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俺くんは国際交流委員19「アロハと満員電車」

ホームは、すでに混雑していた。

乗車の列に並び、居合わせた人たちとかたまりとなって乗り込まないと、電車の中には入れない。


俺「この車両に乗るよ。いーい?」

アロハ「ウン」

俺はなかばアロハを抱えるようにして、車内に乗り込んだ。

駅入り口のケダモノたちといい、満員電車といい、慣れないアロハは今まで大変だったろうなぁと改めて思った。


目指す学校の最寄駅は、このあたりの路線のハブ駅になっている。

山側と海沿いを走る二つの路線がそこで交差しており、下車駅に近づくほど混雑度が増す。


駅に着くたびに、さらに乗客が増えてきた。

まったく身動きが取れない。


電車の中で、俺とアロハは初め、隣同士で乗っていた。

肩が触れているだけでも十分に恥ずかしい。

向かい合わせで乗るなんてとてもできない。ムリ。

心臓がおかしくなる。


しかし、これがなかなかうまくいかない。

ズレる。

人に押されて、いつの間にかアロハと離れてしまう。

これでは護衛ができない。

一緒に通学している意味がない。


俺は、途中駅で人が下りた瞬間を狙ってアロハを引き寄せ、正面で見合う形にした。


密着するふたり。

蜜です!(かつて聞いたセリフ)

濃密です!(意味が違う)


アロハとそんな位置関係になりたくないのかと問われれば、ぜひお願いしますという返事しか浮かばない。

浮かばないが、今はまだその段階ではない。


俺はいい。

しかし、いま、アロハは大変困っている。

サエない俺くんと無理やり顔を見合わせられた窮状にいる。

そんなね、困っている人の弱みに付け込んで自分だけいー思いをしよーなんてのは、人としてどーかと思う。

人の在り方として正しくない。

卑怯なヤローだ。


俺は、右手でつり革を握り、左手で座席の鉄棒を握り、アロハを守りつつもできるだけアロハに接触しないという難度の高い技術を駆使しながら、そんなことを考えていた。

肩にかけたカバンが、もうすぐずり落ちる。


アロハをちらっとのぞくと、顔が赤くなっている。

確かに車内の温度は上昇している。

誰か窓を開けてくれませんかー。

季節的にはまだ寒いけど。


電車が揺れるたびに俺は、両側と後ろにいる人の全体重を支えた。

そうやって俺はアロハを守った。

ガンバレ俺。

下車駅まで、あと2駅だ!


ふと、アロハが顔を上げた。

俺は思わずその瞳を見た。


みなさん。

こんな時、俺はどうすればいいのだろうか?

この状況で高校一年男子のとるべき態度はどのようなものなのか?

俺にはわからない。

だって、こんなの初めてだもの。

知識もないもの。

いままで誰も教えてくれなかったんだもの。


いつもの俺だったら、すぐに視線を外すんだけど、なぜかこの時、彼女ともっと視線でつながっていたいと思ってしまった。

変なところで、突然変な勇気がわいたのだ。


気持ちが高揚してるのか。

初めての状況に舞い上がってしまったのか。

自分でもよくわからない。


目の前にあるアロハの瞳と長いまつげがかすかにふるえている。

焦げ茶色の眉を寄せている。

車内のよどんだ空気が、アロハの体を支える力を奪っていく。


やがてアロハは、スッと視線を外した。


それで俺はまた、アロハの護衛役に戻ることができた。

俺「あと、ふた駅だよ」

アロハはうなずき視線を落とし、俺に体を預けてきた。

俺は護衛として、アロハを支えた。


みなさん。

ここでみなさんがとーっても気になっていることがあると思う。

満員電車で向かい合わせのこの状況で、アロハのアロハはどーなっているのかと。


みなさん。

アロハはつつしみのある子だ。

アロハは通学バックを両手で抱え、胸元にギュッと抱きしめている。

だから俺は、そんな状態のアロハを、優しく包み込めばよかったのだ。

包み込み護衛だ。


☆☆☆☆☆


無事駅に着き、バスに乗り換え学校に到着すると、生徒たちは次々に下車していった。

みな、やっと学校にたどり着いたという様子だ。

それは俺とアロハも同じだった。


生徒昇降口までゆっくり歩いて行く。

ふたりに会話はない。

今日という日はもうこれで終わりと言っても過言ではない気分だった。


※以下英語

俺「さっきは大変だったね。大丈夫?」

アロハ「ウン、ダイブ気分ガ落チ着イタ。」

アロハの頬はぼんやりと赤みを帯びている。

俺「そう? よかった」

アロハ「今日ハ俺クンガ一緒ダッタカラ、ホントニトッテモ助カッタ。アリガトウ!」

俺「それはよかった。明日も一緒に登校しよう!」

アロハ「無理ニハ、イイヨ」(すまなそうな表情)

俺「大丈夫だよ。その方が、俺にとってもいいから」

アロハ「エッ? ドウシテ?」

俺「毎朝早起きできて、生活のリズムが整うし」

アロハ「ソウナノ?」

アロハはちょっと意外な表情をした。

俺「うん。それに、アロハもまだ通学に慣れてないから、俺でよければ、これからも一緒に登校しよう!」

アロハ「アリガトウ! 明日モヨロシクオネガイシマス!」


やっと元気が出たふたりだった。

「俺にとってもいいこと」の理由は、ホントは違うんだけど、それは言わないでおいた。

他の生徒たちの、「どうしてお前がアロハと一緒に登校してんの?」という視線は、すべて無視した。


3階にある教室に向かい階段を上っていると、後ろから「オハヨー!」という元気な声が聞こえてきた。

委員長だ。


アロハ「オハヨー!」

俺「おはよ。今日も元気だね」

委員長「ふたりとも疲れた顔してるなー。朝からケンカでもしたの?」

俺がムスッとした表情をすると、委員長はあわてて訂正した。

委員長「ウソウソ、ごめんごめん。今日も混雑ひどかったね。アロハの護衛、お疲れ様!」

俺「ラッシュが憂鬱だ。もっと早く登校するしかないかも」

委員長「そーすると、早起きが大変だね」

俺「委員長はラッシュ平気なの?」

委員長「私は中学の時から電車通学だから、もう慣れてるの。ベテランていうの?」


委員長は、両手を腰に当ててエラそうに胸を張った。

控えめな胸もとが、強調されている。

から、やめた方がいいよ。

とは、絶対に言ってはいけない。

俺は、「はいはい」という表情を、委員長に返した。


俺を置き去りにして、アロハと委員長は階段をパタパタ上って行ってしまった。

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