36.母と娘は一緒に過ごす
土曜日。わたくし……ミリアネ・ヒマリアは神殿に向かっていたの。今回ようやくアポを取れたからね。
この前ユシエルに調べると言ってから、2週間ほどが経っていた。
神官長ってそんなに忙しいのかしら? 疑問に思うも、今回はこちらが受け入れてもらった側であるから何も言えないのよね。上手くやるわ、本当あの神官長も。
だけど、神殿は少し辺境にあったのだが、そこからわざわざ王都に来てもらったのだ。そこにも文句を言える要素なんて無いわ。だから、ありがたいわねぇと思い、指定された王都の神殿に向かうのだった。
「失礼しますわね〜」
「ようこそいらっしゃいました。私がクレマラです。クランさんが神殿にいたときの神官長で、今現在も神官長をやらせていただいています」
「貴方がクレマラね。その時がうちのクランがお世話になりました〜」
「こちらこそありがとうございました」
「それで今日はクランの神殿のときのご様子が聞きたいのでしたっけな?」
「そうですわ。お話いただけるのでしたわよね?」
「そうじゃよ。具体的にどんな事が聞きたいのかな?」
「不思議なこと……とかかしら?」
つい、いつもの癖でのんびり聞いてしまう。
いっけない、これはクランちゃんの重要な話よ。ちゃんと真面目にしないと、たまには。
「不思議なこと……特に何もなかったぞ?」
「ではおおまかな概要でいいわ。よろしくね?」
「分かった」
そうして、クランちゃんのことについてよく知ることが出来た。
クランちゃんは孤児院の子たちと仲が良かったこと。
そして、それが襲撃された時に孤児たちを守ったこと。しかも誰も殺さず。そのあと、孤児全員を守れなかったことを悔やんで、1日何処かに行ったこと。
そして、その後は神官長……クレマラに魔術、剣術を教わっていたこと。
今までより遥かに多くのことを知れたわ。
……だけど、クランちゃんが変化したことを理解できないのよね。
それが、悩みの種だった。
鍵になりそうなのは、1日の失踪かしら? 一体何をやっていたのかしら?
それとも……孤児院襲撃かしら? あれで人を信じることができなくなった?
どっちも考えられるわね。
そう言えば、土曜日だけど、クランちゃんは今学園にいるのよね? 一緒に帰れないかしら?
よし! 行ってみましょう!
◇◆◇
今日は予定通り図書館に行った。
もちろん昨日の夜は早く寝たいという願いは叶わず、メイドに怒られたのであった。
司書は頼んでおいた通り、神々や、聖女に関する本を用意してくれた。
そして、いろいろな本を読んでいたのだが……
「クーランちゃん♪」
この楽しげな声は……
振り返るとやはりと言うか、お母様だった。
「何でしょうか? お母様。ここは図書館ですので静かにしていただけませんか?」
「はいはい、わかったわよ。さ、帰りましょう」
「え? わたくしはあとでちゃんと帰りますが?」
「クランちゃん。わたくしが、あなたと一緒に帰りたいの。いいわよね?」
これは断っても無視されるやつよね。仕方ないわ。……まだまだお母様のわがままは健在なのね。
「分かりました。では帰りましょうか」
「ありがとう♪ 最近はエステルもユーリもつれなくなっちゃって……」
まあそうでしょうね。いまどきこんな母にベッタリとくっつかれているなんて……絶対ご友人にはバレたくないでしょうね。
「司書さん、片付けもよろしくお願いします」
「かしこまりました」
「ところでクラン、さっきはなぜあんなに神々や聖女について調べていたの?」
「お母様はまだ噂を知らないの……」
ですか? と聞こうとして気付いた。
そう言えば……お母様は意外と負けん気が強いのでした。それなのに煽ることを言ってしまってはお母様の対抗心に火をつけることになってしまうわ……どうしましょう?
「知らないわ。教えて?」
「……え?」
お母様が変になったわ。どうしましょう? とりあえず家に帰ったらお父様にお伝えしましょうか。
「最近……というか一昨日ですね」
そしてお母様に噂を伝えた。
「そんな事があったのね。で、どうしてクランちゃんが調べているの?」
「お母様、わたくしは公爵令嬢です。そういう謎もできるだけ明かそうと努力するのですよ」
ふふん、完璧な答えよね。これで文句が言われるはずがないわ。
「そうなの? クランちゃんが? だったら今度、お茶会に誘ってもいいかしら?」
お母様……まさかこれのために負けん気を消したのですか……
「お断りいたします」
「そうして、そういう場は生徒会で結構です」
「生徒会?」
あら? 伝えていなかったかしら……? そうね、入ってからこれが初めての再開だものね。
「そうなのですよ。生徒会に入りました。だからそういう場は足りています」
「そうなの? ならそんなクランちゃんを自慢したいのだけれど……」
「嫌です。やめてください」
「まぁ、クランちゃんもつれなくなってしまって……。お母様、悲しいわ」
そうですか、勝手に悲しくなっていればいいわ、とはもちろん言えませんわ。
その時、
「クラン・ヒマリア様がこの馬車にいらっしゃると聞いたのですけど……」
何かの使者がやってきたわ。
「まあ! クランちゃん、もしかして何かやっちゃったの?」
「やっていないわよ!」




