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俺くんは国際交流委員6「深淵を覗く者」

その日の晩、俺は、一日の疲れを(いや)すために、ぬるめのお湯につかりながら考えていた。


高校初日の自分を振り返ると、美人との関係性が急に増した気がする。

これはいったいどういうことだ?

こんなことは、俺の人生において、これまでに一度もなかったぞ?


高校受験を頑張った俺への、神様のご褒美か。(同じ神様の思し召しにより、うっかり犯罪者にされかけたりもしたが)


「井の中のかわず大海を知らず」


そう、今まで俺は、カエルだったのだ。

中学校という小さな世界で泳ぎ回り、そしてこれが「世界」だと考えていた。


しかしこれからは違う。

外界は刺激と希望に満ち溢れている。

たとえカエルであっても、自ら大海へと力強く泳ぎださなければならない。


いかんせん、ちっぽけなカエルだ。

強風によって、木の葉のようにあちらへフラフラこちらへフラフラ流されてしまうこともあるだろう。(強風とは美人のことと思った君、半分正解)

荒波をもろに受けて、せっかく進んだ道のりを押し戻されてしまうこともあるだろう。(荒波とは痴漢のことと思ったあなた、これまた半分正解)

これから高校という場所で、新しい人たちと、新しいことにチャレンジすることになる。

そんなことを考えながら、首もとまで温かな湯につかっていた。


おもむろに、空気を肺にめいっぱい吸い込む。

からだが、肺を基点に浮かんでくる。


風呂に、ひっくり返ったカエルが浮かんでいる。自分でもあまり見たくない、高校1年男子の体。見た目だけは一人前の大人だ。

健康だけが取り柄の具現化。


そうしてカエルの俺は考えた。

試しに、カエルのように泳いでみるか。

カエルは泳ぎの達人だ。


浴槽は狭く(井の中である)、小さな動きしかできない(蛙である)。

カエルである俺は、小さな浴槽で、小さく手足を動かしてみた。

いざ、大海へ向かわん!


一人前の高校生男子が、風呂の中で仰向けのカエル泳ぎ。

決して誰にも見せてはならぬ。

猥褻物陳列罪に問われる。

ばーちゃんが泣き崩れながら俺に抗議する。


しかも、一番の問題は、ここで、どうがんばって泳いでも、決して大海にはたどり着けないということだ。

必死に泳ぎながら、俺はまさしくここにたどり着いた。

俺は、バカであるということに。


◆今日の問題

これまでの部分を、80字以内でまとめよ。

◆答え

一人前の高校生男子が、風呂の中で仰向けのカエル泳ぎをし、危うく溺れるという生命の危機に直面することにより、自分のバカさ加減にやっと気がついた、ということ。(77字)


仰向けの俺は、一所懸命手足をバタつかせていた。

ここは我が家の風呂。

このままでは、もうすぐ溺れる。

生命の危機。


リポーター登場。

「ここで速報です。

(テロップ)『高校一年男子俺くん、自宅の風呂で溺死。いったい彼に、何があったのか?』

その後の調べでは、浴槽にはわずか40センチほどの湯しか張っておらず、警察は、この湯量での溺死は不審であるとして、さらに調べを進めるとのことです。」


不名誉だ。こんなの不名誉過ぎる。

取材と報道を断固拒否する。

それにしても、生命の危機に陥ると、人の頭には、こんなキテレツなことが想起されるのか?


ところで、古来、「溺れる者は(わら)をも(つか)む」という。

今の俺にとって、藁となるものは何だろうか?


ちょっとだけ思案し、すぐに()めた。

チラッと何かの影が浮かんだが、さすがに俺は、躊躇することなく、浴槽の縁を両手でガシッと掴んだ。

だって、死にそうなんだもの。

俺はまだ死にたくない。


つまり、この場面での藁は、カエル泳ぎを止めることだった。

「泳ぐことを止めることが、溺れることを回避させる」

この不可思議な真理に、感動すら覚える俺だが、この真理はあまりにも底が深そうなので、これについての考察は、後日に譲りたいと思う。

俺は、深淵を覗いてしまったのか?


それで、先ほど浮かんだ影なのだが、実は、委員長だった。

これをみなさんに言うべきか大変迷ったのだが、委員長だ。

これを、臨死体験というのだろうか?

生命の危機に際し、まさか委員長が俺の脳裏に浮かぶとは。


もし仮に、現在の我が姿を、委員長が見たらどー思うだろうか?


ヘンタイ!

チカン!

誰か、警察を呼んでください!

今すぐに!

逮捕案件です!

その他、ありとあらゆる罵詈雑言が、委員長から俺に浴びせかけられるだろう。

まるで湯水のように!


ここで、リポーター再び登場。

※なお、( )は俺の感想。

「再び、現場から中継です。

先ほどのカエル男(俺のこと?)の続報が入りましたのでお知らせします。

近所の奥様がたの情報では、どーやらその高校生男子は、日ごろから、何やらブツブツつぶやきながら(高校受験だったから、英単語でも暗記してたんだよ)、この周辺を徘徊していたようで(たまには気晴らしに散歩させてよ)、近所の奥様がたの噂になっていたようです。(そーなんだ。知らなかった)

今回の委員長へのセクハラ疑惑の容疑者(!?)は、挨拶をしてもろくな返事もせず(目が悪いから、気づかなかっただけ)、何かに取り憑かれように(だから、受験のことを考えてたの!)、よからぬことを考えながら、周辺をうろうろしていたようです。(コンビニにでも行ったんじゃない?)」

司会者「そーですか、それは大変ですね。」(何が?)


外国美少女への痴漢疑惑。(無意識です)

そうして今回の委員長へのセクハラ疑惑。(だから、やってません!)


悩み多き高校生男子のみなさん!

みなさんは、自分でももて余しぎみの我が肉体と妄想に、どう対処していますか?

こんな妄想に日々悩まされているのは、俺だけでしょうか?


人は、悩むために生きているのだろうか?

人は、悩むために生まれてくるのだろうか?


バスタブの縁に座り、俺は考えていた。

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