32.神殿は、誰かもわからぬ聖女に翻弄される
今回は、第三者視点っぽい感じかもしれません。
あと、短いです。
大珍事が起きた。
王都の教会の神官長であるクェーラは驚いた。
なんと、リルトーニア森で、大規模な治癒魔術が確認されたのだ。
いままで、この王都でこのような大規模な治癒魔術など確認したことがない。
クェーラの探知に引っかかるほどの力を持った聖女など、いまこの王都にはいない。この国にもいない。みんな、総本山に引っ張られていくからだ。
そして、皆権力欲があるものが多いため、乗り気でそれについていく。だから、総本山以外にまともな聖女が……いや、ただでさえ聖女がいることはない。
それなのに、大規模な治癒魔術の痕跡を発見した? いや、痕跡ではない。大規模な治癒魔術が今さっき、使われたのだ。
「騎士団を呼べ」
自分はこの神殿における最高権力者だ。それが慌てるわけにはいかない。あわてて取り繕う。
「はっ。只今」
「何の御用でしょうか?」
しばらくして騎士がやってきた。
「先ほど、大規模な治癒魔術を感知した。学園近くのリルト―ニア森……慣れの森で、だ。今すぐそれを使ったと思われる人物を連れてこい」
「かしこまりました。直ちに」
これで大丈夫だろう。
聖女は他の魔術を使えない。だから逃げ足はそこまで速くない。仮に、他の人と一緒に行動していたとしても、重石になるだけだ。
そう安心していた。
頼まれた騎士が、部下にも状況を説明し、言われた場所に向かっていると、そこの森の手前にいたのは、多くの人々だった。急ごうにも時間がかかる。
「どいてくださーい!」
呼びかけるも、みんなどいてくれない。
焦る騎士は、それでも冷静に他の行動に移った。
「一体何があったのですか?」
「これはこれは騎士様。先ほど、ここからまばゆい光が発生しましてね。それをするには神々でなければ人が行うしかないものなので、それを発した誰かが来るのを待っているのですよ」
騎士は納得した。
そして、部下から3人を選び、ここは任せ、別のルートを張ることにした。
「二手に別れよう」
「はっ。では私と彼らであっちを張ります」
「助かる。とりあえず、あっちの方向から歩いてきた女性がいたら、いかにそうじゃなく見えようが、同行してもらう事!」
「はっ!」
そして朝まで張ったり森の中に入ったりしたが、夕方だったり、夜だったりで、一人もいなかった。
そして、何回も魔物に襲われた。つまり、魔物を寄せることがある聖女はもっと襲われているはずである。しかし、昼間の冒険者が狩った後の血などはあっても、死骸とかは見かけなかった。はずれを引いたかもしれない。
しぶしぶ帰ることにする。もちろん他の騎士とも合流して。
3人の部下曰く、みんなずっと見ていたが、姿も見なかったらしい。みんな魔物が怖くて森の中までは入らなかったから、危険もなくて、聞き込みをメインにしていたらしい。
しかし、みんな一貫して、まばゆい光を見たから、誰が原因でこうなっているのか知りたくて、来た、と言っているらしい。大勢が言っていたのだから、まあまあ信頼に値する情報だろう。
そして、もう片方に行った騎士も、聖女らしき人は見かけなかったという。
しかし、魔物の死骸は転がっていたから、そちらを通った可能性が高い。しかし、一撃での致命傷だったりと、戦闘技術が高そうだった上に、魔術も使っていた。だから、強力な味方でもいるのではないかと考えた。
そして、神官長にそのとおり報告した。
クェーラは驚いた。聖女と思われる人物が、強力な味方を持っているうえに、逃げ足もずいぶん早いと見たからだ。
しかし、クェーラは楽しんでいた。
この王都にいる大勢の人々から、たった一人を探し出す。これほど面白い遊戯はないだろうと。
そして、騎士の報告は、いくつかのヒントを与えてくれた。まず戦闘能力が高いものを探し、昨日の行動を調べればいい。そして、確定したら、その人物の周りの人物を全て探せばいい。もしかしたら本人が教えてくれるかもしれない。
そんな風に、神官長の心の中は、神々と同じように、面白いものを求めて飢えていたのであった。
さすが、仕えるものと、仕えられるもの。
どうやらいつの間にか中身まで似てくるようである。




