ホルルドの街④
今回の作品は、他の方の作品と、極力被らない様に、オリジナルティーを重視して、書き上げて参ります。
異世界ものではありますが、主人公は、1作品目、2作品目とは、立ち位置が違います。
予定では、かなりの長編になる予定ですので、読み応えがあれば良いなぁと、思う次第です。
少しでも、多くの方に、読んで頂ければ、ありがたいです。
誤字脱字等、あると思いますので、ご指摘もお願い致します。
サーシャが仕事から、帰宅すると、部屋が綺麗になっている事に気付いた。
「えっ!?ルーシュくん、掃除してくれたの?」
「あ、はい。暇だったんで。」
「それにしても、埃ひとつ見あたら無いわね・・・。ルーシュくんに、家事の才能まであるなんて・・・、何か、負けた気分・・・。」
「いえ、魔法で、掃除しただけなので、家事の才能は無いですよ?」
「魔法?そんな生活魔法あったかしら?」
「まあまあ、細かいことは、置いておいて、夕食にしませんか?」
「あ、うん、そうね。」
新魔法の追求を避けるルーシュ。
ルーシュが、あっさりと、新魔法を作れるのは、所持している、ある技能の恩恵だ。ただ、この技能、レアどころの話では無い。
流石に、ルーシュも、これは秘匿すべき技能だと、理解しているので、口を滑らせる事は無い。
それから、日中に、ルーシュが購入してきた食事で、夕食を摂る2人。普段は、1人で食事をしているサーシャだが、今は、ルーシュがいる。自然と会話も弾む。
「・・・と、こんな感じで、街を見回って来ました。」
「そうなのね。だから、フード付きの服を買ったと。」
「えぇ、目立ちたく無かったので。」
「・・・本当に、目立た無かった?」
「平気だと思いますけど?」
「なら、良いわ。そうだっ!それよりも、ルーシュくん。例の使い魔の件。登録しないの?あっ、勿論、レッサードラゴンじゃない方よ。」
「あぁ、そんな事も話してましたね。でも、良いんですか?僕だけじゃなく、その子も泊めてもらう事になりますけど・・・。」
「小さな魔物なんでしょう?構わないわよ。」
「・・・そうですか。」
(う〜ん、どうしようかなぁ?近々、あっちの山に戻るつもりだったから、正直、呼び出す必要ないんだよね。・・・でも、登録しておけば、他の街でも安心?)
「どうしたの?実は、大きな魔物とか?」
「いえいえ、本当に小さいですよ。そうですね〜、僕の顔くらいの大きさです。」
「あら、本当に小さいのね。」
「えぇ、まだ幼体、赤ちゃんなので。」
「それなら、尚更、呼んだ方が良くない?今は、何処にいるの?」
「えぇっと、レッサードラゴンの群れの中です・・・。」
「えっ?」
「レッサードラゴン達に、面倒を見る様に、指示を出してます。」
「それって、もしかして、レッサードラゴンの赤ちゃんなの?」
「いえ、ドラゴンは、ドラゴンですけど、レッサードラゴンでは無いです。」
「そう、ドラゴンには変わり無いのね・・・。」
「ま、まぁ、そうですが、ドラゴンは寿命が長いし、成長も遅いから、僕らが生きている間は、小さいままですよ。」
「そうなのね。なら、安心かな?」
「ええ。」
「それなら、食後に呼び出して。すごく、気になるから。」
「あ、はい。」
と、引き受けてしまうルーシュ。
居候なので、家主の要望には逆らえないのだ。
そうして、食事も終え、片付けが終わると、いよいよ、プリムを召喚する事になった。
「では、詠唱を行います。」
「え?詠唱が必要なの?」
「ええ、魔法を使うには、必ず、詠唱が必要ですから。」
「あれ?でも、ルーシュくん。〈アイテムボックス〉じゃなかった、インなんとかって魔法を使う時、詠唱して無かったけど?」
「あぁ、あれは、既に、詠唱を終えているからです。」
「ん?どう言う事?」
「そうですね、分かり易く言うと、常に使用中なんです。」
「ずっと、魔法を使い続けているって事?」
「はい、そうしないと、中に入れた物が、消失してしまうので。」
「それって、魔力が保つの?」
「う〜ん、こればっかりは、その人の魔力量次第ですね。〈アイテムボックス〉や〈インベントリ〉を使える人が少ないのは、そのせいもあります。」
「便利な魔法だと思ってだけど、デメリットもあったのね。」
まるで、生徒に教える教師のように、説明するルーシュ。
魔法発動には、詠唱は必須で、〈アイテムボックス〉も例外では無い。
ただ、ルーシュは、技能〈無詠唱〉が使える。
本来なら、これから行う召喚魔法も、詠唱なしで行使出来るが、それを隠す為に、今回は詠唱を行う。
普段は、抜けている所もあるが、問題になりそうなものは、ちゃんと、隠しているのだ。
〈夜の狼〉との一件でも、ルーシュ自身は、魔法を使ったとは、言っていないし、魔法名も述べていない。
「では、改めてまして。
遥か彼方 契りを結びし 我が眷属よ 血の盟約に従い 時を越え 空を越え 扉を開き 我が呼び掛けに応え 再び我が眼前に その姿を現し 力を示せ 召喚 プリムっ!」
詠唱を行うと、ルーシュの眼前に魔法陣が出現し、そこから、光の粒子が放出し、眩い光を放った後、その場には、ホワイトプリムドラゴンの赤ちゃん、プリムが現れた。
プリムは、召喚された場所が、見慣れない景色の為、以前、召喚した際と比べて、落ち着き無く、キョロキョロと辺りを見渡していたが、目の前のルーシュに気付くと、
「キュイっ!!」
と、鳴き声をあげながら、ルーシュの胸に飛び込んだ。
「1日ぶりだね、プリム。元気にしてた?」
「キュイ、キュイっ!!」
「うん、元気そうだね。あっ、ここは、ホルルドって言う、街の中。って、分からないか。」
「キュイ?」
「サーシャさん。この子が、僕の使い魔、プリムです。」
プリムの紹介をするが、サーシャの返事がない。あれ、また、何かやっちゃった?と、ルーシュが困惑していると、やっと、サーシャが反応した。
「か、可愛い・・・。」
「可愛いでしょ?まだ、赤ちゃんなので。」
「う、うん・・・。でも、その子、本当にドラゴンなの?レッサードラゴンと、かなり見た目が違うけど?なんか、羽根で覆われてない?」
「正真正銘、ドラゴンですよ。レッサードラゴンと違って、鱗の代わりに、ふわふわの羽根に包まれてますけど。」
「えっと、私にも抱っこ出来きる?」
「平気ですよ。プリム、こちらは、サーシャさんだよ〜。」
プリムを、サーシャに渡すルーシュ。プリムは、初めて会うサーシャに、小さな目を瞬きながら、首を傾げた。
「キュイ?」
「可愛い・・・。それに、ふわふわ。」
サーシャは、プリムの背を撫で、プリムはプリムで、クンクンと匂いを嗅いでいた。
「ルーシュくん、プリムちゃんの性別は?」
「女の子ですね。」
「なんて言う種類のドラゴンなの?」
「えっと・・・、ホワイトプリムドラゴンです。」
「ふ〜ん、聞いた事の無いドラゴンね?」
「え、ええ。竜種の中でも、希少種なんで。」
「へぇ〜、そんなに珍しいの?」
「僕の知る限りでは、はるか昔に遡っても、同種の竜では、2体目だと思います。」
「えーーーっ!!そんなに、希少な竜なのっ!!」
「はい。成体の竜は、見た事は無いですが。」
「よく、使い魔に出来たわね。」
「偶々、怪我をしていたプリムを見つけて、治療したら、懐いちゃったんで。」
ルーシュが、プリムの名を言ったので、プリムは、呼ばれたと思い、サーシャの腕の中から、飛び出し、ルーシュに飛び付いた。
「キュイ?」
「いや、呼んだ訳じゃ無いよ。」
「それにしても、召喚魔法って、初めて見たけど、凄く神秘的ね。詠唱も長かったし・・・。」
「まぁ、召喚魔法自体が、高度な魔法なんで、使える人が少ないのでは?無属性の時魔法と、空間魔法の合成ですし。
詠唱が長かったのは、上級魔法だからですよ。12節もありますから。」
「そうなのね。プリムちゃんだけじゃなく、召喚魔法も、珍しかったのね。」
「まぁ、使い魔契約していないと、使えない魔法ですし、実用性が低いってのも、理由だと思います。」
「よく、そんな魔法を覚えようと思ったわね。」
「う〜ん、サーシャさんは、冒険者ギルドの受付嬢ですから、冒険者さんの中にも、魔法使いの方が、大勢いるのは、ご存じですよね?」
「ええ、私の担当にも、たくさんいるわ。中には、魔法大学を出ている優秀な人いるし。」
「でも、その方達って、基本的には、魔物の討伐の為に、魔法を使いますよね?」
「そうね。まぁ、光属性の魔法を使う人は、回復役として、パーティで活躍してるけど。」
「はい。魔法には、癒しの魔法もあります。魔法は、相手を倒す以外にも、使う事が出来る。生活魔法が、良い例です。」
「ええ、私も着火の魔法ぐらいなら、使えるから分かるわ。」
「ちなみに、サーシャさんは、生活魔法の〈ブロー〉は、使えますか?」
「ああ、あの生活魔法ね。それも使えるけど、あの魔法、使い道が無くない?」
「そうでしょうか?その2つが使えれば、家事が楽になりますよ。」
「どう言う事?」
「火を起こす時に、着火の魔法、〈ファイヤ 〉を使って、薪に火を着けますが、その火を大きくする時、どうしてますか?」
「それは、ふぅふぅ、息を吐きかけて・・・あっ!」
「はい、お気付きなったと思いますが、そこで、〈ブロー〉を使えば、良くないですか?」
「そうねっ!それなら、使い道があるわ。」
「それに、〈ファイヤ〉をコップの水の中に、使えば、一瞬で、お湯が出来ます。」
「えっ!?〈ファイヤ〉って、そんな使い方が、出来たのっ!?」
「ええ、着火と言う言葉が、固定概念を生んでしまって、皆さんが、気付いていないだけです。」
「なんか、常識が崩れていくわ。」
「う〜ん、そもそも、魔法は常識的では無いですよ?」
「どう言う事?」
「魔法の発動には、魔力と詠唱が、必要ですが、その詠唱自体が、非常識の塊なんです。」
「???」
「詠唱は、事象に干渉し、それを改変して、魔法を発動させます。この事象とは、すなわち、自然現象になります。
それを改変しているんです。
つまり、常識を変えているんです。だから、非常識なんです。」
「ああ、そう言う事なのね。」
「ええ。話が逸れましたが、生活魔法ですら、使い方を変えれば、色んな事に応用が効きます。
さっき、サーシャさんは、光属性の魔法使いさんの話をしていましたが、初級魔法の〈ヒール〉は、傷を治す為に使われますが、それは、人や動物だけにしか、使えない訳ではありません。
農作物を含めた植物にも、使う事が出来ます。
農作物に使えば、成長を促進しますし、枯れ果てた花に使えば、元気になります。
何故だか、分かりますか?」
「う〜ん、花はなんとなく、分かるけど。どうしてかしら?」
「それは、〈ヒール〉が、傷を治す魔法だと、思い込んでいるからです。」
「えっ!?違うの?」
「いえ、確かに、〈ヒール〉は、傷を治します。厳密には、対象の魔力干渉して、自身の魔力を送り込んで、生命力を活性化させているんです。
つまり、傷を治しているのでは無く、傷が治り易くなっているだけなんです。
魔法薬に、くポーション〉がありますが、あれは、薬草と言う、傷に効く植物に、魔力を注ぎ込んで、回復カを高めている薬です。
これも、魔力を多く含んでいるから、傷が治り易くなっているんです。
〈ヒール〉と言う魔法は、生命力を活性化させる魔法と言うのが、正しい解釈になります。」
「だから、農作物にも効果あるのね。」
「はい。魔法は、攻撃用のものが多いイメージですが、現代魔法全体では、実際には、4割程度しかありません。」
「えっ!?そんなに少ないの!?」
「はい。その他は、生活魔法や回復魔法と、肉体に作用する魔法、運搬に使える魔法、移動に役立つ魔法など、他にもたくさんあります。使い方によりますが、生活を豊かにする魔法の方が多いんです。
最初の質問に戻ると、使い魔契約は、魔物だけでなく、人や動物とも可能です。
つまり、使い魔契約していれば、召喚魔法で、人や動物を遠い所まで、移動させる事が出来るんです。
まぁ、使い魔契約なんで、主従関係が生まれるので、人に使うのは、お勧めしませんが。
ただ、貴族の方なら、家臣と元々、主従関係を結んでいる筈なので、自身の護衛を呼び出すなんて、使い方も出来るかも知れませんが。」
「魔法って、もしかして、元々は、生命を豊かにする為に生まれたものなのかしら?」
「おそらく、その考えが正しいと思います。属性魔法自体、自然現象に由来するものですから。」
「なんだか、魔法に対する印象が変わったわ。
それにしても、ルーシュくんって、本当に10歳なの?まだ、魔法大学どころか、魔法学園にも入学出来ない年齢よね?」
「正真正銘、10歳ですよ?」
「う〜ん、なんか、冒険者より、学者さんか、教師になった方が良いんじゃない?」
「いや、まだ、魔法学園の初等部にも、入学出来ませんし・・・。」
「将来的な話よ。絶対、そっちの分野でも、活躍出来ると思うわ。」
「う〜ん、まだまだ子供なんで、漠然とした、将来の夢とか無いですね?
ちなみに、サーシャさんは、いつ頃、冒険者ギルドの受付嬢になりたいと思ったんですか?」
「私?そうねぇ、私の実家って、小さな村にあるんだけど、母親が病いで倒れてから、その治療費を稼ぐ為に、上京して来たの。
それで、給金が高い職種を探して、冒険者ギルドの受付嬢になったってのが、現状ね。
それがなければ、今頃、村で結婚してたかも?」
「そうだったんですね。軽い気持ちで、聞いてしまって、すいません・・・。」
「良いのよ、別に。今の仕事に不満はないし、給金が高いおかげで、母親の治療費も、仕送り出来ているんだから。」
「ちなみに、お母さんの容態は?」
「う〜ん、あまり変わってないかな?発熱と頭痛、それと全身の痛み。」
「うん?ちなみに、お薬は?」
「熱冷ましに、鎮痛薬だけど?」
「ポーションを使った事は?」
「あるけど、逆に体調が悪くなったわ。」
「お医者様は、何と?」
「原因不明だって。」
「お母さんは、魔法を使えますか?」
「生活魔法なら、多少は。」
「なるほど。」
「ルーシュくん、何か分かったの?」
「多分ですけど、サーシャさんのお母さんは、過剰魔力障害だと思います。」
「過剰魔力障害?」
「体内の魔力が、許容量を超えて、体内に蓄積してしまう病気です。
100万人に1人の確率で、かかる病気です。」
「そんな・・・。完治は出来ないの?」
「今の所、食事療法と対抗療法しかありません。」
「それはどんな・・・」
「吸菌茸を調理したものを食べ、普段から、魔力を消費する為、魔法を行使する必要があります。
ちなみに、健康な人が吸菌茸を食べると、逆に魔力欠乏症になるので、毒茸扱いです。まぁ、使い方次第では、魔法使いの魔力総量を上げられるんですけど。」
「吸菌茸って、どこで手に入るの?」
「そうですね、トレントに稀に、寄生しています。エルダートレントの方が、確実性が高いですが、吸菌茸を、定期的に入手するのは、厳しいかと。」
「そんな・・・。」
「ですので、これを差し上げます。」
と、言って〈インベントリ〉から、ルーシュが取り出したのは、一つの指輪だった。
「これは?」
「吸魔の指輪と言って、魔力を吸引し、蓄える指輪です。
本来は、使用者の魔力が足りなくなった時に、この指輪から、魔力を取り出して、魔法を使う魔道具ですね。
最上級クラスの魔法を、一回使えるくらいの蓄積量があるので、一般人なら、寿命を迎えるまで、持つと思います。」
「良いの?相当な価値がありそうだけど・・・。」
「僕は、最上級クラスの魔法を、十分使える魔力量がありますから、必要ないし、拾い物なので。気にしないで下さい。」
「そう。じゃあ、貰って良いの?」
「はい。要らないので。」
「ありがとう。いつか、お礼をするね。」
「いえ、十分、助けてもらってますから。」
サーシャに、吸魔の指輪を渡すルーシュ。
サーシャは、涙ながらに、両手で包み込むように、受け取った。
謎の多いルーシュですが、知識の豊富さが、判明してきました。10歳とは、思えない知識でしたが、スキルなど、まだまだ、謎がありそうな・・・。
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