22.ノアは、クランの今後に同情する
放課後、クラン様が、一人で出かけていくのを見た。
何をしているんだろう? と興味を持ったので、ついて行ってみた。
クラン様は、慣れの森に行っていた。明日の校外学習で行くところだ。
バレないかな? おそるおそる覗いてみると、突然男の子が出てきた。
クラン様も最初は警戒していたようだが、その後は口を開けて笑うなどと、とても楽しそうだった。
気づけば、その男の子は一瞬のうちに消えていた。どういう仕組みなんだろう?
いいなぁ。私もあんなふうにクラン様と喋りたい。
その後、クラン様は魔物をどんどん討伐していた。
「クラン様!」
すごいなぁ。その気持ちのせいでつい、話しかけてしまった。
「ノア!? なぜあなたがここにいるの!? 一応危険な森なのよ、ここは」
名前を覚えててくれたんだ! 無性に嬉しくなった。
「皆のために、先に安全を作っておくとは……流石です!」
「わたくしは明日わたくしが動かなくてもいいようにやっているだけよ、それに、本当にみんなのことを思うのなら、魔物は残しておくべきよ」
それでもみんなを守ることにつながっているはず。だから、クラン様は尊敬できる。
翌朝。リルトーニア森に到着。
「さぁ、着いたぞ。グループで行動すること。それと、先生からみえることろ、これが条件だ。けっして先生が見えるところ、ではない」
「グループとは、いつ決められたのでしょうか?」
「今からだ。最低5人、最高10人。好きなやつと組め」
選べるの!ならクラン様と!
「クリーナ、クラン様と組みたいんだけど、いい?」
「やっぱりか……いいよ」
「さすが! 大好き!」
「クラン様、ぜひ私と!」1
「わたくしもご一緒させて下さい!」2
「私も連れて行ってくれませんか?」3
「わたくし、攻撃をする予定は作っていないのですが、それでもいいのですか?」
「ぜひ!」2
クラン様はもう誘われていた。急がないと。
「だったら私も入れて下さい!」
「申し訳ないのですが、私もいれてもらいたいですね」
「まあ、仕方ないといえば仕方ありません。入ることを許しましょう」
やった!
順調だった。クラン様が何もしなくてもはじめに声をかけていた貴族3人が倒してくれる。私も……正直あんまり役には立っていない。
昼食を食べ、しばらくしたとき。
黒く大きい魔物がやってきた。
「あれは何の魔物?」
「ラーネカウティスクだよ。別名深奥の黒い嵐」3
あ! それなら聞いたことがある!
たしか……推定討伐人数200人。
「火よ、焼け」
そう言って、クラン様は攻撃を弱めてくれた。
「さがりなさい」
「クラン様。まさか一人で……?」
クリーナが進言するも、一蹴される。
「当たり前じゃない。あなた達は弱いわ。あれを相手にできるわけがないじゃない。わたくしなら……さすがにこのレベルは一瞬とは言えないけれど、すぐ戦いを終えることができる。ならばわたくしが行くべきでしょう」
あなた達は邪魔よ、そう言われた気がした。
クラン様には嫌われたくない。だから下がった。
「火よ、焼き尽くせ」
一瞬で魔物に火がついた。確か水に強い魔物だったはず。だから火はより勢いがついてなければならない。私から見ると、十分に勢いはあった……気がした。
だけど、足りなかったのだろう。
魔物は焼かれながらも回復し、今もなお暴れている。火のおかげか攻撃は飛んでこない。けれど、魔物を直接燃やしているから、木々に火が少し移っている。……人に危害が出るよりはいいんだけど。
せめて私ができることとして、消火活動に勤しむことにした。
「水よ、火を消して」
私の一番得意な属性。魔物を攻撃している火を邪魔しないように、丁寧に消していく。
「維持。風よ、火を助けよ」
クラン様を見て驚いた。2つの属性を併用している。
そして、魔物はより暴れ狂っている。
そんなものも数分たてば収まり、あとは燃えるのを待つのみになった。
「まあこんなものでしょう」
こんなもの……って……十分すごいんですけど……
「大丈夫か!?」
先生がやってきた。
遅いよ! せっかくのクエアン様の活躍を見れなかったなんて……かわいそう。
「えぇ」
「ラーネカウティスクが出たんじゃないのか!?」
「えぇ、出ましたよ。燃えているあれですね」
「ラーネカウティスクが、燃えている!?」
「はい」
「誰だ! ……ってクラン・ヒマリア以外にこんなことができる人がいるわけないな」
そのとおりです!
「まあ無事だったのなら問題ない。後片付けをしたら戻ってくるように」
「分かりました」
「解除、そして水よ、火を消せ」
一瞬で火が消えた。
え? もう火消して良かったの? というかあの火を一瞬で消した……これまでの私の努力は何だったんだろう。
「ノア、ありがとう」
え!? 気づいてくれてた! 優しいなぁ。
そんなところにも気を配れるなんて……! やはりクラン様は尊敬に値するお方だ。
「良かったじゃん」
クリーナに喜んでいることに気づかれた。
深奥の黒い嵐。なぜこんなところにやってきたのかは分からない。きっと……原因はクラン様にあるんだろうなぁ。
クラン様の今後の大変さを思い、目が遠くなるのだった。




