23.クランは、人外の呼び出しに成功する
帰りたい。心からそう思うのだけれど、今帰るわけには行かない。きっと学園長やら何やらがわたくしに質問してきて、ゆっくりできないに決まっているもの。
「今日はお疲れ様。途中ハプニングもあったが、無事に終わって良かったと思う。今日はゆっくり休め。では戻るぞ」
「先生」
「何だ、クラン?」
「ここに残っていてもよろしいでしょうか? もう少し狩りをしてから帰りたいのですが……」
「自由にしろ」
遠い目をされた気がするわ。
それから10分。完全に見えなくなったのを確認してからわたくしは叫んだ。
「つーちー!!」
「うるさい。そして呼び捨てするな」
「あ、来てくれたわ!」
来てくれなかったら、鬱憤晴らしとして使おうと思ってたのよ。
「そりゃあ面白いものを見せてもらったからね。あんなに魔力を無駄に使っておきながら切れないなんて……!」
土め。笑っているわ。しかも魔力の無駄ですって? 聞き捨てならないわね。
「やっぱりあなたがしたの?」
「違うよ! 『約束』しただろ!」
「後から考えてみたら神様には効かないんじゃないかって思ったのよ」
「効かないのはここくんだけだよ!」
「あら? そうなの? それは良かったわ。ではなぜあれが出てきたのでしょう?」
「知るか!? お前に何か原因があるんじゃないのか!?」
土の神がそう言うということは……わたくしにはなにかがあるのでしょう。
「ねえ、教えてくれない? わたくしに何かあるの?」
「教えるわけがないだろ!」
ありがとう。肯定してくれたのね。
「そう……それは残念ね。あ……一つ聞いてもいいかしら?」
「何だ?」
「わたくし、あれを一瞬で倒せる気がしたのだけど実際は時間がかかってしまったのよね。何か原因知らない?」
「お前が他の人に、『一瞬ではない』と『約束』したからだろ!」
あぁ……なるほど。それも約束に入ってしまうのね。
「ちょっと……これ、便利すぎないかしら?」
「便利に決まってんだろ! 今更かよ!」
困ったわね。これの正しい使い方を誰かに教えてもらいたいわ。
神様は……つまらないからといって教えてくれなさそうだし……どうしようかしら? 神様が教えてくれなかったらこれを誰に教えてもらえばよいのでしょう? 「約束」のせいで誰にも言うことが出来ないのに。
「そう。教えてくれてありがとう。今度からも叫べば来てくれるのかしら?」
「そんな簡単に地上には降りねえよ! ……まあ、本当に必要なときは呼べばいい。そんな機会訪れたらおもしれえだろうし」
そう言って、土は消えていった。
「あらら、もう消えてしまったわ。他のこと?おいろいろ聞いてみたかったのに」
取り残されたわたくしは一人、考えていた。
わたくしには何かがあるという事実があるみたいね。これも関係しているのでしょうか? これは……「約束」を使うことによって知ることは出来そうだけど……試してみようかしら。まあ、お父様から許可はもらったもの、構わないでしょう。
あとは、この呪いの使い方も考えておく必要があるわね。これも聞こうと思えば聞けるのでしょうけど……これはちゃんと自分で考えたいわ。
まずは……何のために使うか……よね?
それに関しては自分を守るため……かしら? 安全に過ごす、それは目的よね。取り敢えずそれを守るためなら使ってもいいことにしましょう。
あとは……何でしょうか? 大切なものを守るため……とかがありそうなものよね。わたくしの大切なもの……。家族、自分、サリア、カナン……。駄目ね。全然思い浮かばないわ。まあそれを守るためにも使ってもいいでしょう。
とりあえずはこんなものでいいかしら?
結局何も変わっていない気がするわ。
あと考える必要があることは、この状態をどう説明するべきか……くらいかしら?
学園長や、お父様。お父様はこの前大ヒントをあげたから、もう何も説明しなくてもいいでしょう。学園長には……まだよく分かっていないのを正直に説明しましょう。
思い立ったら今すぐ行動しなければ。
いそいで学園に戻る。
校門の前に、やはりと言うべきか先生が待ち構えていた。
「クラン・ヒマリア」
「何でしょう?」
あぁ……一体このやり取りを何回繰り返すのでしょうか?
「学園長がお呼びだ」
「それで、学園長室にいけばよろしいのでしょうか?」
「そうだ。今日の件についての詳細を聞きたいそうだ」
「分かりました」
「失礼します。クラン・ヒマリアを連れてきました」
「入れ」
「失礼します」
へぇ~。ここが学園長室なのね。初めて入るわ。なんというか……想定よりもきらびやかだったわ。
「さて、ラーネカウティスクについて聞きたい」
「はい」
それくらい知っているわよ。
「あなたはあれを何だと捉える?」
それはどういう意図の質問かしら?
「何だって……あれはラーネカウティスクですよね?」
「そうだ」
「そういうものではないのですか?」
「それはそうだ。では、そういうものとは何だ?」
あら、深いところまで考えなくてはならないのかしら?
「攻撃はけして強いとは言えないが、回復力により強さを誇れている……みたいなものかしら? ドラゴンとは反対な気がしますね」
「そういう見方もあるな。セルアン、出ていっておくれ」
「分かりました」
セルアンという名前だったのね。覚えておきましょう。
「儂は君が『神々のいたずら』にあったことを知っている」
あら? どういうことでしょう?
クラン、記憶力は知らないけど、頭は悪くないよね……




