俺くんは国際交流委員1「俺くん、国際交流委員に立候補!」
「と、いうことで、1学期は、この係り分担でお願いしま~す!」と、委員長が笑顔で宣言した。
高校生活1日目。
ホームルームではさっそく係り決めが行われていた。
委員長だけは担任から氏名されたが、入試の成績が良かったのだろう。
彼女はさっそく、提出物を回収したり、配布物を運んだりして、忙しそうに働いている。
黒のショートボブに黒縁のメガネをかけている、とても知的な女子だ。
窓際から2列目のいちばん後ろの席に座っていた俺は、これから始まる高校生活に多少の不安と少しの安心を抱いていた。黒板に書かれた「国際交流委員」の下には、俺の名前がある。
俺が国際交流委員に立候補した理由は、これといって特にない。担任の話では、たいした活動もしていない委員会のようだし、委員決めは早い者勝ちなので、とりあえず自分の位置を確保しておこうと思ったのだ。
1日目が終わり、体に若干のだるさを感じながら、帰路に着く。今日は、ホームルームが3時間と校内ツアー(という名の、担任による校舎案内)、学年集会(意識を失ってた)などがあり、盛りだくさんの日だった。授業はなかったが、妙に疲れる一日だった。
バスから降り、駅に向かう。
キップ売り場に女性がふたり立っていて、かなり人目を引いていた。とても美人だったからだ。
何かの撮影ですか?
まず服装が派手だった。
4月なのに、南国から来たような服装をしている。
若い方はシャツに短いスカート、もう一人は薄手のワンピース。とりあえずありあわせで羽織ってますという感じでストールを肩に巻きつけている。
顔が似ていたから、多分、親子だろう。
それぞれ個性的な美が、とても良かった。(何が?)
自分にツッコミを入れたくなるほどの、久しぶりの心の高まりを、その時、俺は感じていた。
高校受験明けの男子。
目の前にいるとても美しい女性。
この解放感を、何と表現しようか。
どうせなら、もっと解放されたい!
美人さんふたりを「眼福眼福」と小さくつぶやきながら横目で眺める俺だった。
彼女たちは駅の掲示を眺めては何やら相談している。
すると、若い方の女性が急に俺に視線を向けた。
美人にまともに見られたのは、自慢ではないがこれが生まれて初めてだ。
彼女は心細そうに眉を寄せ、窮状を全身で訴えている。
エッ? 俺?
なんで俺に助けを求めるの?
こんなに人がいるのに、こんなサエナイ俺を選ぶ?
もし俺が彼女の立場だったら、絶対に俺を選ばない。
俺は大変戸惑った。
しかし、彼女たちは困っている。
そうして、困っている人を助けないヤツは、人ではない。
人でなしである。
俺はまだ、人でなしと呼ばれたことはないし、これからも呼ばれたくない。
国際交流委員である。
(いま思い出した)
そこからが大変だった。
俺に近づく美人ふたり。
それを見てざわつく周りの人たち。
「あんなヤツと美人さんが知り合い?」
「いやいや、そーは見えない」
「だって、サエナイじゃん、アイツ」……
俺に対する悪口雑言の数々。
しかもわざと聞こえるよーに言ってないか?
言ってるよね。
心が折れる。
彼女たちは、俺に向かって何やら話し始めた。
こうなったら仕方がない。
俺は無い頭をフル回転させ、貧弱な英語力を駆使し、なんとかコミュニケーションを図ろうとした。
俺は困惑と幸福を、同時に感じていた。
何を言っているのかがわからない。
視覚的情報量が多すぎる。服もスタイルも、すべてが華やかでしかも上品。
さらには、何やらいい香りも漂って来た。
ヤメロ!
これ以上の魅惑的攻撃をするな!
その攻撃に耐えられる俺ではない!
俺は心の中でそう思っていた。
いや、ホント、お願いします。
会話は成立せず、時間だけがむなしく過ぎて行く。
若い方の美人さん(以下、美少女)の人選ミスはすでに明らかだ。母親と思われる美人さん(以下、美人母)も、困り果てた表情をうかべている。
このままでは、俺の国際交流委員(本日登録)としての存在価値が暴落する。
困りきった俺は、「いい考えよ、浮かべ! 」と、不足気味の我が脳ミソに、物理的刺激を与え始めた。
我が手で我が頭を叩いたのだ。
苦肉の策ではあるが、愚策である。
急にヘンナコトを始めた俺を見て驚いた美少女は、慌てている。
美人母も呆れた表情で、冷たく俺を見ている。
こんなヘンナヤツに関わると、ろくなことがないと判断したのだろう。
正解である。