俺くんは国際交流委員3「委員長登場!」
ども、俺です。
もう、これからは、本当の自分を隠すのはやめよーと思います。
自分を隠しても、今までいーことはひとつもなかった。
ならば、隠さずに生きよーぞ。
高校1年男子、俺くん、ここにあり!
伸び盛りの健康優良児(死語)。
どーせみんな俺のこと、ヘンタイ扱いだ。
でも、ちょっと待て!
ホントにそれでいいのか?
いま、俺は、投げやりになってないか?
マジメに生きてきた15年間を、投げ捨ててもいいのか?
お前のこれまでの人生は、そんなに軽いものだったのか?
確かに彼女のそれは存在感がある。
しかし、それに、お前の人生を賭けてもいいのか?
さっきは興奮していた。
そのあまりにも魅力的な存在により、俺は一時、我を忘れていた。
冷静を取り戻した俺は、今後について考えた。
これは困ったことになった。
俺の人生の危機。
まだ高校に入学したばかりなのに、一日にして進路変更(=退学)か?
担任「せっかく入学していただいたのですが、やはりこれを見逃すわけにはいきません。」
うなだれる俺。
「本当にすまないことをしました。まことに申し訳ありません。」
消え入るような声で言い、深々と頭を下げる両親。
その拳は、固く握られている。
バカ息子に怒りが収まらず、いまにも俺を殴らんばかりである。
頭を鷲づかみにされ、無理やり下げさせられた俺の頬を伝う涙……。
なぜそんな悲惨な結末を迎えることになるのかを解説しよう。
胸もとを凝視した(本当はしていない)俺を、周囲の乗客が駅事務所に連行。
交通警察によるキビシイ事情聴取。
俺の無意識を認めてくれるひとは誰もいない。
保護者呼び出し。
学校へ連絡。
慌てて駆けつけた親と担任からの説教。
家に帰ると、ばーちゃんが、俺の前で泣き崩れながら抗議。
最悪の場合、逮捕。
希望に溢れた高校生活、こんなはずではなかったとうちひしがれる俺……。
あんなにガンバッテ勉強し、やっと入った学校。
憧れていた高校生活。
未知の彼女との出会い……。
そんな未来を、俺は失ってしまうのか?
だって、目の前にあったんだもの。
とっても魅力的なものが!
そりゃ、無意識でも見ちゃうよ。
仕方がないことだよ。
理解してよ。
見逃してくれ。
見たっていいじゃないか!
ただのサエナイ高校生からエロオヤジへの急降下。
もう、素直に謝ります。
ホントにごめんなさい。
謝罪いたします。
(無意識なんだけどね)
「俺くん、どうしたの?」
この言葉とともに現れた委員長を、俺は神かと思った。
やっぱり委員長は頼れる人だった。
黒縁眼鏡の奥の目は知的で、手入れされたボブヘアが夕日に染まっている。
締まったからだ全体から、機敏さが感じられる。
神の登場に救われた俺は、さっそく委員長に報告・連絡・相談をした。
「それがさぁ、この人たち、困ってるみたいで」
まだクラスメイトになりたての相手に、「さわやかな俺」を演出する俺。
委員長「何か困ってるの?」
俺「それが、早口でよくわからなくて」(ゆっくりでも理解できないんだけどね)
委員長「そーなんだ。じゃあ、私が聞いてみようか」
俺「お願いします。ぜひ!」
委員長、自信ありげだけど、大丈夫?
その時の彼女の姿は、今でも俺の記憶にしっかりと刻み込まれている。
女性に憧れるという人生初の経験を、この時俺はした。
高校生活って、刺激的だ。
委員長は一瞬ためらった後、
「これ、ちょっと、持っててくれる?」
と言って、自分の通学カバンを俺に差し出した。
俺はちょっとびっくりした。
彼女とは、今日出会ったばかりだったから。
けど、ここは委員長の頼み。
聞いてやらねばと思い、俺は素直にそのカバンを受け取った。
彼女が人懐っこく接してくれるのが、俺はちょっとうれしかった。
そうして委員長は、白くしなやかな手でボブの横髪を耳に挟み、メガネをかけ直し、俺に持たせた通学カバンからスマホを取り出した。
黒い革製の手帳型が、彼女に似合っている。
ちらっと見えたバッグの中は、きれいに整理されていた。
それから委員長は彼女たちにもスマホを準備させ、会話を始めた。
よどみない英語。
スゲー!
カッコイー!
委員長の英語は、本物だった。
会話がスムーズなだけではない。
彼女たちの心をほぐしているのが分かる。
その表情には、俺に対する怒りとは反対の、笑顔と安心が浮かんでいる。
見知らぬ国での緊張と不安が、委員長によって払拭されたようだった。
イキイキと会話する委員長に、ただただ感心する俺だった。