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リアル脱出ゲーム 2

 ひとまず安全地帯、と呼べる場所にたどり着いた十二。

 彼を導いた人魂は、ひとまずだが信頼できるようである。

 どんな裏があるのかわからないが、とにかく他に頼る当てはなかった。

 十二はただ、人魂と言葉を交わす。


『さて、まずは名前を聞かせてほしいな』

「縁、十二です」

『……ん? あれ、久しぶりの翻訳だから、間違っているのかな? それとも初めての文化圏だからかな?』


 人魂は十二の名前を聞いて、少し困惑している様子である。


『ナンバー12なんて、名前と言えるのかあやしいぞ? ちゃんと翻訳できているかい?』

「あ、いや……ええ、まあ、合ってますよ、多分」


 低レベルな翻訳ソフトによる翻訳を思い出しながら、十二は相手に翻訳がそこまで間違っていないと説明した。


 ようするに人魂は、十二という名前を聞いて、そのまま「12」と聞こえたのだ。

 それなら不審に思っても不思議ではない。


『ん~~……アレかな、君は十二番目の子供って、ことかな? それとも十二世、とかそういう意味かい?』

「あ、いえ、そういうのではないんです」


 十二はいままで何度も他人に話してきた『なんで十二という名前なのか』を説明する。



 縁十二は、十二人以上兄弟がいるうちの一人、というわけではない。もちろん由緒ある家系の、十二代目というわけでもない。

 どこにでもある家の長男坊である。なんなら『星』という名前の妹もいる。


 彼が自分の名前に疑問を持ったのは、小学生の時であった。


『ねえお母さん、なんで僕の名前は十二なの?』


『ああ、ついにそのことを話す時が来たわね』


 実母はとても嬉しそうに、紙の束、たくさんのカードを十二の前に並べた。

 奇妙な絵柄のカードであり、正直に言って少し怖い印象を受ける。


『これは占いに使うカード、タロットカードというの。私はこれが好きでね、貴方が生まれた時も貴方の人生を占ったわ。そうしたらね……』


 怖いカードの中でも、特に怖い模様のカード。

 人間が逆さに吊るされているカードを彼女は見せた。


『何度占っても、貴方にはこのカードが出たのよ。この『吊るされた男』……ハングドマンがね』

『何度やっても……?』

『ええ。何度もよ。だから私は、貴方にこのカードにちなんだ名前を付けようと思ったけど……皇帝とか魔術師ならともかく』

(ともかく?)

『さすがに『吊るされた男』とか『刑死者』とかを名前にはできないでしょ? 一字取る、とかもできないし』

『……うん、そうだね』

『だから、せめて……カードの番号を名前にしたの』


 タロットカードは全部で21枚あり、それぞれに0から20の番号が振られている。

 吊るされた男の番号は、12であった。


『だから貴方は十二なのよ』

(じゃあもしかして妹が星なのは……)


 ついでに妹の名前の由来も察するのであった。



「とまあ、そんな理由でして……俺としては『(つとむ)』とか『太陽(たいよう)』とかがよかったっす」

『なかなかけったいな名づけ理由だが……なるほどねえ、何度占っても同じ結果ねえ……それぐらいの運命が無ければ、君がここに来ることもなかったか』


 説明に納得した人魂は、逆に自己紹介をし返した。


『それじゃあ吾輩の自己紹介といこうか。吾輩はギボール、大魔神の一角さ』

「大魔神……?」

『今なんか、複数のイメージが浮かんでいたけど……どれも違うからね? とにかく、本来は凄い怪物だと思ってくれたまえ。まあ見ての通り、もう死んでいるんだが』

「そ、そうですね……」


 十二は改めて、人魂の下にある『白骨死体』を見た。

 軽く見積もっても、死後何十年と経過している、生々しささえなくなった死体。

 人魂が死んでいる、というのも納得である。


『ん? あ、ああ……説明が不足していたね。先ほども言ったが、吾輩は怪物だ。君のすぐそばにある『人間の死体』は、吾輩の死体ではない』

「……え? どう見ても、この白骨の幽霊にしか見えないんですが……」

『コイツは大魔法使いタブー。かつて吾輩を殺した男であり、その成れの果てさ』


 大魔神ギボールを名乗る人魂は、自分の事情を話し始めた。


『若き日のこいつは、あろうことか大魔神である吾輩に挑んだ。それだけならともかく、なんと打ち倒したのだよ。それも奇跡や偶然ではなく、自分の力でね。まさに大魔法使いの名にふさわしかったよ。そして吾輩が復活しないように肉体を封じ……魂は自分が持ち歩くことにしたのさ』

「は、はあ……では貴方は、死んでも離れられないと」

『そうだね』



 白骨死体から離れられない人魂の、その因果関係は理解できた。

 そうなると少し、気になることが出てくる。


「あの、もしかして、貴方がこの人を呪い殺したんですか?」

『コイツは普通に老衰で死んだのさ、吾輩以外に看取られることもなく、この誰もいない屋敷でね』



 白骨死体の具合から言って、やはりタブーなる男が死んだのは相当昔のようだ。

 しかし葬式もされていない様子を見るに、この屋敷には彼以外の人間はいなかったようである。


『晩年のコイツは人間不信に陥ってね、自分でこの屋敷を建てて引き篭もったのさ。君を追いかけてきた『ゴーレム』のような防犯装置を大量に配置し、給仕役すらも魔法でなんとかしてね。何か欲しいものがあったら、専用の部屋に描いた召喚魔法陣で取り寄せていたのさ』

「……あ、あの、まさか」

『勘が良くてなにより。そう、君はその魔法陣の暴走……というか誤作動で、ここに召喚されてしまったのだよ』


 さー、っと血の気が引いてきた。

 今更のように、何がどうしてこうなっているのか、脳内で情報が整理されてしまった。

 なんとも恐ろしいことに、自分は何者かの意思でここに来たわけではない。

 本当に事故みたいな理由で、ここに来る羽目になってしまったのだ。


「そんな……帰れないんですか?」

『とりあえず、今はそれどころじゃないと思うよ』

「……そっすね」


 ふと後ろを見れば、そこにはゴーレムたちが二体並んでいる。

 もちろん停止しているのではなく、待機状態になっているだけだろう。


「……そのなんていうか、ご主人様に攻撃しない安全装置、みたいな?」

『そうそう。こいつらはこいつに攻撃できないよう設定されているからね。だからこの死体から離れたら攻撃してくるよ。そうなれば君はお陀仏、吾輩の仲間入りだ』

「ですよね……」

『だが、幸いなんとかする手段はある。この死体を漁ってごらん、なにかマジックアイテムを持っていたはずだ』


 おそらくは屋敷の中を歩いている最中で倒れたのであろう、朽ちかけた服を着たままの白骨死体。

 それを探るというのは気分が良くないが、それでも背に腹は代えられなかった。

 死者を冒涜したくはなかったが、死者になるよりはマシである。


「鍵束があります」

『ほお、それは運がいい』

「鍵束があれば、こう、どの部屋にも入れるからですか?」

『ああ、いや、そういうのではないんだ。そもそもこの家に『錠』はない。その鍵は、別の使用法があるんだよ』


 ギボールの言葉が確かなら、この家には設計段階からタブーなる人物しかいなかった。

 それならば室内に錠がある、というのはおかしなことである。


『それはガジェット……それも、素人でも使える物だ』

「ガジェット……」


 非常にいまさらだが、ここが『違う世界』だと分からされる。

 そして状況の進展を、彼は感じ取っていた。

 三本の鍵をまとめている鍵束が『力』であり『武器』だと理解した。


『興奮しているところ悪いけどね、君が期待しているほどのことは起きないから注意してくれ』

「え」

『今君の脳内にイメージが駆け巡ったようだが、そのどれもが的外れだ。君に理解できるように言うが……初めて触るアクションゲームの一面、のような状況だと思ってくれ』


 ぞっとする話である。

 自分の記憶や感情を読み取られる以上に、自分の状況がそこまで改善していなかったと知って、冷静になってしまった。


「ど、どうすればいいですか?」

『君が今イメージしたように、私の指示通り、チュートリアル通りに動けばひとまずは問題ない。変に上級なことをしようとしないでくれ』

「はい! 言われた通りにします!」

『ではまず……鍵束の中の鍵を前に向けてくれ』

「鍵を……前に?」



 鍵とは、錠に刺すものである。

 それが扉に着いているものもあれば、錠前として鎖などについているものもあるだろう。

 とにかく鍵を使うには、錠が必要なのだ。


 暗いエントランスの、何もない空間に出しても意味などないはずだ。

 なのだが……。


「ん?」


 十二の体に、突如として不調が襲い掛かってきた。

 疲れるとかではない。体の中の糖分だとか血糖値だとかが、直接抜かれていくようだった。


「あ……ああ?」


 急激な栄養失調により、十二は思わずよろめく。

 と同時に、回らなくなった頭で『理解』が出来た。


(これが、MPが減る、って状況か……!)


 何かの魔法が発動し、自分の中のMPと呼べるものが失われていく。

 自分の持っている武器がどれだけ上等でも、自分が貧弱すぎるのだ。

 RPGの最序盤のレベル上げのように、二回三回魔法を使ったら、もうガス欠を起こしてしまう。MPが尽きたら雑魚にも勝てず、すぐに宿屋で回復をしなければならない。そんな状況なのだ。 


(コレで、なんとかなるのか?)


 ギボールの警告が無ければ、調子に乗って三つの鍵すべてを使っていたかもしれない。

 そうしていたら、栄養失調でそのまま死んでいたかもしれない。

 そういう意味では、自分は正しい判断をしたのだろう。

 だが、正しい判断をしたから勝てる、という状況でもない。


 何一つ楽観できない。

 ただでさえ暗い空間の中で、薄れる視界。

 その中で、光源が出現した。

 

 鍵を向けた先に、光り輝く大きな箱が出現したのである。

 箱には『錠』の穴が見えていた。説明を聞くまでもなく、その穴に鍵を入れるのだとわかる。


『ああ、それでいい』


 そのイメージを、ギボールは肯定する。


 促されるままに、鍵を鍵穴へ差し込んだ。


『呪文は、開放リリースだ』


開放リリース!」


 呪文の詠唱と同時に、鍵がひねられる。

 さく裂するように、十二の反対側の面が開かれ、中に納まっていた『物』が前へ出た。


 黄金の輝きとともに、出陣したそれは、スマートな印象を受ける鎧武者だった。

 西洋のプレートメイルではなく、戦国武将のような和風の甲冑である。


『これこそ大魔法使いが愛用したガジェットの一つ。純白兵型リモートメイル、デモンスレイヤーだ』


 出現時から比べれば光量は失っているが、それでもなお神々しい鎧が自立歩行を始めた。

 よくよく観察すればその背中からは鉄の鎖が伸びており、十二の持つ鍵とつながっている。


「操作とか、そういうのは……」

『いらないよ。遠隔操作リモートと言っているが、基本的には自動で戦ってくれる』


 箱から出現したデモンスレイヤーは、空手のように腰を落として拳を構えた。

 対峙するのは、二体のゴーレム。

 先ほどまで十二を襲っていた、巨大な怪物である。


 デモンスレイヤーも成人男性程度には大きいのだが、ゴーレムは人間離れした、熊のような大きさである。

 質量で比べれば、どちらが強いかなど考えるまでもない。


 あえて優位点を挙げれば、デモンスレイヤーはまだ安全圏におり、ゴーレムから反撃を受けない状況にいるのだが……。

 デモンスレイヤーは、構えを崩さないまま前に出た。

 それも目にも止まらぬ速さではなく、ゆっくりとした動きである。


 当然、二体のゴーレムは攻撃を行った。

 その巨大な腕をそれぞれ振りかぶり、デモンスレイヤーにたたきつける。


 巨大質量の振り下ろしは、広いエントランスを揺らすかに見えた。

 風圧によって、十二も、死体も吹き飛びそうになる。


 唯一動かないものがあった。

 デモンスレイヤーである。


 ほぼ動いていなかったデモンスレイヤーは、なされるがままに二つの巨大質量を受け止めていた。

 しかし砕けたのはゴーレムの腕であり、デモンスレイヤーが立っていた床だった。


 鎧には傷一つ着くことなく、勇壮に輝いている。


「すげえ……」

『当然さ。あのゴーレムたちだって、それなりの強さがあるが……あのデモンスレイヤーは格が違う』


 片腕が砕かれてなお、ゴーレムたちは攻撃を止めない。

 残った腕を振りかぶって、再び振り下ろす。

 やはりデモンスレイヤーは動かず、そして残った腕も砕けていた。


『あのデモンスレイヤーの装甲は、超級錬成金属の一つである緋緋色合金で作られている。あのゴーレム如きでは、傷一つ負わせられないさ』

「硬いってのは、わかりました……」


 恐れを知らないゴーレムたちは、残った足で攻撃をしようと試みる。

 だがデモンスレイヤーはここでようやく動き、一発ずつの正拳でゴーレムの胴体に穴を開けて倒していた。


「おおお……」

『何とか終わったようだね、それじゃあ早く戻すといい。見ての通り、あのリモートメイルは強力だ。省エネ運転でも、維持するだけで疲れるよ』

「そうですね……って、ええ?」


 気付けばデモンスレイヤーは、自らの意思で箱に戻っていた。

 あとは何をするまでもなく、箱と一緒に消えていった。


『おお、ずいぶんと賢いなあ』

「そうっすね……はあ……」


 どっと疲れが来た。

 というよりも、疲れを意識したという方が正しいのかもしれない。

 ふと自分の腹を触ってみれば、ぜい肉と呼べるものが無くなっていた。

 もしかしたら、体形が変わるほどエネルギーを消費したのかもしれない。


「すげえ腹が減りました」

『そうだねえ……それじゃあ次の目標は栄養補給だけど……』


 とりあえずの脅威は排除した。

 しかし状況はまだ安定していない。


『あるかなあ、食料』

「そうっすね……」


 この屋敷に食料があるのかどうか、それがまず問題だった。

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