竜の寝床
お久しぶりです。約2年ぶり、いや、3年ぶり(?)の3作品目になります。(2作品目は、行き詰まりました、ごめんなさい。)
今回の作品は、他の方の作品と、極力被らない様に、オリジナルティーを重視して、書き上げて参ります。
異世界ものではありますが、主人公は、1作品目、2作品目とは、立ち位置が違います。
今作は、行き当たりばったりで、作ったものではなく、大筋の展開を作り上げてから、書いております。
予定では、かなりの長編になる予定ですので、読み応えがあれば良いなぁと、思う次第です。
少しでも、多くの方に、読んで頂ければ、ありがたいです。
誤字脱字等、あると思いますので、ご指摘もお願い致します。
竜達が住まう山に、足を踏み入れたルーシュだったが、元来、この山は、人が訪れる様な場所では無い。その為、舗装された道など無く、剥き出しの岩が、その歩みを阻んでいた。
(う〜ん、歩きづらいなぁ。かと言え、飛行する訳にはいかないし。これは、思った以上に、時間がかかりそうだ。)
登山早々に、選択を間違ったかなと、ちょっぴり後悔する。
相変わらず、山の至る所では、竜達が飛翔しており、警戒も怠る訳にはいかない。
そんな過酷な状況ではあるが、ルーシュには、もう一つの懸念事項があった。
(そう言えば、所持金が無かったな。確か、街には冒険者ギルドがあって、魔物の素材の買取りをしてくれるんだっけ?
・・・どうしよう?あの竜達の一匹ぐらい、狩っとこうかな?)
10歳の子供の発想としては、あまりにも、物騒な事を考えるルーシュ。
レッサードラゴンとは言え、相手は、魔物の中でも最強種である竜。
到底、まともな思考とは思えない。
冒険者ギルドでは、魔物はその強さ、危険度により、ランク分けされており、危険度が低い方から、F・E・D・C・B・A・Sと、格付けされている。
一般的には、Sランクが最高位とされているが、それは、冒険者のランクが、Sランクまでしかない為であり、魔物のランクには、更にその上がある。
また、同じランクに分けられていても、魔物の場合、強さに違いがある。
例えば、冒険者ギルドでは、Cランクと定めた魔物がいた場合、Cランクには、限りなくBランクに近いC +、平均的なC、そして、Dランクに近いC -と言う格差があり、冒険者ギルドのランクでは、Cランクだからと言って、Cランクに成り立ての冒険者が、C +の魔物に挑んで、重傷を負ったり、死亡する事も多々ある。
それに、冒険者ギルドが定めた魔物のランクは、低ランクの魔物を除けば、個人が挑む事を考慮していない。
つまり、ランクが上がるにつれて、複数人で挑む事が、推奨されている。
そして、レッサードラゴンのランクは、A +。
とても、個人が挑むような相手ではない。
それ故に、害虫を駆除するかの様に、気軽に考えるルーシュの思考は、常軌を逸脱していた。
確かに、冒険者ギルドでは、討伐依頼の報酬の他に、魔物の素材の買取りを行なっている。
討伐報酬と同様に、低ランクの魔物の素材は安く、高ランクになればなるほど、高値で売れる。
ハイリスク・ハイリターンが、冒険者稼業である。
しかし、そのハイリスクを忘れ、多額な報酬に目が眩み、自身の実力より、格上の魔物の挑んで、命を落とさないようにする為、冒険者ギルドでは、冒険者と魔物に、ランク付けを行い、無謀な事を防ぐルールを作っているが、それを守らず、自滅する冒険者は、後を立たない。
冒険者は、収入の安定しない職業の上、危険を伴う。
だが、一部の高ランク冒険者は、確かに収入が多い為、人気の職業でもある。
名の知れた冒険者になると、指名依頼をされる事や、貴族にみそめられて、家臣としてスカウトされ、出世街道に向かうケースもある為だ。
ただ、ルーシュは、別に冒険者になりたい訳では無い。
所持金が無い為、手っ取り早く、お金を手に入れる方法として、魔物の素材の買取りを、あてがあると考えていたのだ。
ルーシュは、記憶喪失ではあるが、知識が残っていたので、ステータスの確認が出来た。そして、自身の能力を把握出来た為、レッサードラゴン程度なら、問題無く、討伐可能であると、判断したのだ。
(あっ、一匹、こっちに気付いた。うん、向かって来るね。アレを頂こう。)
一匹のレッサードラゴンが、ルーシュの存在に気付き、餌が迷い込んだと、勘違いをおこして、その鋭い牙の生えた顎を開き、涎を垂らしながら、ルーシュに向かって、降下して来た。
本来なら、ルーシュのような子供など、噛みちぎる必要も無く、一飲みだろう。
絶対強者のおごりが、レッサードラゴンにはあった。それが、己の死を招く油断とは知らずに。
レッサードラゴンは、その巨体に似つかわしくないスピードで、グングンとルーシュに接近して行った。そして、もう少しで、ルーシュを丸飲み出来ると思った時、レッサードラゴンは、絶命した。
ルーシュが、魔法を放った為である。
使用した魔法は、雷属性の〈ライトニングランス〉。
槍の形をした雷撃魔法である。
それを、レッサードラゴンの開ききった大口に放ったのだ。
〈ライトニングランス〉は、レッサードラゴンの口から体内に突入し、内包していた雷の力を放出し、その命を狩り取った。
竜種は、強靭な鱗を身に纏っていて、その鱗は、鉄の剣などでは、全く傷がつかない程、硬い。
その上、大量の魔力を保有している為、魔法耐性も高い。
だが、弱点が無い訳ではなく、鱗に覆われていない部位や、体内は、別だ。
〈ライトニングランス〉は、雷属性魔法の中でも、中級の魔法で、その攻撃力は、さほど高く無い。
レッサードラゴンの鱗に覆われている部分に放っても、効果は無かっただろう。
しかし、油断し切ったレッサードラゴンは、自ら、その弱点を晒していた為、そこに、〈ライトニングランス〉を打ち込まれて、絶命した。
ルーシュの実力なら、もっと強力な魔法も使えたが、素材として売るので、出来るだけ損傷を減らす為、今回のような戦法を駆使したのだ。
魔法には、様々な種類がある。
自然現象に由来する、火・風・土・水属性の4元素魔法。
これらは、火は風に強く、水に弱いなどの相性がある。
そして、光と闇属性の対比する魔法を含め、6元素魔法と呼んでいる。
更に、これらの上位に、2属性の魔法を合成したもの、炎、雷、緑、氷属性の4大魔法が存在する。
また、これらに分類されない魔法を、無属性魔法と呼び、総称して、現代魔法と呼んでいる。
また、現代魔法には、属性ごとに、生活、初級、中級、上級、最上級と、効力・規模の違う魔法があり、消費する魔力と詠唱の長さも違う。
ルーシュは、所持している技能〈無詠唱〉がある為、詠唱を必要としていないが、本来ならば、詠唱無しでは、魔法は発動しない。
その他にも、遥か昔に使用されていたが、行使出来る者が、時と共に少なくなり、忘れ去られた魔法がある。それは、古代魔法と呼ばれている。
絶命したレッサードラゴンは、力を失い、固い地面に向かって、落下していった。
落下地点にたどり着いたルーシュが、レッサードラゴンの亡骸に手をかざすと、スルッと吸い込まれる様に、レッサードラゴンの亡骸が、その場から消え去った。
ルーシュが、再び、魔法を使った為である。
使用した魔法は、〈インベントリ〉。
亜空間に、物質を保管する魔法で、古代魔法に分類される。
そして、〈インベントリ〉は、無属性魔法の時魔法と空間魔法の合成で、内部は時間の流れが停止しているので、傷んだり、腐ったりする事が無い。
内部の容量は、使用者の魔力量に比例する。
実は、現代魔法にも似た魔法〈アイテムボックス〉がある。
こちらも、〈インベントリ〉と同様に、無属性魔法であるが、空間魔法だけの為、物質を保管する事は出来るが、内部の時間は経過する。
(良しっ!これで、お金の心配は要らないかな?あとは、とっとと、この山を越えて、街を探そう。)
と、歩みを進めるルーシュ。
しかし、残念(?)な事に、その後も、何度もレッサードラゴンの襲撃に遭い、無駄に、レッサードラゴンの亡骸を量産するのだった。
レッサードラゴンの特攻死に、ウンザリしながらも、登山を継続していたルーシュだったが、山頂にレッサードラゴンを遥かに超える、大きな魔力の反応を捉えていた。
(う〜ん、魔力量からして、明らかに、レッサードラゴンでは無いな。反応からして、その場に留まり続けてるなぁ。寝ているのかな?それなら、なんとか刺激しない様にして、通り過ぎたいなぁ。
別に僕は、戦闘狂と言う訳じゃないし、極力、戦闘は避けたいんだけど・・・。
って、思ってる側から、また、レッサードラゴンが向かって来てるよ。
・・・・・。
・・・・・。
はい、〈ライトニングランス〉。
・・・・・。
これで、何匹目?10匹を越えた辺りから、もう数えて無いよ・・・。
どうでも良いけど、竜種って、数を数える時、匹で良いのかなぁ?もしかして、体?)
そんな、緊張感の無い事を考えながら、先を進むルーシュ。
もう既に、レッサードラゴンの撃墜は、作業と化していた。そして、山頂まで延々と、この作業を行うのかと思っていたが、山頂に近づいて行くに連れて、逆に襲撃は減っていった。
(これ、多分、この大きな魔力を持っている竜種の縄張りが、近いからかな?
そろそろ、山頂だけど、どの竜かなぁ?古代竜クラスなのは、確実だとして、気性の荒くない竜だと良いだけど・・・。
・・・・・。
・・・・・。
うわぁ〜、よりにもよって、炎竜だよ。なんでこんな山に、4源竜の一体が、住み着いてるだろう?)
ルーシュが悲観するのも無理はない。
4源竜。
それは、おとぎ話の中でしか知らない、この世界を創った竜達。
炎竜は、その一体で、太陽を創ったと言われる、火を司る竜である。
古代竜にも、格付けがあり、同じ火を司る竜種に、赤竜もいるが、炎竜は、その頂点。会おうと思っても、会える竜では無い。
(・・・仕方が無い。どうやら、寝ている様だし、隅をこっそりと歩いて、起こさない様にしないと。)
慎重に、山頂に足を踏み入れた瞬間、寝ていた筈の炎竜の瞼が、カッと開いた。
(我の眠りを妨げる愚か者は、貴様か?)
と、ルーシュの頭の中に、直接、声が響いた。
永い時を生きた古代竜は、〈念話〉と言う技能が使える。その技能を使い、ルーシュに問いかけてきたのだ。
「ご、ごめんなさいっ!!起こすつもりは無かったんです!直ぐに、立ち去りますからっ!」
慌てて、その場を立ち去ろうとするが、炎竜は、許さなかった。
極太の尻尾を払い、ルーシュの逃走を阻止する。
まだ、様子見なのだろう。あくまで牽制で、当てる気は無かった様で、尻尾を払った際に起きた風圧のみが、ルーシュを襲った。
もし、極太の尻尾が直撃したら、ルーシュの身体は、木っ端微塵になっていただろう。
(ん?貴様はっ!そうかそうか、自ら、殺されに来たのだなっ!!)
「い、いえっ!?僕はただ、この山を越えたいだけで・・・。」
(何を言っても無駄だっ!!あれだけの事をしておいて、許されると思っていたのかっ!!)
「た、確かに、ここまで辿り着くまでに、少なくない犠牲がありましたけど、決して、故意では無いんですっ!!」
(故意では無いだとっ!!話にならんっ!!もう良い、貴様は死ねっ!!!)
ルーシュの弁解は、何故か、炎竜の逆鱗に触れた様で、その大きな顎が開かれ、口内に魔力が集束されていく。
(息吹だっ!)
と、ルーシュは気付いたが、今から回避するには、間に合いそうに無い。
咄嗟に、結界魔法を発動させた。
「ガァァっ!!!」
炎竜が、雄叫びをあげると共に、灼熱の息吹が、ルーシュに襲いかかった。
ルーシュが、発動させた結界魔法、〈プロテクション〉は、対物理・魔法攻撃用の防御魔法である。
その強度は、破格で、Sランクの魔物の攻撃にも耐えられる。
竜種の息吹は、物理攻撃と思われがちだが、実際には、魔法攻撃である。
また、空を飛ぶ際にも、魔力を使っている。あれだけの巨体を、生えた翼のみで、浮き上がらせ、とんでもない速度で空を駆けるなど、物理法則的に不可能である。
その為、竜種は、竜だけの魔法を駆使する。
更に言えば、下級竜のレッサードラゴンと、古代竜では、その魔法は、全く別種のもので、破壊力・規模も大きな差がある。
炎竜は、魔物のランクで表すと、S Sランクであり、それも限りなくS S Sランクに近い。
そんな炎竜の息吹である。
幾ら、ルーシュの結界魔法が優れていても、防ぎ切る事は出来無い。
まぁ、それが、一枚だけだった場合だが。
そう、ルーシュは、〈プロテクション〉を〈多重展開〉していた。
咄嗟の発動だった為、上限一杯までは、展開出来なかったが、それでも、5層の多重結界を発動させていた。
息吹によって、パリンパリンっと、結界が破壊されてしまうが、1枚破壊するごとに、その威力は弱まり、3枚目で、完全に防ぐ事が出来た。
(クッ!忌々しいっ!!ならば、これでどうだっ!!)
息吹が効かないと分かると、すかさず、極太の尻尾を叩きつけてきた。
再び、結界が破れてしまうが、今度は、余裕を持って、結界の重ねがけを行うルーシュ。
炎竜は、時に息吹、時に尻尾、時に鋭く尖った爪で、攻撃を仕掛けてくるが、ルーシュは、その度に、結界を発動させて、防御に達した。
「あの〜、貴方の寝床に、土足で足を踏み入れた事も謝りますので、許してもらえないでしょうか?」
(貴様は何を言っているっ!?我を馬鹿にしているのかっ!!!)
「えっ?他に何が?」
(殺すっ!!叩き殺すっ!!引き裂き、焼き殺すっ!!!)
ルーシュの謝罪は、何故か、むしろ逆効果で、炎竜は、理性を失ったように、更に苛烈な攻撃を仕掛けてくる。
(・・・ダメだな、もう話も聞いてくれない。もう良いよね?こっちからも仕掛けよう。)
説得不可能と判断すると、炎竜の攻撃が、息吹に切り替わるタイミングで、一気にその頭上まで、飛び上がった。
今まで、防御一辺倒だったルーシュが、突如、攻撃に切り替えたのだ。
頭に血が昇り、猛り狂っていた炎竜は、反応に遅れ、それが致命的な隙を生んだ。
「ふんっ!!!」
と、気合入れながら、ルーシュは、なんと、炎竜の眉間を、殴りつけた。
レッサードラゴンよりも、硬質な鱗を持つ炎竜を、素手で殴りつけたのだ。
普通なら、殴りつけた方が、骨が砕ける筈だが、そこは、規格外の技能を持つルーシュ。
なんと、炎竜の鱗が陥没し、そこから、亀裂が入った。
しかし、その程度では、炎竜を倒す事など、出来る筈が無い。
だから、ルーシュは、拳にある魔法を込めていた。
それは、雷属性の上級魔法、〈レールカノン〉。
本来、〈レールカノン〉は、雷の力を集束して放つ、貫通特化の魔法だが、それをあえて、拳に停滞させ、インパクトの瞬間に、炎竜の内部、脳に直接、解き放ったのだ。
武術の一つに、浸透勁と言う技があるが、それの応用である。
ルーシュは、炎竜を殺すつもりは無かった。脳に雷撃を喰らわせる事で、失神させる予定だったが、不意打ちの一撃は、想定以上の効果を発揮し、炎竜の脳は焼き切れてしまう。
ドスンっと、大きな音立てながら、倒れ伏す炎竜。
しまったと、慌てて、駆け寄るルーシュだったが、時すでに遅し。炎竜は、絶命してしまった。
(うわぁ〜、殺っちゃったよ!?どうしようっ!?蘇生させる?・・・いや、ダメだな。また、暴れるだろうし・・・。
・・・このまま放置するのも、忍びないし、取り敢えず、〈インベントリ〉に保管して置こう。)
こうして、ルーシュは、4源竜の一角を、誤って屠ってしまうのだった。
よりにもよって、伝説の竜を殺したルーシュ。これは、後々、問題になるのでは?でも、話を聞かなかった竜にも、何か理由がありそうな・・・。この事が、どんな事態を招くのか?
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