名の無いお店
今回の作品は、他の方の作品と、極力被らない様に、オリジナルティーを重視して、書き上げて参ります。
予定では、かなりの長編になる予定ですので、読み応えがあれば良いなぁと、思う次第です。
少しでも、多くの方に、読んで頂ければ、ありがたいです。
誤字脱字等、あると思いますので、ご指摘もお願い致します。
孤児院での用件を済ますと、再び、街中の探索を始めたルーシュ。孤児院で、それなりの時間が経ってしまったので、屋敷に戻ろうかなと思ったが、なんだかんだで、楽しめていない。
折角、城下町に出たのに、得られたのは、使わない黒剣のみ。収穫が無さ過ぎる。せめて、お気に入りのお店ぐらいは欲しいところだ。
冒険者が多いが、その分、食事処や酒場、宿屋が多い観光区画に向かった。
観光区画に着いたルーシュは、酒場と宿屋は、除外して、その他の店を見てまわる事にした。
商業区画程では無いが、此方にも、武器屋や魔道具も存在する。ただ、其処で買い物をするのは、低ランクの冒険者ぐらいだ。取り扱っている物の品質が低く、安いからだ。
冒険者は、何気に、お金がかかる。
装備品や消耗品など、出費が多い。かと言って、安物ばかり使っていては、高ランクの依頼など、受ける事は出来無い。ルーシュの様な規格外で無い限り、良質な武具と魔法薬は、必須である。
ガン爺の所に、現れた剣士は、例外だが。
余談だが、あの後、通報されて、衛兵に捕まったらしい。街中で抜刀したのだ、当然である。
ルーシュは、食事処を中心に、見てまわる事にしたが、何処の店も、冒険者達がそれなりにいた。
あまり、冒険者と関わりたく無いので、それらのお店は、スルーして、落ち着いた雰囲気のお店を探していた。
すると、プリムが、何かを発見した様な反応を示した。
「キュイ、キュイ、キュイ。」
「えっ?何かあったの?」
「キュイ。」
ルーシュの髪の毛を引っ張り、路地裏に向かう様に伝えるプリム。
「えっ?今日は、迷宮には、行かないよ?」
「キュイ、キュイ。」
「違うの?」
「キュイ。」
「このまま、進めって事?」
「キュイ。」
プリムの指示に従って、路地裏を進んで行くと、ルーシュも気が付いた。鼻を刺激する、いい香りがして来たからだ。プリムは、それを先に、気付いたのだ。
どんどん、路地裏を進んで行くと、一軒のお店を発見した。
看板すら無いお店だったが、間違い無く、其処から、いい香りがしていた。
お店に入ると、店内は静かで、お客も少なかった。
「いらっしゃい。」
ダンディーな声で、ルーシュ達を迎えたのは、見た目も渋い男性だった。
「えっと、初めて来たんですけど、このお店は、何のお店なんですか?」
「此処は、甘味処だよ。」
「そうなんですね。空いている席に、座っても良いですか?」
「どうぞ。」
他のお店と違う雰囲気で、少し、緊張しながら、席に座った。すると、席の前に、メニューらしきものが、書かれている紙が目に入った。
それを一通り見てみるが、よく分からないものばかりだった。唯一、紅茶だけは分かったのだが。
仕方が無いので、お店の男性(店主?)に聞いてみる事にした。
「すいません、メニューのものが、分からないものばかりなので、何かお勧めの軽食と飲み物を下さい。」
「軽食かい?残念だけど、軽食は無いんだ。茶菓子ならあるよ。」
「なら、茶菓子をお願いします。」
「あぁ、少し、待っててね。」
(凄く落ち着いた人だなぁ〜。今まで、会って来た人と違う雰囲気だなぁ。)
暫くすると、お勧めの茶菓子と飲み物が、運ばれて来た。親切にも、プリムの飲み物は、お皿に注がれていた。
しかし、何故か、真っ黒な飲み物だった。香りを嗅ぐと、外で嗅いだ香りだった。
恐る恐る、味を確かめると・・・。
「苦っ!?」
「キュイっ!?」
苦くて、とても飲み物とは思えなかった。
すると、店主が、砂糖とミルクを持って来た。
「それは、コーヒーと言ってね。大人向けの飲み物なんだよ。だから、砂糖とミルクを入れると、子供でも飲み易くなるよ。」
「そうなんですね。大人の方は、良くこのまま飲めますね。」
「お酒も、苦いからね。君も大人になったら、分かるよ。」
店主の言う通りに、砂糖とミルクを入れて、飲んだ一人と一匹。
「はぁ〜〜、美味しい。」
「キュイ〜〜。」
初めて味合う、味と香りに、リラックスしてしまう。これは、癖になる味だと思った。
そして、更に、用意された茶菓子も、見た事無い物だった。ただ、凄く甘い香りがする。
フォークで切り分けて、口に運ぶと、ほのかに甘い味と香りが口の中に広がる。
「これも、美味しい。」
「キュイ〜。」
「ははは、それは、ケーキと言う茶菓子だよ。今回、出したのは、シフォンケーキさ。」
「これも、初めて食べました。凄く、美味しいです。」
「キュイ〜。」
「それは良かった。気に入ったら、また、おいで。」
「はい。また、来ます。」
「キュイ。」
(街中を歩きまわった甲斐があったなぁ。こんな所に、美味しい茶菓子屋があるとは、思ってもいなかったよ。これからも、ちょくちょく、来よう。)
やっと、城下町で、お気に入りのお店を作れたルーシュ。しかし、コーヒーにしろ、ケーキにしろ、聞いた事の無いものだったのが、気になった。
まぁ、記憶を失っているので、もしかしたら、以前にも、飲み食いした事があるのかなと、思ったのだった。
路地裏の甘味処、店の名も無いお店だったが、満足出来たルーシュ達は、屋敷に戻る事にした。
屋敷に戻ったルーシュに、ジャンから、報告があった。
「ルーシュ様。シャルロット王女様より、お茶会の招待状が届いております。」
「げっ!?」
「ルーシュ様。流石に、それは、失礼かと。」
「そうですね。ちょっと、驚いてしまって。」
(シャルロット王女様かぁ〜。王妃様だったら、問答無用で、断ってたんだけどなぁ。どうしよう?)
「如何なさいますか?」
「いつですか?」
「2日後になります。」
「急ですね、お断りします。」
ざっくりと、拒否するルーシュ。
急な上、長期休みの最終日だからだ。まだ、休みを満喫していない。
「正当な理由も無く、お断りするのは、宜しく無いかと。」
「手土産も含めて、準備が整わないので。」
「お衣装は、ご用意出来ますよね。手土産も、急なお誘いですので、無くても問題は無いと存じます。もし、ご用意されるのなら、お手伝い致しますが。」
(これって、行けって事だよね。はぁ〜、折角の休みが潰れる・・・。)
「分かりました。ただ、僕は、陛下の臣下でも無いですし、この国の国民でも無い。本来なら、従う理由がありません。それが正当な理由では?
あまり、しつこくされるのは、望んでいないので、その事はお伝えして下さい。場合によっては、国を出ると。」
「・・・畏まりました。」
此処ぞとばかりに、苦言を言うルーシュだった。
ジャンは、出来るだけ、失礼の無い様に伝えなければと、頭を悩ませた。
ジャンからの報告は、国王と王女に、伝えられた。
「シャルロット、余を困らせんでくれ。彼奴には、我が国に留まって欲しいのだからな。」
「・・・申し訳ございません。ご配慮が足りない事をしてしまいました。」
「彼奴が、機嫌を損ね、国を出る様になったら、幾ら可愛い娘のお前でも、罰を与えねばならん。その事をよく考えて、彼奴と接するのだぞ。」
「・・・承知致しました。」
どうやら、ルーシュの意志は、伝わった様だった。
シャルロットは、まだ、幼い。ルーシュに会いたい気持ちを抑えきれず、軽はずみな行動を取ってしまった。
対して、同い年ではあるが、ルーシュは、大人顔負けの知識と才能を秘めた、規格外の存在だ。良くも悪くも、一国を揺るがす程の力を持っている。
王族や貴族では無いが、それ以上の影響力があるのだ。
シャルロットの行動が軽率だった事を、国王は伝えたのだった。
2日後。ルーシュは、気は進まないが、王城を訪れた。
結局、初の長期休みは、ろくでも無い休みになってしまった。唯一、名の無い甘味処を気に入ったくらいだ。
しかし、来てしまった以上、不機嫌な態度を取る程、子供では無い。いや、実際には、子供なのだが。
ジャンに伝えた様に、最悪、国を出れば良いと、開き直って仕舞えば、苦に感じる事は無い。
「お招き頂き、ありがとうございます。」
平然とした態度で、シャルロットに挨拶をした。対して、シャルロットは、気まずそうに挨拶を返した。
「急に、お誘いしてしまい、申し訳ございません。」
「いえ、お気遣い、ありがとうございます。」
「では、此方に、おかけになって下さい。」
シャルロット付きのでメイドが、気を遣って席に案内する。メイドも、今回は気を抜けない。
ルーシュは、席に座ると、手土産を取り出した。時間は無かったが、念の為、用意したのだ。
「お口に合うか分かりませんが、お納め下さい。」
ルーシュが用意したのは、例のケーキだった。店主にお願いして、持ち帰ったのだ。
「お気を遣って頂き、ありがとうございます。」
シャルロットは、ぎこちない態度が、丸分かりだった。負い目を感じているのだろう。
すかさず、メイドが、お茶ので準備をする。
ルーシュは、短いやり取りだったが、可笑しかった。誘ってきた側が、緊張し過ぎていたからだ。
なので、助け船を出した。
「今日、持参しましたお菓子は、ケーキと言う物です。
つい最近、城下町で隠れた名店を見付け、購入して参りました。
私のお気に入りですので、是非、お召し上がり下さい。」
毒味の為、先に一口、食べてみせた。まぁ、ルーシュには、技能〈状態異常無効〉があるので、意味は無いが。
「初めて見るお菓子ですね。では、私も頂きます。
・・・美味しいですっ!こんなに美味しいお菓子があったのですね。」
「ええ。私も初めて食べた時は、感動しました。」
「本当に美味しいです。先程、隠れた名店と、おっしゃっていましたが?」
「路地裏の奥にあるお店なんですよ。プリムが、見付けてくれました。
賢人会議で、長い間、留守番がさせてしまったので、外に連れて行って、正解でした。」
「そう言えば、ルーシュ様は、賢人会議に向かわれたのですよね。他の賢人の方々は、どうでしたか?」
「はっきりと申し上げると、かなり個性的な方々でしたね。
会議に向かう途中で、そのお一人と合流しまして、ザナフェイト共和国まで、走って行く事に巻き込まれました。」
「えっ!?走って向かったのですか?」
「ええ。付け加えると、魔物との戦闘で、魔法を禁止され、素手で戦う羽目になりました。」
「えぇっ!?ルーシュ様は、魔法使いですよね?平気だったのですか?」
「問題は無かったです。私は、〈格闘術〉の技能も、習得しておりますので。寧ろ、そのせいで、賢人会議で、模擬戦を行う羽目になりました。」
「模擬戦ですか?まさか、他の賢人の方とでしょうか?」
「その通りです。竜人族の方と、戦いました。」
話をしている内に、シャルロットの緊張もほぐれてきた様だ。気になる事がたくさんあって、質問し続けていた。
「竜人族の方とは?」
「竜の末裔みたいな存在ですね。拳闘士の方でしたので、素手で、殴り合いみたいになりましたね。」
「えぇっ!?それは、ルーシュ様が不利では?」
「一応、魔法は使ったのですが、少し、やり過ぎて怒らせてしまい、息吹を使われましたね。」
「えぇっ!?お怪我はございませんでしたか!?」
「平気でしたよ。他の賢人の方が、止めて下さったので。」
「良かったです。それより、何故、模擬戦を行われたのですか?」
「賢人には、二つ名が与えられるからですね。私は、魔法と〈格闘術〉が使えるので、それで揉めまして。」
「そうだったのですね。それで、二つ名は、決まったのでしょうか?」
「・・・ええ。」
「ルーシュ様?」
「・・・不本意な二つ名に決まりました。」
「・・・何となく、お察しします。」
どうやら、シャルロットは、二つ名が容姿に関係する事だと、気付いた様だ。意外と聡い王女である。
「そ、それよりも、城下町は如何でしたか?私は、誘拐事件の時にしか、訪れた事がございませんので。」
「そうですね。ドワーフの鍛治職人の方と、知り合いになりましたね。」
「鍛治職人の方ですか?もしかして、果物ナイフをご購入する為でしょうか?」
「いえ、色々ございまして、剣を頂きました。」
「情報が多過ぎて、混乱してきたのですが。ルーシュ様、本当に魔法使いですか?」
「そうですね、自分でも良く分からなく、なってきました。」
確かに、ルーシュを魔法使いと呼べるか、疑問だ。〈剣術〉〈双剣術〉〈格闘術〉〈現代魔法〉〈古代魔法〉その他にも秘匿している技能がある。これで、魔法使いなら、世の中の魔法使いは、魔法使いでは無くなってしまう。
その後も、手に入れた魔剣を譲った話などをして、無事(?)お茶会を終えたのだった。
甘味処の店主は、転生者?それとも、異世界人?
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