ホルルドの街⑦
今回の作品は、他の方の作品と、極力被らない様に、オリジナルティーを重視して、書き上げて参ります。
異世界ものではありますが、主人公は、1作品目、2作品目とは、立ち位置が違います。
予定では、かなりの長編になる予定ですので、読み応えがあれば良いなぁと、思う次第です。
少しでも、多くの方に、読んで頂ければ、ありがたいです。
誤字脱字等、あると思いますので、ご指摘もお願い致します。
サーシャが帰宅して、目に飛び込んできたのは、床一面に、所狭しと並べられた魔法薬の瓶だった。
「何これ?」
「あ、サーシャさん、おかえりなさい。すぐ、片付けますね。」
使った道具と、魔法薬の瓶を〈インベントリ〉に収納するルーシュ。
「今の魔法薬?」
「そうですね。暇だったで、作成していたら、夢中になり過ぎて、こんな時間になってしまいました。」
「いや、時間の問題じゃなくて、量の問題なんだけど・・・。」
「いつ、何があっても良い様に、作っていただけです。」
「いや、流石に、あんなに要らないでしょ。お店でも開く気?」
「いやいや、僕は、そっちの専門では無いので。」
「でも、魔法薬が作れるって事は、〈調合〉の技能を持っているんでしょう?」
「ええ、そうですね。」
「あれだけ出来るなら、熟練度も高いんじゃ・・・。」
「そこそこです。」
「・・・そう。」
サーシャが言ったように、技能には、熟練度がある。
技能の熟練度の最高値は、5。
ルーシュは、そこそこと言ったが、ルーシュの〈調合〉の熟練度は、5。
つまり、材料さえあれば、全ての魔法薬が作れてしまう。
〈調合〉の技能は、一般的なものなので、熟練度さえ、教えなければ、特に問題は無い。
ただ、ステータスは隠すことは出来るが、改ざんは出来無いので、やはり、人に見せる事は出来無い。
ルーシュが、ステータスを隠しているのは、その為だ。
サーシャが帰宅したので、早速、夕食の準備をするルーシュ。プリムの分も用意して、皆で、夕食を頂く。
ちなみに、日中、プリムは何をしていたかと言うと、ルーシュが、光属性の生活魔法、〈ライト 〉を作って、それと追いかけっこをしていた。
本来、〈ライト 〉は、闇を照らすだけの魔法で、飛び回ったりはしない。
しかし、ルーシュは、空中を飛び回るように、魔法を改変した。
では、何故、魔法を行使しながら、魔法薬を作れたのか?
それは、また、別の技能を使っていたからである。
「ルーシュくん、グラン侯爵様の依頼、受けると言うか、受けたの?」
「ええ、手間が掛からないものだったので。」
「うん、聞いた。もう既に、終わってるって。」
「サーシャさんに、冒険者ギルドの説明を聞いた後だったので、ギルドが依頼を受注する前は、良くないと思ったんですが、ギルドマスターが急かしたので。」
「全く、ギルドの長、自ら、規則を破るなんて。」
「まぁ、すぐに、領主邸に向かったらしいので。」
「ええ、帰って来るなり、指名依頼書を作ってくれって、お願いされたわ。」
「お手数をお掛けしました。」
「別に、それが仕事だから、構わないわ。」
「では、明日も、ギルドに行かないといけませんね。」
「そうね。ギルドマスターも、また、ルーシュくんに用があるって、言ってわ。」
「何でしょうか?」
「さあ、そこまでは、分からないわね。まぁ、更に、レッサードラゴンを討伐してくれとは、言わないと思うけど。」
「そう願います。流石に、使い魔の彼らを討伐するのは、ご勘弁願いたいです。
今回のは、たまたま、襲われた時のレッサードラゴンですから。」
「ちなみに、何匹くらいのレッサードラゴンに襲われたの?」
「う〜ん、途中から数えるのを止めたので・・・。10匹以上でしょうか?」
「・・・そう、よく無事だったわね。」
「何故か、皆さん、必ず、口を開けて、向かって来たので、ただの的でした。」
「なんか、レッサードラゴンに同情するわ。」
「下級の竜なので、頭が良くないのかも?古代竜は、知能高いんですけど。」
「そうなのね。確かに、プリムちゃんは、赤ちゃんなのに、賢そうね。」
「キュイ?」
「そうですね。プリムは、始祖竜なので。」
「そう言えば、ギルドで噂がたってたわよ。」
「プリムですか?」
「違うわ。ルーシュくんの噂。」
「はて?何でしょう?」
「爆買いするフードを被った美少女よ。」
「ぶっ!?何ですか、それ!?」
「身に覚えない?昨日の事。」
「・・・あっ!あれかっ!!」
「もう、フードを被っても無駄ね。いや、寧ろ、被ったら、街中、歩けないんじゃ無い?」
「そ、そんな・・・。」
「別の対策が必要ね。」
せっかく買ったフード付きの服が、返って、目立つ特徴になってしまったルーシュ。
対策らしい対策も、思いつかないまま、翌日を迎える事になった。
翌日、再び、冒険者ギルドに向かったルーシュ。
昨日同様、頭の上に、プリムがしがみついたままである。どうやら、プリムにとって、ルーシュの頭の上は、定位置になった様だ。
「・・・蒸し暑い。」
当然である。
プリムは、全身を羽根に覆われている。その上にフードを被っているのだ。プリム自身の体温と羽布団に、フードの保温性。相乗効果で、熱が篭る。
「諦めて、フードを外したら?」
「いえ、それは・・・、はっ!そうだっ!
大気よ 魔に触れ風と成り 吹き出せ 〈ブロー〉っ!
おおっ!、快適、快適♪」
「〈ブロー〉?どこに?」
「フードの中です。フードの中で、風を起こしているんです。〈ブロー〉、侮れません。」
「え、〈ブロー〉って、手から出るんじゃ?」
「いえ、身体のどこからでも、発動させられますよ?発生させたい所に、意識を集中すれば。」
「そうなんだ・・・。」
「これも、皆さんが、固定概念に縛られているからですね。
魔法は、手から発動すると。
なので、当然、足先からだって、発動出来ます。
無属性の身体強化魔法〈フィジカルアップ〉が、良い例です。あれは、全身に魔力を巡らせて、発動しますから。」
「知らなかったわ。」
「〈ブロー〉は、本来、埃を飛ばす、清掃の魔法として使われますが、皆さん、手からしか発動しない、使いがってが悪いと思って、あまり、使われません。
ですが、足先から発動出来れば、歩きながら、床の掃除が出来ます。」
「そうねっ!それなら、掃除が楽になるわっ!!」
「はい。是非、使ってみてください。」
そんな話をしながら、冒険者ギルドに到着すると、早速、指名依頼の手続きを行い、討伐報酬と素材買取り金を受け取る。
「・・・となり、合計で、金貨2800枚となります。お受け取り下さい。」
「ありがとうございます。」
まだ、前回のレッサードラゴンで得たお金が、金貨2000枚近く残っているので、今回の分を合わせると、金貨4800枚。余裕で、一軒家が買える。まぁ、本人が、ホルルドの街に、定住する気があればだが。
ルーシュは、受け取りが終わると、ギルドマスターの用とやらを聞きに、ギルドマスター室に向かった。扉をノックし、入室の許可を得て、昨日と同様、ソファに座る。そして、お茶を頂きながら、話を聞く事になった。
「申し訳無いです、何度も呼びつけてしまって。」
「いえ、構いませんよ。帰っても、暇なので。」
「でも、依頼も受けれ無いのでは?」
「う〜ん、今のところ、依頼を受け無くても、生活に支障が無いので。」
「ああ、そうかも知れませんね。ここ数日で、大金を手にしてますからね。でも、普通、冒険者なら、もっともっとと、稼ぎに走るのですが。現役でいられる時間は、限られてますから。」
「なるほど。でも、僕は、まだ10歳なので、先の話ですね。
それで、お話と言うのは、何でしょうか?」
「ああ、本題に入りましょうか。昨日、私が、ご領主様にお会いしたのは、知っていますね?」
「はい。今日、報酬などを頂きましたから。」
「うん。それで、その際、ルーシュくんの話題になりまして、一度、ルーシュくんに会ってみたいとの事なんですが、どうでしょうか?」
「そうですねぇ・・・。僕は、貴族の方が、嫌いと言う訳では無いんですが、人に命令されるのも、命令するのも、好まないので・・・。」
「そうですか。そう言う理由で、冒険者になる人もいますから、分かります。ですので、無理強いするつもりはありません。
それに、グラン侯爵様は、貴族の方としては、あまり、偉ぶったりしない方ですので、平気だと思いますよ。
今回のレッサードラゴンの件は、あくまで、世間体を気にしての依頼ですし、マモスキー子爵様が、買取りをしなかったら、こんな事には、ならなかった筈です。」
「仮にお会いするとして、僕、貴族の方の前に、出れる服、持っていませんよ?」
「それは、問題ありませんよ。ルーシュくんは、冒険者ですので、今の服装のままで、十分です。」
(う〜ん、断る理由が無くなちゃったなぁ。仕事をしていないので、暇なのは、すぐに分かっちゃうだろうし。正直、他国の貴族と関わりを持ちたく無いんだけど・・・。貴族の面子を潰すと、後々、面倒になりそうだし、一度だけなら、良いかな?)
「分かりました。一度だけなら。」
「そうですか。では、グラン侯爵様には、その様にお伝えします。
面会の日取りについては、サーシャくんを通して、ご連絡しますね。」
「はい、お願いします。」
竜山に戻って、国巡りをする予定が、どんどんと、遠のいていくルーシュ。
そして、この選択が、今後の活動に、大きな影響を及ぼす事になるのだった。
帰宅したルーシュは、グラン侯爵との面会まで、部屋に引き篭もる事にした。例の噂の件もあるし、そもそも、外出する用も無い。
普通、ルーシュと同世代の子供達は、チャンバラごっこなどをして遊んでいるが、そこに混ざる気には、なれなかった。それは、ルーシュが剣を使えないと言う訳では無い。
何故なら、ルーシュの技能〈剣術〉の熟練度は、5。達人級である。
どんなに、手を抜いても、遊びにならず、指導になってしまう。
それに、容姿のせいで、同性扱いしてもらえないだろう。お姫様扱いされてしまうのが、オチである。
なので、サーシャの家で、掃除などの家事をしながら、プリムと戯れ、時間を潰す事にした。
幸い、面会の日取りは、すぐに決まり、ルーシュに気を遣ってか、面会場所も、ギルドマスター室になった。
そうして、あっと言う間に、面会日を迎え、現在、ギルドマスター室で、グラン侯爵との面会が、始まった。
「ふむ。お主が、ルーシュか。面会に応じてくれて、感謝する。わしが、グランだ。」
「グラン侯爵様、お初にお目に掛かります、ルーシュと申します。」
「ゲインに聞いていた通り、礼儀正しいな。だが、わしは、堅っ苦しいのは、あまり好まん。楽にしてくれ。呼び名も、グランで良い。」
「分かりました。では、グラン様と。」
「うむ。しかし、本当に幼いな。それに、綺麗な顔立ちをしているが、本当に、男か?」
「はい。良く間違われますが、男子です。」
「そうか。それで、お主の頭に引っ付いておるのが、始祖竜の子か?」
「はい。名をプリムと申します。家に置いて来ようとしたのですが、引っ付いて、離れなかったので、失礼かと思いましたが、連れて参りました。」
「わし自身、見てみたかったからな、構わん。それより、今回は、世話になった。礼を言う。」
「いえ、ご依頼をこなしただけですので。」
「その依頼内容が、難易度の高いものだったのだ。それを、見事に完遂してくれたのだ。礼の一つも言いたくなる。」
「恐縮です。」
「さて、話は変わるが、お主、竜山を越えて、我が領地に来たらしいな。生まれは、何処だ?」
「少々、込み入った事情がありまして、誠に申し訳ございませんが、それは、お答え出来ません。」
「そうか、仕方が無い。詮索は控えよう。」
「ありがとうございます。」
「では、竜山を越えた際の話にするか。竜山には、始祖竜の成体は居なかったらしいが、噂では、古代竜が、住み着いているとされていた。竜は居なかったか?」
「おりました。」
「そうか、噂は、本当だったのだな。ちなみに、どの竜か分かるか?」
「はい。4源竜の一体、炎竜です。」
「何とっ!?始祖竜とともに、世界を創ったと言う、4源竜かっ!?」
「はい。おっしゃる通りです。」
「まさか、それ程の竜が住み着いていたとは。ゲイン、危険ではないか?」
「そうですね。竜種は、縄張り意識が高いと言われていますので、近づいて、刺激しなければ、問題無いかと。
これまで、街が被害を受けた事は、ありませんので。」
「確かに、そうだな。しかし、ルーシュと言ったか、炎竜だと分かったと言う事は、縄張りに入ったのではないか?襲われ無かったのか?」
「・・・襲われました。」
「襲われたのかっ!?よく、無事だったなっ!?どうやって、逃れたのだっ!?」
「・・・倒しちゃいました。」
「「なっ!?」」
「・・・・・。」
「・・・おい、ゲイン。わしは、倒したと聞こえたが、お前はどうだ?」
「はい、そう聞こえました・・・。ルーシュくん?」
「違うんですっ!故意では無かったですっ!!」
「でも、倒したんですよね?」
「・・・はい。何度も何度も、謝罪したんですけど、何故か、逆に怒らせちゃって・・・。」
「なっ!?炎竜と会話したのかっ!?」
「はい、グラン様。古代竜クラスの竜種は、技能で〈念話〉と言うものを持っているので。」
「そうなのか、会話が通じるか・・・。」
「でも、許してもらえなくて・・・。気絶させれば、大人しくなると思って、殴ったら死んじゃいました・・・。」
「「殴ったっ!?」」
「あっ、殴ったと言っても、拳に魔法を停滞させて、炎竜の頭の中に、叩き込んだと言うのが、実情です。」
「そ、そうか。・・・しかし、ゲインよ。魔法とは、その様に使えるのか?」
「いえ、私も初めて聞きました。」
「ちなみに、炎竜のランクは、どのぐらいだ?」
「実際に、戦った者の記録が無い為、推定で S Sランクとなっております。」
「それを、倒したのか・・・。ルーシュよ、炎竜の亡骸は、どうした?」
「僕の魔法で、保管してます。」
「なっ!?持ち帰っているのかっ!?」
「はい。」
「それを、見る事は出来るか?」
「ギルドの解体場では、入りきりません。レッサードラゴンの3倍以上の大きさなので。」
「それ程の大きさとは・・・。ギルドで買取り、いや、無理か。」
「ええ、もう、国家クラスの案件です。」
「だな。わしは、急ぎ、国王陛下にご報告する。ゲインは。」
「分かっております。ギルド本部に報告ですね?」
「ああ。ルーシュよ、お主にも、色々と事情があるかも知れんが、王都より、連絡があるまで、この街で・・・、いや、違うな。わしとゲインと共に、王都に向かう。」
「え、王都に?」
「ああ。王都で、国王陛下との謁見だ。」
「はい?」
「謁見だ。」
「あ〜の、もしかして、処罰でしょうか?」
「逆だ、逆っ! S Sランクの魔物を討伐したのだぞっ!!Sランク昇格と可能であれば、炎竜の亡骸を、国に買い取ってもらう。
まぁ、お主が、炎竜の亡骸を、手放したく無いなら、別だが。」
「いえ、必要無いです。」
「ならば、良しっ!近日中に、王都に向かうので、準備してくれ。」
「現物の確認はしなくて良いですか?」
「倒したのだろう?」
「倒しました。」
「なら、問題無かろう。お主の眼は、嘘をついている者の眼では無い。」
「えっと、証拠になるか分かりませんが、一応、これが、炎竜の鱗です。」
〈インベントリ〉から、鱗の一枚を取り出すルーシュ。一枚とは言え、大人の背丈より大きい。
「これが、炎竜の鱗か・・・、予想以上の大きさだな。」
「まさか、これ程の物とは・・・。」
「何か、ご迷惑をお掛けしちゃったので、差し上げます。」
「良いのか?これだけでも、相当の価値があるはずだが・・・。」
「はい。まだまだ、沢山ありますので。」
「そ、そうか。なら、遠慮なく頂こう。」
「る、ルーシュくんっ!少しだけで良いので、ギルドにも卸してもらえませんかっ!?勿論、高値で買い取らせて頂きますっ!!」
「良いですよ?要らないし。」
「ありがとうございますっ!!」
「ゲイン、あまり欲張るなよ?」
「分かっております。そもそも、資金が間に合いません。」
「では、ルーシュ。出発の日取りは、ギルドを通して、連絡する。いつでも、行けるようにしてくれ。」
「分かりました。」
王都に向かう事になってしまったルーシュ。
東に向かい、国巡りをする予定から、更に、遠のくのだった。
伝説の竜を倒してしまった事が、バレたルーシュ。今度は、王都に向かう事になりました。レガリスの王都は、どんな所なのか?
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