18.クランは戻り、決意を新たにする
「クラン! 帰ってきたのね!」
部屋に帰ったら、巫女のフルーエに出迎えられた。
「ここ……わたくしの部屋よね?」
「そうよ。クランが『神々のいたずら』にあっちゃうものだから、1週間後の今日、ここでずっと待っていたの」
「『神々のいたずら』?」
「そう、あなた、神々の楽園に行ってきたでしょう?」
「そうよ」
「それを私たちは『神々のいたずら』と呼んでいるの」
そうなのね。そういえば、1週間もあちらにいたんだもの。普通なら大事態だわ。
「どんな人がそれに遭うの?」
「優秀な人よ」
「優秀?」
「そう、この前のあなたは、とても優秀だった。私は近くで見てたのに何も手を出せなかったもの。だから……あなたが羨ましかった。そんなふうに、役に立ったのだからそれはもう、優秀と神々に思われても仕方がないと思うわ」
フルーエがわたくしを羨ましいと思った……
「クラン、呪いは何だった?」
「言えないわ」
「そっか……普通はそうよね。じゃあいいわ。こっちであったことを説明するね」
そして、フルーエに教えてもらったことはこんなことよ。
・孤児院を襲撃した人たちは皆無事に捕まった。
・わたくしは「神々のいたずら」ではなく、自分で一旦出ていったことになっている。
・公爵家には伝えていない。
「なぜ伝えなかったの?」
「ごめんね。クランは孤児のためにも頑張れる優しい女の子だから……『神々のいたずら』に遭ったのがバレて、いいように使われるのを見たくなかったのよ」
そこからはすこしショックのある話だった。
いたずらは神殿にいる時に起こりやすい。だから、「神々のいたずら」はたいてい発覚する。そして、神殿は優秀な人材を見つけられる。そして、将来のその子を神殿に取り込んでいく……
「だから、クランが『神々のいたずら』に遭ったっていうのがバレてほしくないの」
フルーエが、わたくしのことを考えてやってくれたのが嬉しくて……頷いた。
口裏を合わせることにした。
「ねえ、フルーエ。わたくし、孤児たちとの記憶を一旦消そうと思うの。今、話せることを話しましょう?」
「どうして……あぁ、そういうことね。いいわよ」
神のお陰だと察してくれたみたい。
「彼らを、救えなかったわ」
「私は、手を出すこともできなかった」
「人を傷つける覚悟がなかった」
「実力がなかった」
「もっといい方法があったー」
ひたすらフルーエと懺悔し合い、孤児たちとの思い出を語り合い。
……気がつけば、日暮れ近くまでなっていた。
一通り語り終えたため、忘れたい、そう願った。
「クラン・ヒマリア。ただ今戻りましたわ。お騒がせさせてしまい、申し訳ありません」
神官長に挨拶をしにいった。
「いや、無事に帰ってきたのならいい。それよりも、そなたは襲撃から孤児を守ってくれたのだな」
「はい」
「ありがとう」
「え?」
神官長が、ありがとう? 誰も手伝いにこなかったのに!?
「光栄です」
「孤児は、孤独だ」
「はい」
「そなたが、孤児の心の支えとなってくれて、救ってくれて、本当に嬉しかった。今回のことは、こちらの非が大きい。これからは、これを改善していこうと思う」
そうか……これからは神官長がやってくれるんだ……安心だ。
安心? 何に対して? わたくしは、何を今思ったのだろう?
「その瞳……すべてを吹っ切った目だ。ときにはそういうことも必要だ。よい、必要な時に、彼らのことを思い出してやれ」
彼らって誰? 神官長は何のことを言っているのかしら?
どんどん頭が混乱してくる。
「いや、すまない。いまのは忘れてくれ」
「はい」
言われなくても……あんなよく分からないもの、覚えていれるわけがないわ。
「これからは、そなたの神殿からの外出を、制限する。代わりに、習いたいものがあったら、言うが良い。教えてやろう」
「口を挟むことをお許しください。先ほど、彼女は剣も魔術も強くなりたいと申しておりました。そのこともぜひ頭の中に入れておいてください」
「良かろう」
フルーエは一体何の会話をしているの? わたくしが剣も魔術も強くなりたい。などと、いつ言ったのでしょう?
しかし、思い当たる節はなかったが、心が、確かに習いたいと言っているような気がした。
「よろしくお願いします」
「いい顔じゃ。その決意を忘れるでない」
神殿での生活は、わたくしだけ変わった。
剣術も魔術も習い、暇なときにはいろんなことを教えてもらった。
そして、あっという間に神殿からでる日が来た。
「今まで、本当にありがとうございました!」
感謝の言葉とともに、わたくしは神殿を去った。
また、神殿に寄ることを誓って。
そして、わたくしはあまり喋らないほうがいいでしょう、と思ってお父様たちに社交の場には出ない、と「約束」したのよね。
お父様は忘れているようだけど。
まったく。
神殿を出たのが冬の終わり(3月)。
そして、それから入学の準備をして、クラス分けテストを受け、わたくしは1組……最上級クラスにやってきたのよね。
あら? この前弱い方がクラスにはいたわよね? いえ、きっと、頭のほうがいいんだわ。
それにしても……
神殿のことだけを思い出すつまりだったのに、その他のことまで思い出してしまったわ。
そして、わたくしは軽く笑った。




