伝説の国
風のほとんどない穏やかな海を、高速で移動する『ロボット』が一機。
リモートメイルが一つ、シーレイダー。
海上を移動できる機体であり、背面に味方機を乗せるスペースがある。
十二はそこに乗り込んでおり、またタブーの遺産も大きな袋にまとめて乗せていた。
「これ乗ってるだけで楽しいのはいいんですけど、大丈夫なんですか?」
『嵐とか大波が来た時平気かって話かい? 大丈夫大丈夫、コレは結構な速度で動けるからね。遠くから暗雲が近づいたら遠くに逃げられるから』
「平気とは言わないんですね……」
シーレジャーの一つ、水上バイク。十二は乗ったことはないが、見たことはある。
それに酷似した状況であり、ハッキリ言って大海原に漕ぎ出すには無謀だった。
ギボールは気楽に言うが、十二としては不安になってしまう。
「もうちょっと船っぽいデザインが良かったっす」
『はははは! まあそんなこと言わないの。シーレイダーがいなかったら、もっと大変だったよ? そのあたり感謝しないと』
「……うす」
坂を駆け上るように、大波を越えていくシーレイダー。
十二も荷物も落とさないよう配慮しているのでありがたいが、それでもずっと絶叫マシンに乗っているようなものだった。
気が休まる暇がない。
「で、その……いつぐらいに、陸地につきますかね?」
『さあ、それこそ峻厳なる大海原の慈悲に縋るしかないね。わかりやすく言うと運次第だ』
「世の中は厳しいっすね」
『そうでもないさ。君は生命樹の果実を食べているだろう? 直射日光を浴び続けても、のどが渇くとかはないはずだ。君流に言えばヌルゲーだしイージーモードだよ』
「……そういうサバイバルゲーム、よく知ってます。はい」
現在の十二は、朝ご飯を食べ過ぎて昼になってもお腹が空かない、というような腹具合。
もしも空腹や喉の渇き感じていたら、それこそ偉いことになっていそうである。
彼女が言うところの峻厳なる大海原に呑まれて、そのままお陀仏だろう。
せっかく脱出できたのに、文字通り水の泡である。
「……あの~~、なんか話してくれません?」
『この壮大な海をざぶんざぶんと移動しているのに、吾輩と話をしたいというのかい? あれかい、どこに行くにもスマホのワイヤレスイヤホンで動画配信サイトからなんか聞いてないといけない系の男子かね?』
(知識がリンクしていると、ろくなことがないな……)
ギボールからすれば船旅を満喫してほしいらしいが、十二からすると面白くはない。
マリンスポーツを楽しんでいるわけでもないので、無理もないことであろう。
『それじゃあ少し話をするけども……そうだな、必要な話をしよう』
(タブーの話はしないんすね)
『君が警戒すべきは、やはりクリファ教団とやらだろう。あのマテリアリストは自分を十騎士と呼んでいたし、あと九人いると考えるべきだ』
大魔神ギボールとマテリアリストの戦いは、極めて一方的だった。何回やってもギボールが勝つと言い切れるほどに。
にもかかわらず、ギボールは警戒している様子である。
『単純な話、残り九人全員が同時に襲い掛かってきたら絶対に勝てない。吾輩は負けるし、君も殺される。それだけの価値もある』
「……聞きたくなかった、そんなこと」
あくまでも仮定の話だが、クリファ教団が持つと予測できる戦力だけで十二とギボールを倒すには十分だ。
このうえクリファ教団四天王とかクリファ教団暗殺部隊とかクリファ教団軍団とかクリファ教団ファンクラブとかがいる可能性もある。
世の中そんなに甘くない。いくらイージーモードといえど、初期装備で全クリできるほど温くないのである。
『だからクリファ教団に見つからないようにすることだ。あとはそうだね~~、吾輩の使用も控えた方がいい。とても目立つからね』
「それじゃあリモートメイルで戦うんですか?」
『それも高級品だから、できればやめた方がいいんだけど……ま、吾輩を使うよりはいいか』
(あれ? なんか戦う流れになってる? 俺戦い続ける運命に巻き込まれてる? もし聞いて『そうだよ、峻厳だろ?』とか言われたら立ち直れないな……止めよう)
気付いたらアクションRPGが始まっていた十二。
彼は自分の人生というゲームが始まったことを受け入れられず、できるだけ考えないようにしながらシーレイダーのグリップを強く握っていた。
『おっと、高い波が連続するぞ。気をつけたまえ』
「え、あ……うわっ、うわっ、うわあああああ!」
水上バイクで航海する無謀さを全力で味わいながら、十二はどっぱんどっぱんと躍動する。
シーレイダーは凄いのだろうが、十二の体はついていけなかった。
思わず手を放してしまいそうになる。
『ん? お、おお! なんだ、陸地が見えてきたよ』
「ぜんぜん見えないっす! 波しか見えない! っていうか、塩水で目を開けてられない!」
『高くジャンプしている時に、ちらっと見えるよ』
「遠くを見る余裕なんてないっす! え、つまりスゲー遠く?」
『まあ、遠くだね。よし、シーレイダー。スピードアップだ』
「ちょ、お、え、ああああああああああああああああああああああああああああああ!」
目的地を見つけたシーレイダーは、今から本気だといわんばかりに加速する。
波を飛び跳ねるのではなく突き破り、文字通り一直線にぶち抜いていく。
「あ、安全に! 安全に! 安全運転でお願いしますぅうううう!」
『これはつまり、危険運転でお願いね、ってことだね?』
「違うってわかっててやってるでしょ!?」
『うん!』
「峻厳は理不尽と違うんじゃなかったんですか~~?」
『吾輩は君に対して、峻厳にふるまわないよ。逆に言って、ちょっと意地悪はする』
「やめて~~~!」
水上バイクで航海してはいけない。後悔先に立たず。
十二は悲鳴を上げながら、まっしぐらに新大陸へ上陸するのだった。
※
新大陸が本当に大陸かどうかはともかく、少なくとも『大きな島』程度には大きかった。
海岸からも巨大な山が見えており、起伏にとんだ地形であることが窺える。
とても豊かな森林地帯であり、冒険の一歩目としては適切だった。
いきなり砂漠や寒冷地帯に送り込まれても、それこそゲームを投げたくなるだろう。
『さあて! これが君にとってのファーストステージだね! この言い回しは、君の基準だと古風かな?』
「どっちでもいいっす……うぷぅ……」
『今の君が、この程度で船酔いするとはおもえないけど?』
「潮を浴びすぎて気分が悪いんですよ!」
元々ボロボロだった学生服が、更に着心地が悪くなっていた。
友人が欲しいとか以前に、とりあえず着替えが欲しいところである。
『ははは! まあまあ、それでチュートリアルの続きだけど……吾輩もここが安全だ、とは言い難い。吾輩は感知とかがそんなに得意じゃないからね。君が好きそうなゲームでも、街の外を歩く時は、こう、なんか出すだろ?』
「あいまいですけど、まあそうですね」
モンスターやらなんやらを使役するタイプのゲームならば、危険地帯を歩く時にモンスターを出すというのは設定的によくあることだ。
敵が現れてから出すというのも間違っていないが、十二はできる気がしなかった。
普通に『不意を突かれて、敵に先制攻撃される!』とかになりそうだった。
『誰も見てないだろうし、リモートメイルを展開したまえ。プロトタイプとシップスラッシャーとシールドホルダーだ』
「うっす。えっと、これと、これと、これか……開放!」
三体のリモートメイルが、キャリアーから現れる。
それぞれが強そうな姿をしているが共通点があり、同時にイモータルリッパーやデモンスレイヤーとは大きく異なる点がある。
「剣とか盾とか持ってますね」
『そりゃあ持ってるさ。彼らは汎用型で、純白兵型のイモータルリッパーやデモンスレイヤーとは違うんだから』
「……え、あれ? 白兵って、接近戦って意味なのでは?」
『そうだよ。そのあたりも軽く説明しようか』
現在十二が保有している戦力は、リモートメイルだけである。
にもかかわらず詳しく聞いていなかったので、今更ながら説明を受けることにしていた。
『そこに立っている『プロトタイプ』は文字通り試作機であり、最初のリモートメイルだ。見ての通り、中身が入っていない鎧武者だよ。人間同様に武器を使って戦うようにできている』
「……まあ、最初はそういう感じですよね」
『君が今イメージしたように、人間を模したガジェットだからこそ、最初は人間と同じように戦うよう作られたのさ。でもプロトタイプの性能が思ったより良かったので別の機体が作られ始めると、いろいろと模索されることになった。純白兵型は、比較的初期に作られたものでね。純粋に『動く鎧』としての性能を突き詰めている』
イモータルリッパーとデモンスレイヤーは、ともに武器を使わない。形状こそ違えど手足で戦うコンセプトである。
純白兵型といっているが、格闘型といった方が適切なのかもしれない。
『構造が単純な分、シンプルに強い。燃費、パワー、スピード、何より頑丈さは比類ない。リモートメイル同士の戦いをするのなら、純白兵型こそ最強と言っていいだろう』
「ん、あ、あ~~……確かに実際に作るなら、シンプルな方が強いですよね」
『……今君が想像した、変形して合体するデザインも考えられたけど、構造が複雑になりすぎるし、何より携帯できるから変形や合体の意味がないから結局製造されなかったそうだよ。というかリモートメイルは、それこそオモチャじゃないんだよ?』
「そ、そうですよね……」
このままだと人型ロボットに対するSF考証が始まりそうだったので、十二はただ頷いた。
リモートメイルはオモチャじゃない、で話は終わっているのだし。
『とはいえ、汎用型が弱いわけじゃない。純白兵型は名前どおり、接近戦しかできない。近づいて殴るしかできなんだよ。君の身を守りつつ敵を倒す、というのはできないわけじゃないけど難しい。その点汎用型は、盾や銃を持っているからね』
「銃あるんですか!?」
『……翻訳の都合で銃と言っているだけだよ。君が想像したような、火薬を爆発させて金属の塊を発射させる物とは違う。魔力による……レーザー銃みたいなものだと思ってくれ』
「ますますロボットみたいだ……」
『とにかく……武装の幅は戦術の幅だ。汎用型を三体も出しておけば、君の身の安全を守りつつ脅威を撃退できるだろう!』
(脅威と遭遇することは決定事項なんだ……)
説明に納得した十二は、自分を守ってくれるリモートメイルを見た。
きっとイモータルリッパーやデモンスレイヤーのように、格好良く自分を守ってくれるのだろう。
そう思っていたのだが……。
「なんか明後日の方向を向いてませんか?」
『そうだねえ、何かに気付いたのかな? あ、いや……そうじゃないぞ。参ったな、吾輩としたことが説明に夢中になっていたようだ』
「え、どうしたんすか?」
『よく見てごらん……二体しかいないよ』
十二が呼びだしたのは、プロトタイプとシップスラッシャーとシールドホルダーの三体である。
にもかかわらず、この場にいるのはプロトタイプとシールドホルダーだけだった。
一緒に呼び出したはずのシップスラッシャーがいない。
リモートメイルは鉄の鎖でつながっている有線式なので、自然と自分につながっている鎖を見ることになる。
プロトタイプとシールドホルダーの視線の先に、どこまでも伸びていた。
『どうやら君の命令を待たずに、あっちに走っていったようだね』
「なんで!?」
『これは……暴走しているね』
「そうっすね! いろんな意味でね!」
シップスラッシャーが木にぶつかって倒れて壊れるのならまだいいが、なにか凄いことになっているかもしれない。
十二は慌てて走り出そうとするが、硬くて強い手で腰に手を回された。
プロトタイプが十二の体を片手で持ち上げて、赤ん坊でも抱えるように持ち上げたのである。
十二がシップスラッシャーの暴走に気付き、追跡の判断をするまでは待っていたのだろう。
もう片方の手で盾を構えながら、シップスラッシャーの暴走した先へ走り出した。
もちろん、十二がそんなに揺れないように、である。
なお、硬くて太い腕で運ばれているので、十二の尻はかなり痛い模様。
「あだっあだっあだっ!」
『一応言っておくけど、この状況は峻厳じゃないからね? 吾輩の意地悪でもないからね?』
「うっす……」
戦闘ロボットに自意識を持たせるのは危険ではないか。
古いロボットアニメの頭の堅い大人のような考えに至った十二。
彼らの追跡はそこまで長引かなかった。鎖の伸びた先で、シップスラッシャーは『倒れている誰か』を背にしている。
シップスラッシャーは、名前の通り巨大な剣を持っている。両手でも持ち上げられるか怪しい巨大剣を中段に構えて牽制しているのだ。
つまり、戦闘寸前である。
『おいこら! なんだてめえは!? 俺らの邪魔をしようってのか?』
『俺たちはクリファ教団の戦闘員だぞ!? 俺たちの行いは、クリファ様のためなんだぞ? それを妨害するってことが、どういうことなのかわかってるのか!?』
(さっそくクリファ教団ともめている……)
プロトタイプに下ろしてもらった十二は、あらためて状況を確認した。
クリファ教団の戦闘員を名乗るのは、どう見ても人間ではない。
「かなりのケモだ……」
『ライカンスロープだ、わかりやすく言うと狼男だね』
狼男と言っても、耳と尻尾が生えているだけ、ではない。
全身が毛むくじゃらで、顔の骨格もかなり狼である。
二足歩行であり、前足というよりもしっかりと『腕と手』なので、狼そのものではなく狼男と言っていいだろう。
もちろん十二よりかなり大柄だ。仮に戦ったら、赤ずきんのように一飲みにされるだろう。
その上相手は五人もいるのだから、十二一人ではどうしようもない。
しかしここにはリモートメイルが三体も並んでいる。見るからに強そうなので、ライカンスロープのほうがすでに逃げ腰だった。
『おい、見ろよ! なんか新手まで来たぜ? 面倒だしもう逃げないか?』
『バカ野郎! 俺たちはクリファ教団だぞ? こんな奴らに舐められてたまるかよ!』
『でもよ、あんな雑魚をとっつかまえるのに大ケガしたら、それこそつまらねえだろ?』
『ばっきゃろ~! そんなことしたら舐められるだろうが! 俺たちだけの問題じゃねえんだぞ!?』
『……それはそうだな。それじゃあお前ひとりで頑張ってくれ、俺たちは逃げる。逃げて上官に『ヤバいのがいました』って報告する』
『え、おま……おま、ズルいぞ! それじゃあ俺も逃げる! 覚えてろよ、ちくしょう!』
「テンプレートな雑魚台詞だ……」
ライカンスロープたちは戦況不利と見るや、脱兎のごとく逃げ出していた。
物凄く見事な逃走であったため、追いかけようという気が起きなかったほどである。
『予測される峻厳を前に撤退するのならそれは賢明だ。吾輩としては追いかけたくないね』
「そっすね……って、うお?」
シップスラッシャーは戦闘体勢を解き、構えていた両手剣を背負っていた。
一方でプロトタイプはのしのしと近づき、シップスラッシャーの顔を思いっきり殴っていた。
金属と金属がぶつかり合って、とんでもない不快音が響く。
シップスラッシャーはわずかによろめき、体勢を整えることもなくプロトタイプを睨んでいた。
表情というものがないリモートメイルながら、感情が伝わってくるようだった。
プロトタイプはそれにもひるまず、追撃のゲンコツを浴びせる。
そのあとはしばらく沈黙したのち、二体は並んで十二の傍に立っていた。
なんとも、シレっとしたものである。
『まあ、そのなんだ。そこのお嬢さんと話をしようじゃないか。そのために、リモートメイルは一旦引っ込めよう』
「そうですね……」
一体何のためにリモートメイルを出したのかわからないまま、三体のリモートメイルを引っ込める十二。
なんか暴走して、なんか人助けをして、なんか仲間割れをした。
整理すればするほど、さっきまでのチュートリアルが虚しくなってくる。
(いやでもまあ、人助けは出来たわけだし……うん)
十二は改めて、シップスラッシャーが助けた『ヒト』を見た。
とんでもない衝撃を受ける。
「かなりのケモだ……!」
倒れている『女性』は、明らかに人間ではなかった。
ライカンスロープ同様、かなりのケモである。
全身毛むくじゃらの上で薄手の服を着ている、二足歩行の動物の女性であった。
『吾輩は君の脳内に駆け巡った情報を受け取ったのだけど、君は高度な情報化社会でどんな情報を受け取っているんだい? 年齢制限に引っかかりそうな画像も見えてしまったよ』
「俺も思春期ですから……思春期ですから!」
脳内フォルダを共有する相手からの冷静なツッコミに、十二は勢いで乗り切ろうとする。
いろんな意味で、ウソをつくことはできなかった。
『……アレだ、君がこのまま彼女を起こすと、コンプライアンスに引っかかるかもしれない。ファミリアである吾輩に任せたまえ』
「(女性を使い魔にしていることも、コンプライアンスに触れそうだけども……)お願いします!」
十二は一瞬考えてから、力強くお願いした。
『もしもし、そこのお嬢さん。こんなところで寝ていたら危ないよ? 起きられるかい?』
『う、うう……』
獣の女性はケガなどはないらしく、ゆっくりと起き上がった。
やはりケモ的に美女である。
『わ、私は、その……悪い奴らに襲われていたのですが……助けてくださったのですか?』
『私たちは何もしていない。君がここに倒れていたので、声をかけただけだよ』
(本当にそうなんだよな)
悪い奴を追い払って彼女を助けたのはシップスラッシャーである。(命令無視)
その手柄(命令無視)を自分の者にするほど、ギボールは落ちぶれていない。
『こちらの少年は十二、吾輩はそのファミリアのギボールだ。』
『わ、私は……化け狸のポンポコピーと申します』
如何にも化け狸という風貌の彼女は、おっかなびっくりしながらも名乗った。
『この近くにある山で暮らしていたのですが、先日あの恐ろしい姿のライカンスロープたちが集団で現れ私たちの仲間を捕らえ始めたのです。山の長であった父や母も抵抗したのですが殺されてしまい、姉も私を逃がすために自ら囮になって……!』
(思ったより深刻な事態だった……)
がばっと頭を下げたポンポコピーは、十二たちに助力を懇願する。
『ボロボロの衣に加えて、吊られた男というお名前……修行中の行者様とお見受けしました! どうかお力をお貸しください! 姉を、仲間を助けてください!』
(ハングドマンと翻訳されていることに、違和感を覚えなくなってきている……)
今までの十二なら、ここで助けるという選択はしなかっただろう。
正義の味方でも熱血漢でもない彼は、初めて出会った女性の為に頑張るほどお人よしではない。
『さあご主人様、どうする? 吾輩としては、助けなくてもいいとは思うが』
「助けましょう」
『ほう! 意外とすんなり決断したね。どういう気の持ちようだい?』
「ギボールさんは、俺のことを助けてくれたじゃないですか。俺も誰かを助けたくなったんです」
『くくく……親切の連鎖か。悪い気はしないね。それでは彼女にもそう伝えよう』
ふわふわと浮かぶ人魂のまま、ギボールはポンポコピーに語り掛ける。
『我が主も請け負ってくださったよ、君の姉や仲間の救助に協力しよう』
『ああ! ありがとうございます! この御恩は、必ずお返しいたします!』
『恐縮なのだがね、吾輩たちはこの地に来たばかりなのだ。君が知っていることを教えてほしい』
『お任せください!』
ここでようやく『ここは○○の街だよ』という説明を聞くことができた。
本当にゲームならフレーバーだが、今はそうもいっていられない。
ここがどこだかわからないというのは、不安で仕方なかったのだ。
『この大陸は、モロコシ大陸といいます。私の故郷はこの近くにあるパイポ山といいまして、化け狸の縄張りです。父は山の長、シューリンガン。母はグーリンダイ。姉の名前はポンポコナです』
十二は彼女の説明を聞いて、しばらく戸惑っていた。
『……なあ、そのなんだ、十二君。今君の脳内で、『寿限無寿限無五劫の擦り切れ海砂利水魚の水行末雲来末風来末食う寝る処に住む処やぶら小路の藪柑子パイポパイポパイポのシューリンガンシューリンガンのグーリンダイグーリンダイのポンポコピーのポンポコナーの長久命の長助』という名前が何度もリフレインしたんだけど……なに? 真剣にわからないんだけど』
「俺もわかんないっす……」
しばらく悩んだあと、十二はポンポコピーに変なことをいった。
「なんていうか……長生きしそうな名前ですね」
『え、ええ。父も母も、姉と私に長生きしてほしいという願いを込めて、名前を付けたと聞いています』
「そう……」
なんで今そんなことを聞くのだろう。
首を傾げる彼女に、十二はそれ以上何も言えなかった。
本作も1エピソードが書けたので更新です。