レガリス魔法大学②
今回の作品は、他の方の作品と、極力被らない様に、オリジナルティーを重視して、書き上げて参ります。
予定では、かなりの長編になる予定ですので、読み応えがあれば良いなぁと、思う次第です。
少しでも、多くの方に、読んで頂ければ、ありがたいです。
誤字脱字等、あると思いますので、ご指摘もお願い致します。
大学講師の初日を無事終えたルーシュ。
迎えた翌日の講義は、前日と様子が違っていた。
まず、ルーカスと学長がいるのは同じだが、更に、3人、教員の見学者が増えていた。また、生徒の数も増えており、50名程になっていた。
「え〜、皆さん。昨日の宿題は、出来ているでしょうか?では、答えが分かった方は、挙手をお願いします。」
「はいっ!」
「はいっ!」
「はいっ!」
次々と、手があがる。
「それでは、1番速かった、オリバーくん。お願いします。」
「えっと、大気よ 魔に触れ大火を 起こせ では無いでしょうか?」
「正解です。もしかして、試しましたか?」
「はい、やってみました。」
「それでは、分からなかった人もいるかも知れませんので、実演を行いましょう。
大気よ 魔に触れ大火を 起こせ 〈ファイア〉。」
ルーシュが唱えると、大きな火が、灯った。
それを見て、騒ぐ見学者の教員。
「なっ!?あれが、〈ファイア〉!?」
「ば、馬鹿なっ!?」
「定説文を変えるだとっ!?」
なまじ、今まで、固定概念にとらわれていた教員には、刺激が強過ぎた様だ。
「え〜、見学の方々、講義の妨げになるので、お静かにお願いします。
では、先に進みますが、この様に、同じ〈ファイア〉の魔法でも、改変を行う事で、違う現象を生み出します。
魔法の再現性は、とても多い事が、分かったと思います。
別の詠唱で、着火の魔法を使うと、こんな事も可能です。
大気よ 魔に触れ火の鳥を 起こせ 〈ファイア〉。」
と、唱えると、鳥の形をした火が、灯る。
「「「なっ!?」」」
再び、驚く見学者達。それに対して、生徒は、一部を除き、驚きはしたものの、落ち着いていた。
「更に、改変しましょう。
大気よ 魔に触れ火の鳥を 飛ばせ 〈ファイア〉。」
すると、今度は、火の鳥が、講堂内に飛び出した。
火事になるといけないので、すぐに解除したが、これには、生徒達も驚きを隠せなかった。
「凄い・・・。」
「飛び立ったよ・・・。」
もう既に、自分達の知っている〈ファイア〉の魔法とは、全く、別物である。その為か、ルーカスがルーシュに質問した。
「ルーシュ先生、あれは、〈ファイア〉なのですか?もう、別の魔法にしか見えないのですが・・・。」
「間違いなく、〈ファイア〉ですよ。〈ファイア〉の魔法の定義は、火を起こす事ですから、形が違うだけで、目的は同じです。」
「なるほど・・・。」
「それでは、昨日も触れた〈ファイアボール〉ですが、この魔法は、火球を放つ魔法です。しかし、目標に真っ直ぐ向かう事しか出来ません。
つまり、目標が動いてしまったら、当たらない場合があります。
しかし、詠唱文を変える事で、その問題も解決出来ます。
それでは、まず、的を用意します。
大気よ 魔に触れ水球と成り 漂え 〈ウォーターボール〉。」
すると、水球が、ふわふわと、宙を漂い始める。
本来の目的は、〈ファイアボール〉の実演だが、これも、詠唱文の結果を変えているので、講堂が騒つく。
「〈ウォーターボール〉?」
「あんな事も出来るのか・・・。」
「では、的も出来たので、本来の目的である〈ファイアボール〉を発動しましょう。
大気よ 魔に触れ火球と成り 追え 〈ファイアボール〉。」
と、唱えると、漂う水球に向かって、軌道を変えながら当たった。
「曲がったっ!」
「凄いっ!!」
「これは、実戦向きだよっ!!」
生徒達の〈ファイアボール〉を変える一撃になった。
すると、見学者の教員の一人が、立ち上がり、叫んだ。
「こ、こんなものが、〈ファイアボール〉な訳が無いっ!!別の魔法だっ!!」
あまりの大声に、生徒達の視線が、その教員に向けられる。
「先程、講義の妨げをしないで下さいと、お願いした筈ですが?次に、邪魔した場合、強制的に退出してもらいます。」
「なっ!?なんだとっ!?」
「お静かに。本当に、出て行ってもらいますよ。この講義は、生徒の為の講義ですから。
それと、今のは、間違いなく〈ファイアボール〉です。先程、ルーカス先生にも申し上げましたが、今回は、詠唱の結果の部分を変えただけで、〈ファイアボール〉の目的である、火球を目標に当てる事に変わりはありません。
この様に、詠唱文を変える事で、現象の変化は起こります。ただ、目的は変わらないので、同じ魔法です。
今回は、〈ファイアボール〉で、実演しましたが、それ以外の魔法でも可能ですので、後日、試してみては如何でしょうか。
では、前日に触れた詠唱文の、魔に触れ ですが、これは、使用する魔力の量だと説明しました。ただ、魔力操作次第で、その量も変化するとも、お伝えしました。
この魔力の量を強制的に、2倍にして、〈ファイアボール〉を発動させるには、どの様に、詠唱文を改変すれば、良いでしょうか?閃いた方は、挙手をお願いします。」
「2倍かぁ・・・。」
「火球を大きくするとか?」
「いや、それじゃあ、2倍とは言え無いじゃ・・・。」
「そうだよ。きっちり、2倍とはいか無いだろ?」
相談し合う生徒達。ただ、講義を聞くだけで無く、自分で考える。それが、ルーシュの講義の方針だ。
ただ、講義を聞くだけ、詠唱文の変更を書き写す、覚えると言った事では、本当の意味で、魔法の理論は、身につかない。それでは、詠唱を覚える魔法詠唱学になってしまう。
現在、多くの魔法があるが、詠唱の言葉の意味が分からなければ、魔法は生まれ無かった。詠唱の言葉の意味を考え、理解すれば、何故、詠唱が必要なのかが分かる。
詠唱を覚えても、魔法が上手く発動しない理由は、魔力が足りない事や、理解が足りない事が、主な原因である。
だからこそ、魔法理論学と言う学問があるのだ。
「そうですねぇ〜、ヒントを出しましょう。皆さんには、手が2つあります。」
「・・・あっ!もしかして。」
「そうだよ、何も一つだけに、こだわる必要は無かったんだっ!」
「はいっ!何となくだけど、分かりました。」
「では、ナタリーさん。お答えください。」
「はい。自信はありませんが、火球を2つにすれば、良いのではないでしょうか?」
「・・・。」
「ち、違いますか?」
「大正解ですっ!」
「やったっ!!」
「そうか。やっぱり、そうだったのかっ!」
「くそっ!先を越されたっ!」
あちこちから、声があがる。〈ファイアボール〉の魔法など、魔法学園の初級部で習う魔法だが、魔法の可能性を知った生徒達には、まるで、新しい魔法を学んでいる気分である。
「では、実演は、此処では危険ですので、詠唱文だけ、お伝えします。これも、後ほど、試して下さい。
大気よ 魔に触れ2つの火球と成り 放て となります。これは、両手で行う事が出来ますが、慣れれば、片手でも、発動可能です。
これを極めていけば、3つ、4つと同時に発動が可能となります。
これを、〈多重展開〉と言い、技能になります。
身につける事で、魔法の技術が、格段に上がりますので、頑張って、習得出来る様になって下さい。
ただ、魔力の消費量が、増える事は、忘れずに。」
「「「「「はいっ!!」」」」」
「では、今日の講義を終了します。」
2日目の講義も無事終えたルーシュ。
昼食を摂りに、食堂に向かうルーシュの後ろには、前日よりも、多くの生徒が、連なっていた。
そして、またしても、生徒から、質問攻めにあう。
「先生っ!先程の〈多重展開〉についてですが、3つ、4つ、発動出来ると言いましたが、それ以上は、無理なんでしょうか?」
「いいえ、もっと発動出来ますよ。例えば、10個とか。」
「そんなにですか?」
「えぇ、ただ、この〈多重展開〉には、メリットとデメリットがあります。さて、何でしょう?」
「えっと、メリットは、一度の詠唱で、多くの魔法が使える。デメリットは、魔力を多く使うでしょうか?」
「半分正解です。でも、それぞれ、あと一つずつあります。」
「え〜、分かりません。」
「折角なので、他の皆さんも考えて下さい。」
「えっと・・・。」
「今の答えで、半分?他に何が?」
「はいっ!メリットが分かりましたわ。」
「はい、アンジェリカさん。どうぞ。」
「詠唱が少なくて済むでは、無いでしょうか?」
「その通りです。一度の詠唱で済むのです。同じ魔法を、何度も繰り返して発動するよりも、詠唱は少なくなりますね。更に付け加えると、一度の詠唱で、5つの〈ファイアボール〉を発動させるのと、1つの〈ファイアランス〉の威力は、ほぼ同じです。
つまり、詠唱が短くて済むと言うのも、メリットになります。」
「あっ、それは、気付きませんでしたわ。」
「でも、それって凄くない?〈ファイアランス〉なら、6節の詠唱なのに、半分で済むだもん。」
「だな、詠唱が短くても、強い魔法が発動出来る。」
「習得しないとっ!」
「で、残りのデメリットは、何だ?」
「う〜ん、あるかぁ?デメリット。」
考え込んでしまった生徒達。
昼食の時間なので、講義と違い、あまり、時間は取れない。何より、食事の手が止まっている。
「では、答え合わせを。」
ルーシュが、答えを教える事にした。
「デメリットは、一つの目標にしか、使えない。これが答えです。幾ら、たくさん発動しても、狙える目標は一つだけです。まぁ、目標を、大きな物や範囲にすれば、効果はありますが。」
「なるほど、確かに。」
「そう考えると、たくさん発動させても、無駄になる事もあるね。」
「ああ、先生の言った〈ファイアボール〉なら、5個ぐらいが、ちょうど良いかも。」
流石に、魔法大学まで、進学した生徒達である。飲み込みが早い。
昼食が終わると、ルーシュの今日の仕事は終わりなので、また、明日と挨拶を交わし、帰宅するのだった。
翌日は、午後からの講義だった。その為、午前中は、プリムと戯れ、早めの昼食を摂って、大学に向かった。
講堂に入ると、驚く事に、席が満席である。見学者の教員も、更に、増えていた。同席していた学長は、満面の笑みを浮かべており、ルーシュの講義が、良いものだと証明していた。
「え〜、では、講義を開始します。
昨日は、詠唱文を変えると、現象の変化が起こる事と、あくまでも、変化が起こるだけで、目的は変わらない事を学びました。
また、余談でしたが、〈多重展開〉についても、学びました。
これらを、試された方は、いらっしゃいますか?」
「はいっ!〈ウォーターボール〉でやりましたっ!」
「私は、〈ライト 〉で試しました。」
「〈ファイアボール〉の〈多重展開〉に挑戦しましたっ!」
「えっ!?何?」
「〈多重展開〉?聞いた事無いけど・・・。」
反応は、様々。前者の生徒は、昨日の講義を受けた者、後者は、受けていない者。たった1日の違いで、その差は、大きく開いてしまっている。
(う〜ん、困ったなぁ。たった1日、2日で、学習進度に差がついてしまっている。どうしようかな?)
「そうですねぇ、昨日まで、僕の講義を受けていた方と、受けていない方で、学習の進度に差が開いてしまっている様ですので、気になる方は、後日、質問に来てください。
では、本日は、中級の魔法をと、言いたい所だったんですが、中級になると、詠唱文も初級の倍、6節になり、詠唱文の変更も、複雑になります。
しかし、学習進度の差が開いてしまっているので、これは、後々、講義を行う事にして、大抵の方が、適性がある、無属性魔法について、学んでいきましょう。
皆さんご存じの通り、無属性魔法は、他の現代魔法の10属性に含まれない魔法です。正解には、無属性魔法にも、多くの性質を持った魔法があり、それらを総称して無属性魔法と定義付けています。
では、無属性魔法で、代表的なものを、あげるとしたら、何でしょうか?」
「はいっ!」
「ライオスくん、どうぞ。」
「身体強化の〈フィジカルアップ〉や、〈クイック〉、〈スロー〉など、です。」
「そうですね。かなり身近な魔法です。〈フィジカルアップ〉は、身体強化魔法、〈クイック〉、〈スロー〉は、時魔法に分類されます。
では、これらの魔法は、何に作用しますか?」
「はい!」
「では、アンジェリカさん。お願いします。」
「肉体に作用しますわ。」
「正解・・・と言いたいところですが、半分正解です。」
「半分ですの?」
「はい。確かに肉体に作用しますが、正確には、その生命に宿る魔力に干渉しています。
何故、魔力なのかと言うと、人を始め、植物、動物、魔物などの全ての生命には魔力が宿っています。つまり、生命活動には、魔力が必要不可欠です。
魔法を使い過ぎて、魔力欠乏症になった経験がある方は、分かると思いますが、軽症なら、立ちくらみ、酷い場合は、失神する事もあります。
これは、魔力、生命力が低下した事で、起こるのです。
〈クイック〉は、肉体の速度を上げる魔法ですが、実際には、肉体に宿る魔力に干渉して、瞬発力を高めているのです。
〈スロー〉は、その逆になります。
本来、魔法は、事象に干渉し、それを改変して、結果を出し、発動するものです。
しかし、〈フィジカルアップ〉、〈クイック〉、〈スロー〉などは、事象に干渉していますか?大きく、広く、考えれば、肉体も事象に含まれます。
その為、〈クイック〉などは、肉体に宿る魔力に干渉しています。
その肉体の魔力に、瞬発力を高める刺激を与え、速く動ける様になっているのです。
無属性魔法に、〈スリープ〉がありますが、これも、睡眠欲を高めて、眠気を誘う魔法です。
肉体に備わっている状態を、任意に高める事で、結果を出す、それが、肉体に影響を与える魔法の正体です。」
何気なく使っていた魔法だが、速度を上げる現象などは、よくよく考えてみれば、あり得無い。
だが、速度を高める刺激を与えるなら、納得する事が出来る。
魔法は事象に由来するものである以上、何でもかんでも、出来るものでは無い。万能では無いのだ。
「では、最後に。明日は、僕の講義はありません。また、翌日は、休日になります。
ですので、少し多めの宿題を出します。
〈フィジカルアップ〉、〈クイック〉、〈スロー〉の3つの、それぞれの詠唱文で、効果を高める為には、何処をどの様に変えれば、良いでしょうか?ヒントは、今日の講義にあります。よく考えてみれば、分かる問題です。頑張って下さい。
今日の講義は、これまでとします。」
と、締めくくったルーシュ。
生徒達は、正解に辿り着けるのか。
不人気だった講義を、注目を集める様にしたルーシュ。10歳とは思えない知識で、講義を続けるが、その知識に底は無いのか?
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