俺くんは国際交流委員4~委員長のたくらみ~
「エッ、ホント?」
突然日本語で叫ぶ委員長。
とても驚いた表情。
いったい何があった?
3人は、俺を無視して会話を続ける。
不愉快この上ない。
俺も仲間に入れて!
チョットでいいから!
英語はわからないけど!
俺「ねぇ、どーしたの?」
委員長「んーっと……」
俺「なになに? 何かあった? 俺にも教えて」
委員長「んーっとねぇ……」
俺「うんうん」
委員長「あのね……」
俺「だから、早く!」
委員長「……これはまだ、公にしない方がいいと思う」
俺「そんなー。チョットでいいから教えてよ。」
委員長「どーしよーかなー……やっぱり、やめとく」
俺「そんなー。気を持たせておいてー」
委員長「そだよねー。それはそーなんだけど……やっぱり言えない!」
俺「(コイツー! 意外に手ごわい)」
委員長「でもね……近日中に、ビックリすることがあるかもしれない」(いたずらな目)
俺(コイツ、何かたくらんでる)「ビックリすること?」
委員長「そう、俺くん、結構驚くと思う。みんなもね」(輝やく目)
俺「ずいぶん気を持たせるなー」
委員長「だって、その方が、楽しいでしょ!」
俺「そんなもんかなー」
委員長「そんなもんです!」
俺「んー」
委員長「高校生活、楽しい方がいいでしょ!」
俺「そだね?」
俺は、うまく言いくるめられた気がしながら、委員長を見た。
委員長の黒い瞳は、とても楽しそうだった。
その後、俺と委員長は、美人さんたちを、海に向かう路線のホームまで連れて行ってあげた。
美少女と委員長はすっかり仲良くなり、SNSの交換をしていた。
俺もちゃんと英語を勉強しとくんだった。
英語ができると、やはり世界が広がる(美少女と仲良くなれる!)気がする。
委員長は、あっという間に異国の友人ができたのに、俺はそれをただ眺めることしかできなかった。
外国美人と日本美人、そして危うく犯罪者になりかけた俺の一団は、すれ違う人たちの注目を集めた。
どうしてあんなサエナイヤツが彼女たちと一緒にいるの? と。
それは、何度繰り返されたことだろう。
意気消沈している俺をよそに、「アリガトウ」という言葉を残して、美人さんたちは電車に乗り込んだ。
窓越しに手を振っている。
初めは片手でバイバイしていた委員長だったが、最後はとびっきりの笑顔で両手を大きく振っていた。
両足でピョンピョン跳ねながら。
委員長って、案外こういう子なんだ。
教室では、クールに見えたけど。
ボブヘアーがオレンジ色に揺れている。
体に意外にバネがある。
夕陽が彼女を包んでいる。
ところで、俺の存在は?
ただの犯罪者?
とにかくなんでもいいから、俺をちゃんと認識してくれ!
まるで空気のように扱うのはヤメロ!
こうして委員長のおかげで俺の退学の危機は回避された。
やっぱり俺ってサエナイな……
彼女たちが、無事に電車で去った後。俺と委員長は、駅の自販機で飲み物を買い、ベンチで休んでいた。
高校生活初日からホントにいろいろあって、ふたりともちょっと疲れている。
今日は荷物が多いなーと思ったら、委員長の通学バッグを持たされたままだった。飲み物を買う時に、「いつまでバッグ持たせてんねん!」と言うと、委員長は、「テヘッ」と言って、茶目っ気たっぷりに笑った。
アニメの主人公にでもなったつもりか?
しかしいま、俺には委員長を直視することができない。
高校1年男子は、ほぼ全員が恥ずかしがり屋だ。
隣に座る委員長。
ジーっと見られるはずないじゃん。
今日、話したばっかりだし。
ところで、委員長とベンチで休もうとした時、俺は考えた。
◇ケースその1…2人とも座る場合
その距離感が難しい。すぐ隣はまずいし、あまり離れて座るのも何か不自然で違う気がする。
◇ケースその2…委員長が座り、俺は立っている場合
この方が話しやすい。男子のためらいや気恥ずかしさのためだ。
今日知り合った相手と駅のベンチに座るというだけのことで、これほどまでの思案を、俺はしていたのだった。
でも、委員長は委員長で慎みのある人で、結局、絶妙な距離で座った。
ペットボトルに口をつけながら、俺は今日という日を振り返った。
俺には外国美少女の侵略に対抗する手段がなかった。
美しい敵に、美しい武器で突然戦いを挑まれ、完膚なきまでにヤッツケられた。
そうして、委員長のおかげで、かろうじて生き残った。
「国破れて山河在り 城春にして草木深し」
昔の人は、ずいぶんうまいことを言ったものだ。意味は分からないが。