表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/48

俺くんは国際交流委員5「ゆえに俺くんに感謝なのです」

委員長「俺くん、アプリって知らないの?」


ボブの横髪を耳に(はさ)み、メガネの奥から斜め下に目線を送っている。

知的な横顔に含んだいたずらな気持ち。

視界の端で俺を見ている。



俺「(また俺のことを「俺くん」て言った)アプリ?」

委員長「そう。外国人向けに、電車の乗り換え案内や、外国人向けの宿だとかが英語で載ってるアプリがあるの」

俺「へ~、そーなんだ」

委員長「初めから、それを教えてあげればよかったのよ。私、教えたよ」

俺「なるほど」

委員長「そしたら彼女たち、喜んでたよ」

俺「そうだったね」

委員長「それに、俺くん、ずいぶん会話に困ってたみたいだけど、英会話のアプリもあるじゃない。知らないの?」

俺「そーでした……おっしゃる通りです……」


いま思うと、美人さんたちを前に、俺はアガっていたのである。

緊張のあまり、冷静な判断ができなかった。

何してんだろう、俺……


委員長「でも、彼女たちも無事に目的地に行けそうだし、とりあえずはよかった」

俺「そーだね。委員長には感謝する。助けてくれてありがとう」

委員長「たいしたことないよ。困ってる時はお互いさまだから」

俺「ホントにありがとう」

委員長「どーいたしまして。……私も今日、助けてもらったから」

俺「(?) 助けてもらった?」

委員長「そう。助かった」

俺「(?)」

委員長「俺くんには感謝してる」

俺「(どういうこと?)」

委員長「私こそ、ありがとう」


委員長は、体ごと俺の方を向き、柔らかな表情で礼を言った。


俺「俺、委員長に、何かしたっけ?」

委員長「うん。」

俺「(?)」


委員長の視線は、まっすぐだった。

俺は?マークを委員長に送ることしかできなかった。


委員長「今日、みんなとの初めての顔合わせで、私とても緊張してた。ホームルームの時、ちょっとぎこちなかったでしょ?」

俺「いや、そんなことないよ。立派だった。みんなの前で堂々としてた。司会進行も、バッチリだった」

委員長「ありがと。でも、実は、そんなことないんだ。私がいちばん緊張してた。委員決めも、うまく進める自信がなかった」

俺「うまくいかなくて、あたりまえだよ。初対面なんだし」


今日、委員長は、きびきびとクラスの仕事をこなしていた。

それは、委員決めだけではない。

配付物を職員室から運んだり、黒板に日付や今日の予定を書いたり、回収物を集めたりで、とにかく忙しそうだった。


だからみんなはその姿を見て、彼女に協力しようと思ったのだ。

委員長は、一日目にして、クラスのみんなの心をつかみ、クラスをまとめていた。


委員長の横顔には、やや疲れが見える。

伏し目がちにホームの点字ブロックを見ている。

両足の靴をそろえ、床にかかとをトントンしている。


委員長は続けた。


「いよいよ委員決めになって、みんな、なかなか手を挙げてくれなかったでしょ。当然なんだけど」

俺「うん」

委員長「その時に、俺くんが真っ先に立候補してくれたの」

俺「そうだっけ?」

委員会「そう。俺くんが一番初めに手を挙げてくれた」

俺「そーだったかも」

委員長「私、とってもうれしかった。あの時、俺くんが手を挙げてくれて、助かった」

俺「そんなことないよ。俺はただ、自分の位置を、早めに確保したかっただけだよ」

委員長「(微笑み)」

俺「だから、楽そーなのを確保しただけ」

委員長「でも、俺くんが最初に手を挙げてくれたから、みんな、手を挙げやすくなったんだと思うよ。最初は誰でも様子を見たいじゃない?」

俺「そーだね」

委員長「ゆえに俺くんに感謝なのです! ありがとう!」

俺「どもども」(若干、恥ずかしい)


委員長の頬は、沈みかけた夕陽の色に焼けている。

眼鏡の向こうの瞳が、まぶしそうに俺を見ている。

俺はハッとした。

彼女はとてもきれいだったから。


もう少し委員長と話をしていたいと思い、俺は話題を変えた。


「ところで、委員長。委員長は何で俺のことを『俺くん』って呼ぶの?」

委員長「アー、それはね、俺くんの名前が覚えづらいのと、」

俺「(覚えづらいか?)」

委員長「教室での俺くんの初めての言葉が、『国際交流委員は、俺がやります』だったから」

俺「ハー」

委員長「それに、俺くんはいつも、『俺俺』言ってるし」

俺「そんなに言ってる?」

委員長「うん、言ってる。結構耳につく」

俺「そーなのか?」

委員長「そーなんです」

俺「でも、人から『俺くん』って呼ばれるの、ちょっと変じゃね?」

委員長「そんなことないよ。俺くんに合ってると思うよ」

俺「俺に合ってる?」

委員長「そう、とっても」

俺「そーなんだ」

委員長「そーなんです」


最後はふたりで、ちょっと笑ってしまった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ