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34.クランの事情が、バレていく


「失礼いたしました。あ……」


 生徒会室を出ると、そこにはクレマラ様がいた。


「昨日ぶりじゃのう、クラン」

「神官長。まだ王都にいらしていましたの? 神官長の仕事って大変そうなのだけど……」

「今日は用事があったんじゃ」

「誰にでしょうか? あ、生徒会の誰か?」

「いや、そうでは……あるか。クラン、君にじゃよ」


 わたくしに? 一体何かしら?


「神官長。場所はどこがよろしいですか?」

「ここでいい。人払いをしてもらうからの」

「そうですか……。では、サンウェン様、少し神官長と話したいので、生徒会室を使ってもよろしいでしょうか?」

「いいぞ。そんなに重要なものは回ってこないからな。ただ……扉の前でまたせてもらってもいいでしょうか? 鍵は私自身でやりたいので」

「いいそうです。どうぞ」

「失礼するぞ」

「早く外に出ろ!」


 サンウェン様が皆さんをせかしてくれているのがわかる。ありがたいわね。


「一体なんの御用でしょうか?」

「聖女様の話についてじゃ」

「えっ……」

「そう警戒するな。一つ言っておくと、私はクランが神隠しにあったことはもちろん知っている」

「何ででしょうか? わたくしは伝えたことがないと思うのですが……」


 神殿での報告の際も、わたくしが勝手に出ていったことへの謝罪と報告、みたいなものだったし……言っていないわよね?


「1週間の行方不明。それが表すものは神隠ししか無いからのう」

「もしかして、報告とかされましたか?」

「いいや、しておらん。だから安心して良い」


 良かったわ。


「それで、聖女様についてとはどういうことでしょうか?」


 平静を装って尋ねる。


「クラン、君が今噂の聖女様じゃろう?」


 いきなり核心をついてきたわ。


「……そのようですね」

「やはりか」

「黙っていていただけますよね?」

「もちろんじゃ」

「治癒を使ってみてどうだったか?」

「あんまり……魔術と変わらないような気がいたしました」

「そうじゃろう。使い方はそれで十分じゃ」

「他に御用でもあるのでしょうか?」

「いいや、確認したかっただけじゃ。これで帰る。あと……」

「何でしょう?」

「今度お前さんの母親に会うことになった。魔術、剣術を教えたことと、孤児院の襲撃から守ったこと、1週間いなくなったことは1日として伝えようと思うがどうじゃ? それでいいかの?」

「それでいいですわ。ご配慮、ありがとうございます」

「そうか、ではまたな」


 扉を開けるとすぐ近くに扉の方を向いてサンウェン様が立っていた。


「今の話、聞きました?」

「あぁ……」


 どうやら聞かれてしまっていたらしい。


「サンウェン様、お話をしましょう」

「そうだな。聞きたいことがある」


「まず、お前は『神々のいたずら』にあったのか?」

「そうですわよ。何もおかしなことはないでしょう? それを言うならなぜサンウェン様は『神々のいたずら』を知っているのですか?」

「私も遭ったからな」

「そうなのですね」


 まあおかしくは無いだろうな。


「一体何の呪いにかかったのですか?」

「嘘がつけない呪い」

「まあ、心は優しいわね。王族にぴったしの呪いじゃないの」

「心様だろうが」

「え?」


 心に様、をつけるのかしら? なんというか、あんな可憐な男の子には似合わない敬称ね。


「まあいい。それでお前は?」

「わたくしは教えることを禁じられていますもの。まあいずれ分かりますわよ」


 このあと分からせて上げますわよ。サンウェン様は嘘がつけないのだったら、聞かれたらわたくしのことを答えてしまいそうで怖いもの。


「は? バカにしているのか!?  いや……いい。それよりもお前が聖女だというのは本当か?」

「知りませんわ。ただ、どうやら治癒魔術は使えるようですわ」

「やはり聖女か」

「それで、もうよろしいでしょうか? でしたら『約束』していただきたいのですが」

「何をだ?」

「私が『神々のいたずら』にあったこと、聖女みたいな存在であることを多言しないことに決まっていますわ」

「しかし、私は嘘をつけないのだが……」

「大丈夫ですわよ。『約束』していただくことによって、それが正しいこと、になるのですから」

「信用していいのか?」

「もちろんいいですわよ」

「分かった。では『約束』する。私はクラン・ヒマリアが聖女みたいな存在であること、いたずらにあったことは多言しない。……これでいいか」

「いいですわよ。わたくしと神々が証人です。では、また来週、お会いしましょう」

「あぁ、またな」


 さて、サンウェン様はいつごろ「約束」の効果に気づくのかしらね。楽しみだわ。


 そして、体術学の授業に入ったのだった。


 さらにもう1時間授業を受けたあと。わたくしは寮に帰る前に図書館によることにした。

 わたくしが聖女であることはまあ可能性としてあるとして、過去に似たような人物がいなかったのかを確かめるために。明日も一応行くつもりではあるけど……できるだけ楽をしたいもの。


「すみません」

「何の御用でしょうか?」


 司書に声を掛ける。


「明日までに、神々についてや、聖女に関することが書いてある本を準備しておいてくださる?」

「かしこまりました」

「ありがとう」


 差し出された紙にクラン・ヒマリアと書く。これで大丈夫。では今日はもう寝ましょう。


 楽できたことに、わたくしは満足していた。


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