レガリス魔法大学③
今回の作品は、他の方の作品と、極力被らない様に、オリジナルティーを重視して、書き上げて参ります。
予定では、かなりの長編になる予定ですので、読み応えがあれば良いなぁと、思う次第です。
少しでも、多くの方に、読んで頂ければ、ありがたいです。
誤字脱字等、あると思いますので、ご指摘もお願い致します。
大学の教員になってから、数日が経ち、講義にも慣れ、何とか、講師としての仕事を全うしているルーシュ。
不人気と言われていた魔法理論学だったが、講堂は、常に満席で、教員の見学者も、日に日に増えていた。
「では、本日より、中級魔法の詠唱に触れていきたいと思います。
皆さんご存じの通り、中級魔法は、初級に比べ、詠唱が長く、6節あります。ただ、6節あるとは言え、基本の、事象に干渉し、それを改変、結果を出すと言う工程には、変わりありません。
では、何故、詠唱が長いのでしょう?考えた事はありませんか?」
「えっと・・・。」
「そう言えば、どうしてだ?」
相変わらず、生徒に考える時間を与える。しかし、中々、答えが出ない。詠唱は、定説文があり、それを詠唱すれば、魔法は発動する。魔法詠唱学では、その詠唱文を覚える事しか、学ばない。それ故に、詠唱文が長かろうと、疑問に思う事も無い。上位の魔法は、詠唱文が長い。それが、当たり前だと思い込んでいる。その理由については、考えた事が無いのだ。
「う〜ん、凄く単純な理由なんですが。答えが出ない様なので、先に進めていきます。
詠唱が長いのは、発動する魔法の特性に原因があります。例えば、初級の〈ファイアボール〉は、火球を生み出し、放つと言う、とても、単純な工程の魔法です。
しかし、中級の〈ファイアランス〉は、槍の形をした火を作り出し、放ち貫く魔法です。
今の説明で、気付いた方もいるかも知れませんが、槍の形を作り出すというは、複雑な形状の物を作る事になります。槍とは、人工的に作られたもので、自然界には、存在しません。その為、槍の形を作るには、より多くの改変が必要になる。だから、詠唱の改変部分も長くなるのです。更に、付け加えると、魔力の消費量も増えます。当然ですよね、〈ファイアボール〉よりも、大きいのですから。
また、同時に、事象に干渉すると言う事は、自然現象に干渉する事であり、存在しない槍を生み出すには、より多くの干渉が必要となります。
そして、〈ファイアランス〉は、ただ放つのでは無く、放った上で、貫くという結果を求めています。
槍の形をしているのですから、その特性を活かす必要性がある。だから、その分の詠唱も長くなるのです。
これは、上級魔法や、最上級魔法にも通じる事です。魔法の特性が複雑になる為、それを構築する為、詠唱が長くなるのです。
一般的に、上位の魔法になればなれる程、強力なものになりますが、例外もあります。
単純な詠唱でも、強力な魔法も存在します。それは、その魔法の特性が、複雑で無いからです。ですので、上位の魔法を習得する事も大切ですが、下位の魔法も、疎かにするのは、好ましくありません。使い方次第で、下位の魔法でも、上位の魔法を上回る事が出来る事を忘れないで下さい。
発動速度だけみても、下位の魔法の方が、速いのですから。」
詠唱が長くなる理由だけで無く、下位の魔法の存在性、必要性を教えるルーシュ。
上位の魔法が必ずしも、優位では無い事を伝えた。実際に、使い方次第で、下位の魔法で、レッサードラゴンを倒した経験があるからこその、説明である。生徒達には、実感が湧かないかも知れないが、頭の片隅に置いておいて欲しいと思い、講義で触れた。
「では、〈ファイアランス〉を例にあげましたので、その詠唱文を紐解いていきましょう。
〈ファイアランス〉の詠唱文を、答えて頂ける方、挙手を。」
「「「「はいっ!」」」」
「では、ライオスくん。お願いします。」
「はい。大気よ 集え 魔を纏いて 火槍と成り 刺し 貫け です。」
「はい、ありがとうございます。火属性の適性が無い方には、自分には関係無いと、思うかも知れませんが、ランス系の魔法は、他の属性魔法にもあります。〈ファイアランス〉の詠唱からでも、通じる事を学べますので、講義に集中して下さいね。」
そう言いながら、詠唱文を黒板に書いていく。
「まず、事象に干渉する部分ですが、大気よ 集え と言う詠唱が、それにあたります。大気中の空気、火を燃焼する為に必要なものを、集める事を指しています。槍と言う大きな物を作る為には、より多くの燃焼材料が必要になります。更に、集める事は、その形状を作り出し易くしています。大気中の空気に、多く干渉するだけでは、ダメです。それでは、範囲が広くなるだけで、ただ、大きな火を生み出す事しか出来ません。集める、集束する必要があります。
だから、大気よ 集え と詠唱を行うのです。
次に、魔を纏いて 火槍と成り ここが、改変部分にあたります。
魔を纏いて は、〈ファイアボール〉等でも触れた魔力の事です。〈ファイアボール〉に使用する魔力は、ただの点火剤で、少なくすみます。対して、〈ファイアランス〉は、槍と言う複雑な形状を維持しなければならない為、より多くの魔力が必要となり、この様に詠唱文が異なります。纏いてとは、槍の隅から隅まで、魔力を巡らせる事を指しています。
火槍と成り は、ご想像の通り、火属性の槍になります。
大気よ 集え 魔を纏いて 火槍と成り までの詠唱が、火属性の槍を生み出すまでの工程です。
では、最後の結果の部分は、刺し 貫け となります。
槍の特性を活かす為、刺す事は勿論の事、貫くと言う行為を発生させる詠唱になります。
刺すだけなら、アロー系の魔法で、十分です。ですが、刺さるだけでは、僅かな部分にしか効果がありません。それに対して、刺し貫くと、広い部分に影響を与える事が可能です。
以上が、〈ファイアランス〉の詠唱文の構成です。
此処まででも、〈ファイアボール〉に比べて、複雑な構成なので、此処から、詠唱文を変える行為を行うには、まず、〈ファイアランス〉と言う魔法の特性を理解しないといけません。
ですので、今日のところは、詠唱文に手を加える事はしません。皆さんが、きちんと理解出来た上で、行っていきたいと思います。
では、次に、趣向を変えて、魔法名についてお話し致します。
魔法には、それぞれ、魔法名がありますが、魔法名は、その魔法がどんな物であるかを表しています。
〈ファイアボール〉なら、火球を、〈ファイアランス〉なら、火の槍を表しています。
しかし、魔法は、詠唱で発動するものです。果たして、魔法名まで、発声する必要があるのでしょうか?答えは、あると言えばあるし、無いと言えば無い。つまり、実は、魔法名を発声しなくても、魔法は発動する事が出来るのです。」
「「「「「えっ!?」」」」」
「本当にっ!?」
「じゃあ、何で発声してたんだっ!?」
「そんな事、魔法詠唱学で、習わなかったよ?」
生徒達は、混乱していた。これまでの常識が崩れるからだ。それは、教員達も同じで、知らない知識だった。知っていたら、教えている筈だ。
「る、ルーシュ先生。講義の妨げになるかも知れませんが、質問させて貰えませんか?」
と、一人の教員が、声をあげた。
「そうですねぇ、生徒の皆さんも混乱している様ですので、少しの時間であれば、構いませんよ。」
「ありがとうございます。私はサイモンと申します。火属性魔法の魔法詠唱学を担当していますが、魔法名を発声しなくても、魔法が発動するなど、知らなかったのですが、それは、本当ですか?」
「ふむ。教員の方も、ご存じ無かったのですね。本当です。魔法名まで発声しなくても、魔法は発動します。魔法名は、あくまで、その魔法の名でしか、ありません。先程、申し上げた様に、魔法は、詠唱で発動するものですから、魔法名まで発声しないと発動しない訳では無いのです。
しかし、魔法名まで発声するメリットもあります。だから、必要があると言えばある、無いと言えば無いと申し上げました。宜しいでしょうか?」
「なるほど、勉強になりました。ありがとうございます。」
「では、講義に戻りますが、魔法名まで発声するメリットとは何でしょうか?これは、答えは、一つとは、限りません。何か、気づいた方がいたら、挙手をお願いします。」
相変わらず、生徒に考えさせる時間を与える。
ルーシュは、技能〈無詠唱〉が使えるが、無詠唱とは、詠唱をしないで魔法を行使出来る事で、ルーシュの言う通り、魔法名は含まない。なので、〈無詠唱〉が使えない者でも、魔法名を発声しなくても、魔法は発動出来る。つまり、誰にでも、可能な事なのだ。ただ、魔法が生み出された際には、魔法名が付けられる。それは、魔法を区別する為に。
「魔法名を発声しなくても良いなら、それで良くない?」
「うん。詠唱と言うか、発動が速くなりそうだし・・・。」
考えてみるものの、今まで、常識と思っていた事が崩れたばかりである。中々、答えが見つからない。
「皆さん、答えに困っている様ですねぇ。それでは、逆にデメリットは、どうでしょうか?こちらの方が分かり易いと思います。」
「はいっ!」
「アンジェリカさん、どうぞ。」
「魔法の発動が遅くなるのでは?」
「それは違いますね。魔法は、詠唱で完結しますので、発声しても、発動速度は変わりません。」
「はいっ!」
「では、ライオスくん。」
「相手に何の魔法を使うか、分かってしまうのでは。」
「良い答えです。詠唱で分かってしまう場合もありますが、魔法名を発声すれば、間違い無く分かってしまいます。
他には、ありませんか?」
「・・・はいっ!」
「オリバーくん。」
「発動が遅くなるでは無く、魔法を使う行為自体に、時間かかる・・・違いますか?」
「おっ!中々、鋭い答えです。そうです、魔法名まで発声すれば、それだけ無駄に時間を使います。
では、デメリットが出たところで、メリットをと、いきたいところですが、時間になりましたので、これは、宿題とします。次回までに、考えてみて下さい。
それでは、今日の講義を終了します。」
今日の講義も終わり、昼食を生徒達と摂っていたルーシュ。
相変わらず、質問攻めにあっていた。
「先生の得意な魔法は何ですか?」
「そうですねぇ、雷属性と、無属性魔法でしょうか?」
本当は、古代魔法だが、それは言えない。秘匿事項である。
「先生。僕は、将来、冒険者になりたいのですが、大成するのに、必要な事はありますか?」
「そうですねぇ、魔法大学では、上級魔法を学習すると、聞いています。なので、パーティを組む際、重宝されるでしょう。ですので、それなりのランクまでは、昇格出来るはずです。
しかし、更に上を目指すなら、ある3つの事を出来る様になる必要があります。」
「3つ?」
「はい。1つ目は、動く魔物に、確実に魔法を当てる技術。
魔物は、動かない的ではありません。無軌道に移動する相手です。ですので、その動きの先を読み、当てる技術が必要になります。
2つ目は、詠唱をする時に、移動しながら、行なえる様になる事です。
魔法使いは、後衛職と言う立場から、詠唱をする際、その場で行う事が多いです。
しかし、それは、相手にとって、大きな隙を与える事になります。
例えば、詠唱中に、襲われた場合、詠唱が中断してしまう事があります。ですので、移動しながら、相手の攻撃をかわしながら、詠唱出来る様になる事が必要になります。
最後に3つ目ですが、魔法発動後、その場に留まらない事です。
先程と同じ様に、その場に留まると、大きな隙になります。魔法を発動した場合、自分の位置が、相手に分かってしまうからです。ですので、魔法発動後は、必ず、その場を離れてください。
これらの技術を身に付けると、パーティを組まずに、ソロでも、ある程度のランクまで上がる事が出来る筈です。」
「分かりました。1つ目が、1番難しいと思いますが、あとの2つは、大学でも出来るので、やってみます。」
「では、今日はこれくらいで。皆さん、午後の講義、頑張って下さい。」
教員になって、ルーシュのポンコツぶりは、なりを潜めた様に見えるが、性格が変わった訳では無いので、いつか、ボロが出るかも知れない・・・。
魔法大学の教員として、立派に仕事をこなしているルーシュ。阿呆っぽい言動が、無くなった?
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