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16.フルーエは、行動できたクランに憧れる


 私は神殿の巫女。フルーエ。


「孤児院が襲撃を受けた! 急ぎ連絡を!」


 そう言われて私は迷わず孤児院に向かった。その先で見たのは……



 神殿が預かっている女の子の一人であり公爵令嬢でもあるクラン・ヒマリアが、立ち向かっている様子だった。



「孤児にお金を使うな!」

「そうだそうだ!」

「俺達が稼いだお金が入っているんだぞ!」


 「どうして……?」


「なんだこの女。こいつも孤児か?」


「あなた達が親に無償で育てられているのと一緒じゃない!なぜ、彼らだけが救われないの!?」


「孤児を殺せ!」

「神殿に無駄なお金を使わせるな!」


「どうして! ここは神殿よ! 神々が見ておられるわ! その面前で神殿の行いを……神々へのお礼を……否定するの!? 神々への冒涜じゃないの!?」


「けっ、神々などいるわけねーだろ」

「あんなもん、神殿が金稼ぎのために言っている戯言だ」

「あんなもん信じるな」


「やめなさい!」


「うるせえなぁ」


 彼女がしていた反論は、大人とも渡り合えるほどだった。

 そして、神殿の巫女、神官、私たちが思っていることと同じことを言ってくれた。


 そして……


「風よ、切り裂け!」


 魔術を使ってくれた。

 私たち神殿しか今まで救ってこなかった孤児たちに、彼女が力を使ってくれた。彼女だけが、手を差し伸べた。


 大人の皮膚を切り、血があたりに散らばる。

 けれど、彼女は殺しはしなかった。

 大人が戦意を喪失させたと見ると、あたりを一瞬で浄化してくれた。

 それが、私には眩しかった。


 私にはあんな力はない。


 だから、孤児たちを救えた彼女が羨ましかった。


 そして、自分の力の無さが、身にしみて分かるのだった。



 死者、3名。被害がたったの1割で済んだことに、感謝すべきだった。


 神殿は、無力だ。

 孤児院は、義務でやっているだけ。

 誰も、救おうとはしなかった。

 唯一、孤児たちを救ってくれたのは、神殿の者ではない。ましてや孤児でもない。ただ、一緒に過ごしていた少女だった。

 しかも、私もよくクランといっしょに子どもたちと遊んだりした。

 それでも。救うことができたたものと、救うことのできなかったもの。明暗はくっきり分かれた。



「ごめんなさい……」


 あぁ、彼女にもこんな面があったのね。

 クランは泣いていた。


「いいのよ。クランはみんなを助けるために立ち上がったのよね。片付けもクランがやってくれた。それなのに、なぜ、謝るの?」

「だって……みんなを……助けられなかったわ!」


 分かってる。


「クランが何もしなかったらみんな助からなかった。十分よ」

「もっと早く自分が力を使っていれば良かった! そしたらみんな……!」


 分かってる。


「クラン、もう気にするのはやめなさい」

「無理よ!」


 分かってる。


「ここは神殿、懺悔する気持ちがあるなら、神々に祈りなさい」


 彼女が全員を救えなかったと悔やむ気持ちが本当によく分かる。


 あぁ、五柱の神々よ。

 孤児たち救ってくれた彼女を救えなかった私を、孤児を救うことすらできなかった私を、許してください。


 3人。私がはたから見るだけではなく、ちゃんと参加していたら……救えたのだろうか……?

 どうか、シイ、ナユ、ケミに救いがあらんことを。

 生まれてから今までを、孤児として過ごすことになり、最期は孤児だったせいで死んでしまった。孤児だったせいで一人以外から救いを差し伸べられなかった。


 私も、救えなかった。


 私は無力です。


 けれど、そんな無力な私の罪を許してください、そして、クランへの祝福をお願いします。



 そう、心のなかで神に祈った。



 祈祷室を見に行った。きっと、クランがいるだろう。


「え?」


 いなかった。他の部屋に行った? 自分の部屋にいるの? 頭が混乱する。

 あちこち探し回った。

 ……どこにも、いなかった。


 私は、この現象を知っていた。

 「神々のいたずら」、神隠し。いろんな呼ばれ方がある。神殿が採用しているのは、「神々のいたずら」

 実際に、彼らは神々に会って帰ってくる。

 その身に呪いを受けて。


 駄目よ。クランは、「神々のいたずら」にあったと知られてほしくない。

 それを知られては、あの子が、心優しいクラン・ヒマリアが、神殿にいいように使われてしまう。


 私は、虚偽の報告をした。


「クラン・ヒマリアは、子どもたちを助けたあと、子どもたちを救えなかったことを悔やみ、出ていってしまいました。彼女は、必ず戻ると言っていました。心配することはありません。彼女は、強い。たとえ、一人であろうと無事に帰ってこれるでしょう」

「それで帰ってこなかったらどうするのだ!?」

「出ていったのは彼女。しかし、それを止められなかったのは私です。私が全責任を負いましょう」

「覚悟はちゃんとある、と」

「はい、もちろんです。代わりと言ってはなんですが、一応は危険にさらしてしまったので……無事に帰ってきたのなら公爵家への報告をやめてほしいです」

「それは我らも一緒だ。よい、では、万が一の際の全責任はそなたが負うとして、公爵家には内密にしよう」

「ありがとうございます!」


 これで、純粋なあの子は守られる。


 けれど、救われるべき彼女が、なぜこうも呪いを受けなければならないのか……

 悲しさは、癒えなかった。


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