30.クランは、聖女に関わる矛盾に気づく
「あ! クラン様!」
またノアだわ。懲りないわね。もっときつく接したほうがいいのでしょうか?
「何?」
「今日の特別講話の先生が、クレマラ様なんですよ!」
「クレマラ様? 誰かしら?」
わたくしも知っている人なのかしら?
「神官長様です!」
言葉が足りないわよ。
「どこ神殿の神官長?」
「もちろん私がいた孤児院がある神殿です!」
「つまり、わたくしが1年いた神殿ね」
「そうです!」
はぁ……やっと話が見えてきたわ。ノアは、クレマラ様が講演者だという情報を手に入れたために急いでここに来た、と。そして、わたくしがその神殿にいたことがあるから、知っているのではないか、と考えわたくしに教えてくれた、と。
「そう、善意には感謝するわ」
感謝はする。事実的には、わたくしはクレマラ様から剣も魔術も習ったのだけど……そのことも今まであやふやになっていたくらいですし、ましてやどんな方だったかなんて……あまり覚えていませんわ。
「ノア、もう行きましょう」
「うん……」
あら? さっきまでの威勢はどこへ行ったのでしょう?
「はじめましての方が多いでしょうな。私が今日の特別講師、クレマラです。普段は神官長をやっています。今日は、皆さんに神々のことを教えに来ました。どうぞよろしくお願いします」
パチパチ。まばらに拍手が起こる。
あら? 今のって拍手をする部分でしたっけ?
周りを見るとノアも拍手をしているうちの一人だった。つまり、クレマラ様に人となりをよくお知りの方々が拍手をしているということでしょうか?
そう推測する。
「まずこの世には、5柱の神々がおられる。そこの君、神々の属性を答えなさい」
「風、光、水、土、心です」
「そうだ。彼らは暇つぶしのためにこの世を作った。では、火は誰が司っているか……隣の君、答えなさい」
「光です」
「そうだ。彼らは5つという少ない数ではあるが、彼らはすべてを司っている。心は何を司っているか? 横の貴方、答えなさい」
「呪い、です」
「そうだ。心だけは例外で魔術を扱わない。そして呪いを司る。しかし、いままで呪術者は見つかったことはない。また、呪われている人を探すのも困難だ」
「先生!」
「なんだ?」
「呪われている人は実際にいる、と聞きました。彼らはどうやって呪いにかかっているんですか?」
「彼らはそれに関して何も言わないのだ。だから、我々は生まれつきで、神々のおみくじにでも当たったのではないかと考えている」
まあ! 大嘘を付くものね。実際は楽園でかかっていると神殿は理解しているはずだけれど……何が何でも隠すつもりなのか……
「ありがとうございました」
「では、話に戻ろう。このように神々は、いろいろと暇つぶしを作っている。これらで神々は主に観察を行っていると考えられている……というより、そういうためだと神々が言ったらしい」
あぁ、確かに堂々と言っていた気がするわ。誰かから聞いてもおかしく……いえ、おかしいわ。わたくしは楽園でのことを口止めされたんだもの。みんなそう……ではなさそうね。だって聖職者のなかでは楽園は真実として認められているわ。誰かが伝えないとこうはならないはずよ。
「先生、質問よろしいでしょうか?」
「何だい? クラン」
あら? 名前を覚えられているわ。そうね、よく考えてみれば半年前だものね。忘れているわたくしのほうが異常なのでしょうね、きっと。
まあこれは孤児院のことを忘れた時の弊害よ。いたって、わたくしのもともとの記憶力が悪いわけではないわ。
「どうやって聞いたのでしょうか?」
「いい質問だ。これらはすべて聖女様から聞いたことだ」
聖女様……神々の遊びのうちの一つね。
「神々は、唯一、聖女様の近くでは地上に降臨なさることができる。これらは聖女様が儀式の末に神を呼び出し、聞き出したことだ」
あら? 唯一聖女様の近くには降臨できるの? けれどこの前、土の神はわたくしの前にも現れたわ……
「はい」
「どうぞ」
「神々が聖女様の近くにだけ降臨できるというのは神々が言ったことですか? あと、どれぐらいの範囲なのでしょうか?」
わからないことだらけよ。
「あぁ、神々が言ったことだ。範囲はよく分かってはいないが、今までの儀式の結果から見るに、5m以内だろうと考えられている」
5m以内……。あの場にはノアがいたわね。彼女が聖女様ということかしら? それらしいとはいえないけど……
「今まで、神々は、聖女様から離れていき、いつの間にか消えている……という手法を取られていた」
なるほど。わたくしのときは普通に消えていたのだけど……いえ、考えるのは辞めましょう。取り敢えず今は話を聞くのよ。
「そもそも、聖女様とは、神々がランダムに決めているものである。その性質は、治癒が使えることが主である。主に魔術が使えないものの中から神々が選ばれるそうだ」
あら? では私はもちろんのこと、ノアも聖女ではないわね。
「また、聖女の血は多くの魔力を含んでおり、我々人には関係がないが、魔物はそれを好んでやってくることがある。だから我々聖職者は聖女を保護し、大神殿に迎えることで守る、これも重要な役目だ。そして、神殿に仕える騎士になれば、聖女様の仕事……土地を潤したり……などの護衛も行うことができる」
あらら?
というより男性の皆様? 目が怖いわよ?
まあ聖女様がすごいのは私でも分かるわ。こんなに心当たりがなければ、純粋に騎士を目指していたかもしれないわね。
「聖女様は、現在9人しかおられない。まだ見つかっていない聖女様もいらっしゃるかもしれないが……」
「先生!」
「何だ?」
「聖女様かそうでないかはどうやって判別するんですか?」
「治癒を使えるか使えないか、だ」
「では、そもそも聖女かもしれない人を見つけるにはどうするのですか?」
「聖女様がいらっしゃるところは実りがよくなる。そういった観点から基本は探している」
へぇ……そうなのね。他の方が質問してくれるからありがたいわ。
「聖女様はこのように非常に優れたお方だ。この学園には優れた騎士が多いと聞く。ぜひ、神殿に仕えてほしい」
あら、結局言いたいのはそれですか……。神殿って人不足なのでしょうか?
「話は戻るが……」
あ、まだ続くのね。そうよね、時間がまだまだあるもの。もっと話すことがたくさんあるに決まっているわ。




