週間ぶりね。何だか懐かしいわ。
部屋に入ったとき、不意にそう思った。何故でしょう?
まあきっと学校の図書館に行ったからでしょう。
そう思い、考えないことにした。
聖女の本、神々の本には、全然目ぼしい情報は無かった。
これはもう神に聞くしか無いわよね? 明日は狩りに行きましょう! もちろん一人でないといけないわ。
森にて。
「つーちー!」
「はーい!」
「今日はやけに陽気な登場ね」
「いやぁ楽しませて貰っているからなぁこの2週間くらい」
「はいはい、御託はいいわ。それより質問に答えて。何故わたくしは治癒魔術を使えるのかしら?」
「それは君が聖女だからだよ」
「そうじゃないわよ。なぜ、わたくしは普通の魔術を使えるのに、聖女になっているのか、を聞きたいの」
「あぁ……それは……光を呼んで聞いてくれないかな?」
「じゃあ呼んで」
「え?」
「呼んでくれるわよね?」
「はい! 呼びます!」
あら? 土の反応がどうも……お母様を前にした人と同じように見えるわ。どうしたのでしょう?
「光! ちょっと出てきて!」
「えぇぇ……せっかく面白そうだったのに」
そんなことを言いながら一人の女性が出てきた。
「始めまして。貴方が光の神様?」
「……そうよ」
あ……そう言えば光の神が聖女を司るのだったかしら? 光の神は忙しそうね。
「聞いてもいいですか? わたくしは何故、魔術が使えるのに聖女なのでしょうか?」
「光、ガンバ」
「……ごめんなさいね。手元が狂ったのよ」
「はい?」
手元が狂ったとは想定できなかったわ。どういうことかしら?
「だから! 手元が狂ったのよ!」
「あのね……クラン。光は聖女をまあ魔力を持たないものから雑に選んで決めているんだよ」
「そう、それで?」
「ただ、クランのときは、手元が狂っていて間違ってクランを選択肢に入れてしまった上に、その子に聖女が当たっちゃったというわけ」
なんですかその……お遊び的な感じは。わたくしたちはこの人たちに自分の運命を委ねているのね……。恐ろしいわ。
「はあ……けど変えることも出来たのではないかしら?」
「光はね、一度決めたことを変えたくないんだ。そしてね、僕達もまあ面白そうじゃんってなって、こうなっている」
「そうでしたの……」
けど、そうなっていなければ殺されていたのよね。でしたら神々の娯楽思考少しは救われているのかもしれないわ。
「それで? 魔術持ちが聖女になると、魔術も強化されるのかしら?」
「そうだよ」
「分かったわ。教えてくれてありがとう。光、今度またお呼びしてもいいかしら?」
「え? 僕は?」
「いいよ……」
「まあ、本当に! 嬉しいわ!」
そんなふうなこともあり、この日のクランはとってもごきげんなのであった。
その証拠に……魔物が大量に売られたという噂が広まっている。もちろん事実だ。
また神様が登場……気楽すぎだろ、こいつら




