ルーシュの研究室①
今作は、行き当たりばったりで、作ったものではなく、大筋の展開を作り上げてから、書いております。
予定では、かなりの長編になる予定ですので、読み応えがあれば良いなぁと、思う次第です。
少しでも、多くの方に、読んで頂ければ、ありがたいです。
誤字脱字等、あると思いますので、ご指摘もお願い致します。
研究室で待っていたルーシュの元に、午後の講義を終えた生徒達がやって来た。
アンジェリカ、ライオス、オリバー、エミリー、ナタリーである。
ルーシュは、早速、この研究室での研究テーマを説明した。
「皆さん、午後の講義、お疲れ様でした。
早速ですが、研究テーマを発表します。僕の研究室では、新魔法の開発に挑戦したいと思っています。」
「新魔法の開発ですの?それは、凄く難題では、ございませんか?」
「そうですが、既に、幾つかの新魔法は、開発済みです。」
「「「「「えっ!?」」」」」
「ですので、皆さんには、その魔法の検証実験を、お願いします。
まずは、一つ目の魔法から、始めてみましょう。」
「せ、先生っ!今、一つ目とおっしゃいましたが、他にもあるんですか?」
「ライオスくん、他にもありますよ。既に、開発済みのものは、7つあります。他にも、考案中のものが、3つあります。
一度に全て行なうのは無理なので、一つずつ行なっていきます。」
「す、凄い・・・。もう、そんなにあるなんて。」
「では、一つ目の魔法ですが、無属性の空間魔法、名付けて、〈エアクッション〉から始めていきます。
この魔法は、空間に柔らかい固形物を生み出し、その上に、座ったりする事が出来る魔法です。
使用目的は、それとは別で、高い所から落ちた際や、転んでしまった時に、この魔法を発動させて、身を守る為に使える事が、本来の効果となります。
生活魔法の一つとして、開発しましたので、使い勝手が良いと思います。ただ、発動時間は短いので、注意して下さい。
始めは、椅子の上に発動し、その上に座ってみて下さい。
では、詠唱文ですが、空間よ 魔に触れ柔い板と成り 留まれ となります。
空間よ が、大気中の空気に、干渉する事を示しています。
魔に触れ は、ご存じの通り使用する魔力の事です。
柔い板と成り は、空気を柔らかい固形物に変換させる事を示しています。
留まれ は、指定した場所から動かない事を示しています。
それでは、各々の椅子の上に発動させ、座ってみて下さい。」
「「「「「はいっ!」」」」」
生徒達は、立ち上がり、椅子に向かって、詠唱を開始した。
「「「「「空間よ 魔に触れ柔い板と成り 留まれ。」」」」」
詠唱を終えると、すぐに、椅子に座る生徒達。
「ふわふわしてますわっ!」
「なんだこれっ!?椅子との間に、柔らかい物があるっ!!」
「椅子とお尻が離れてるっ!!」
「本当っ!身体が浮いているみたいっ!!」
「目に見えないのに、何故っ!?」
どうやら、実験は成功した様だ。
暫く、生徒達は、感触を確かめていたが、ライオスが、椅子の上で跳ねた瞬間、魔法が解除された。
「痛っ!!椅子に思いっきり、お尻をぶつけたよ。」
「だから、発動時間は、短いと言いましたよね。
継続して使用するには、詠唱文を改変させる必要があります。ただ、この場合、発動中は常に、魔力を使い続けるので、生活魔法の範囲を越えてしまいますが。
一応、改変した詠唱文も、お教えしますので、試して下さい。魔力の供給を止めれば、解除出来ます。
空間よ 魔を流し柔い板と成り 留まれ です。」
早速、実験を再開する生徒達。
しかし、ライオスは調子に乗って、長い時間、発動し過ぎてしまい、かなり魔力を消費していた。
「ち、調子の乗り過ぎた、もう、魔力が
・・・。」
「ライオスさん、貴方、お馬鹿ですの?午後に実技学で、あれだけ、魔法を使ったのですから、魔力切れになるのは、当たり前ですわ。」
「仕方が無いですね。ライオスくん、この魔力ポーションを使って下さい。」
「は、はい。・・・苦いんだよなぁ、えいっ!!」
覚悟を決めて、魔力ポーションを服用するライオス。
「あれ?苦く無い。と言うより、微かに甘い。
先生、これって、失敗作ですか?」
「いいえ、違いますよ。その証拠に、魔力は回復している筈です。」
「確かに、かなり回復してます。でも、なんで甘いんですか?普通、品質が良いと余計に、苦くなるのに。」
「う〜ん。これは、僕特製の物で、普通の魔力ポーションとは、作り方が違うんです。
魔法薬は苦いのが、当たり前と言うが、一般的ですが、少し、手を加えると飲み易くなるんですよ。」
「えっ!?それじゃあ、僕らが、学んでいる魔法薬って・・・。」
「いえ。きちんと、基本を学んで下さい。これは、基礎が出来ていないと、作れません。」
「でも、マーカス先生と共同研究にしたら、どうですか?」
「オリバーくん、それは出来ません。マーカス先生だけを特別扱いすると、他の教員の方から、苦情が出ます。
それに、新魔法の開発と、研究・検証に、影響も出るからです。あと、1年間も無いんですから。」
「へっ?なんで、1年間なんですか?」
「あぁ、皆さんには、伝えていませんでしたね。僕は、1年間限定の教員だからです。」
「「「「「えぇぇーーーーっ!!」」」」」
生徒達は、驚いてしまった。
てっきり、これから先も、ルーシュの講義や研究に、携われると思っていたからだ。
「せ、先生っ!1年で、辞めちゃうんですかっ!?」
「辞めないで下さいっ!!」
「申し訳ありませんが、この事は、国王陛下とマグドリア学長とも、約束しているので、出来ません。
1年後は、僕にも予定がありますので。」
「「「「「そんな〜〜。」」」」」
「ですので、研究も大切ですが、講義にも集中して下さいね。残りの期間に、出来る限りの事はしますので。」
このルーシュの暴露は、瞬く間、生徒達に広がった。その為、余計に、講義を受けたい者が、殺到し、講堂内での席の取り合いにまで、発展してしまう。
相変わらず、無自覚に、やらかすルーシュ先生だった。
翌日も、講義が終わると、研究室に生徒達がやって来た。
昨日は、〈エアクッション〉の発動実験だけだったので、今日は、より実践的な検証を行う為だ。
「では、今日は、〈エアクッション〉の本来の目的である、怪我の防止の為の検証実験を行なっていきます。
まず、大切な事は、咄嗟に、発動出来る様になる事です。
この魔法に限りらず、魔法使いは、常に、冷静でなくてはなりません。それは、詠唱を確実に行なう上で、必要な事だからです。
冒険者のパーティなどでは、魔法使いは、戦況を見極める、パーティの頭脳になります。判断を誤ったり、遅れると、仲間が危機に陥ってしまう場合もあるからです。
ですので、今日の検証は、それに通じるものがあるので、そのつもりで、取り組んで下さい。」
「「「「「はいっ!!」」」」」
「では、いきなり、立った状態から床に倒れるのは危険ですので、まずは、膝立ちの状態から倒れ込んで、倒れるまでの間に、詠唱を終える様にして下さい。
怪我防止の為、手を前に出して、行なった方が良いでしょう。
焦らず、冷静に、詠唱をして下さい。
それでは、始めて下さい。」
生徒達は、ルーシュの指示に従って、検証実験を開始した。最初は、中々、挑戦出来無かったが、意を決して取り組み、なんとか、全員、成功した。
「それでは、次に、立った状態から、始めて下さい。先程より、怪我をする可能性が高いので、注意して下さい。」
座った状態からと、立った状態からでは、床との距離が長い。倒れ込むまでの時間も長くなるが、危険度が増す。
だが、これが出来無ければ、〈エアクッション〉の有用性が、低くなってしまう。
生徒達も、その事は理解しているので、恐る恐る、挑戦した。一度、成功すると不安も無くなり、何度も挑戦する生徒達。
だが、これは、検証の第一段階に過ぎない。
「では、次に、床に脚を伸ばして座り、後ろに倒れる際に、発動して下さい。」
「先生。後ろを見ないで、魔法を発動するのは、出来無いと思います。それに、咄嗟に、手を後ろにかざすのは、困難です。」
「ライオスくん、魔法薬学の授業を思い出して下さい。あの時、身体強化の魔法を、任意に、手に集める方法を教えた筈です。
この際ですからお教えしますと、皆さんは、魔法は、手からしか、発動出来無いと思い込んでいるのでは、ないでしょうか。
それは、間違いです。魔法を発動させたい部位に、意識を集中して、魔力を流せば、足や背中からも、魔法は発動します。
魔力操作力が、未熟だと出来ませんが、今のライオスくんなら、可能な筈です。
試しに、その状態でやってみて下さい。それが出来れば、後ろに倒れ込む際にも、出来るでしょう。」
「分かりました、やってみます。」
ライオスを始め、皆が、挑戦を始める。
ライオスとオリバーは、魔法薬学で、ルーシュの講義を受けていたので、直ぐに、出来る様になった。
しかし、他の3人は、中々、出来無かった。
「ルーシュ先生。私には、出来ませんわ。その身体強化の魔法の事を教えて下さい。」
「アンジェリカさん、ダメですよ。全ての事を、僕が教えては、貴女は、協力者では無く、お手伝いさんに、なってしまいます。」
「では、私は、ルーシュ先生の研究室に、相応しく無いと言う事ですの?」
「それも、違います。協力者なんですから、協力者同士で、協力すれば良いんですよ。
ライオスくん、オリバーくん。他の皆さんに、コツを教えてあげて下さい。」
「「分かりましたっ!!」」
そう、生徒達は、協力者なのだ。全てをルーシュが教えては、協力した事にはならない。
協力すると言う事は、皆で力を合わせる事だ。
出来無い生徒がいれば、出来る生徒が、教えれば良い。
足りない部分を補い合う、それが、協力と言う事だ。冒険者のパーティの関係性に、近いかも知れない。
先程、ルーシュは、講義では触れない事も教えた。これだけでも、研究室に参加した生徒達を、優遇しているのだ。これ以上は、高望みである。
研究室は、講義とは違う。
受け身の姿勢では、困るのだ。それならば、ルーシュ1人で、研究した方がマシだ。
アンジェリカは、高位貴族の生まれの為、何かをしてもらう事が、当たり前の生活を送ってきた。それ故に、協力すると言う行為に、縁が無かった。
ルーシュの研究室も、講義の延長として、捉えていたのだ。
ライオスとオリバーから、魔力操作のコツを教えて貰う、アンジェリカを含めた3人。
なんとか、全員が背中から、魔法を発動出来る様になり、その日の検証実験は、終わった。
よいよ始まったルーシュの研究室。生徒達がお飾りにならない様、協力する事の大切さを教えました。
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