1.若人
葉山 琴
男とも女ともとれる名前を付けられたのも今思えば運命だったのかもしれない。まあ、きっとどんな名前でも俺の「かわいくなりたい」ってきもちは変わらなかったと思うけど。
「全盛期」は長くは続かないから、「全盛期」なんだろう、俺にも「かわいかった」時期はあった(と思いたい)。女友達からメイクを教えて貰って、かわいい服を選んでもらったあの時、俺の全盛期は始まった。かわいいと持てはやされ、調子に乗って始めた女装コンセプトのコンカフェでのバイトも好調だった。
でも、それは俺の「全盛期」だった頃の話なわけで、今のおれを客観的にみると髪がながいだけのおじさんだ。おれをかわいいと言ってくれる友達やお客さんはもういない。
スマホに入っているSNSのタイムラインには若い男の子の女装姿の自撮りばかり目立っていて、惨めな俺を馬鹿にしているみたいで具合が悪い。昔は俺だってかわいかった、きっといまの自分の姿にイメージが引っ張られすぎているだけ。そう言い聞かせクローゼットの中から女物の服を取り出す。
体型は変わっていないから、すんなり着ることができた、髭も剃った、メイクもした、美容院で髪も整えてもらった。意外と身なりを整えただけでも気分は乗った。でも、おれが求めているのは人からの評価だ。他人からかわいいと言われることほど嬉しいものはない。
自撮りなんて何年ぶりだろう。加工アプリで肌は白く、目は大きく、鼻は小さくして、SNSに投稿した。だけど、若くてかわいい女装男子には勝てなかった。俺の自撮りのいいねは1桁だが、スクロールすると他の自撮りに数百のいいねがついていた。正直頭ではわかっていた、歳には勝てない。恥ずかしさと虚しさが頭をぐるぐる回って俺の手は投稿を削除していた。