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第二章 18

 

 今の射程距離はどれほどになっているだろうか?

 魔術師が異能と呼ぶギア能力には、様々な恩恵がある。

 まず、オーラを体に纏うことによる身体能力の向上だ。打撃も防御力もスピードも上昇する。助走なしで十メートルの跳躍も可能だろう。その力を打撃にも応用できるのだから、例えば、一トンのブルジにだって有効打となる。オーラを纏わなければ、鉄パイプを振り回したって、ブルジには大したダメージにはならないだろう。鉄パイプ程度の武器なら、ブルジの前には立てない。バイソンに鉄パイプを持って挑むのと変わらないからだ。でも、オーラを纏えば、十分に戦える。

 逆にオーラを纏えば、鉄パイプを腹にくらっても、大したダメージにはならない。それに、オーラに触れたなら、背後からの攻撃にも感知できる。髪の毛を触られているよりも、もっと正確に感じられる。なので、オーラを纏っていれば、不意打ちも存在しない。

 これが、基本的な戦い方だ。

 そして、ギア能力には、もう一つの力がある。

 能力者の願望を叶える力。

 ゴーストと呼ぶらしい。

 この村の人間は、ブルジと共に歩んできた。だから、ブルジを操るゴーストを手にしている。オーラ自体は少ないが、能力を手にしている。ゴーヤらがやっていたブルジの特訓は、その技の精度を上げるに等しい行為だ。普通は、人によって開花する能力は違う。

 クロはロープと火を操り、前のところにいた知人は、人を操っていた。オーラの操作の練度を上げれば、技の精度が増す。ここの村人の場合は、複雑な命令を与えたり、ブルジに実力以上の力を発揮させることもできるだろう。キムチは、オーラの総量が一番多い。それである程度の結果を残しているのだろう。逆に、フリーマンは、オーラの総量が少ない。でも、纏ったオーラが滑らかで、オーラの移動にも無駄がない。結果として、実力をほぼ百パーセント伝えられている。

 わかりやすく例えると、キムチが纏うオーラが百だ。彼は百のオーラをブルジに伝えている。その時、彼のオーラの精度は拙いものなので、結果として、ブルジには七十の力しか伝わっていない。

 フリーマンは元々、七十のオーラを纏っている。彼はその全てのオーラをそのまま伝達できているので、ブルジに七十の力が伝わっている。

 ブルジじゃなくても、鉄球を投げ飛ばす能力だった場合は、同じ飛距離になるだろう。

 ゴーヤは、オーラが八十。抵抗が二十で六十くらいの力を伝えている。三人の中でも、劣っているだろう。

 これがギア能力に共通する仕組みだ。なので、強くなるには、オーラの総量を上げる方法と、そのオーラの伝達の無駄を省く方法の二つがある。

 オーラは、使えば使うほど疲れる。全く動かなくても、オーラを全力で纏うだけで、全力疾走以上の体力の消費をするだろう。これも、無駄をなくせば、疲れにくくなる。フリーマンは、オーラの総量は少ないが、俺よりも練度が優れている。なので、彼は全力でオーラを纏っても、何時間でもいられるだろう。ずっと長をやっていただけある。

 コドクノシロを出てからは、生きるのに精一杯だったから、オーラの最大値を上げる修行はしなかった。生命に関わる状況で修業もなにもないからだ。最大値を上げるには、体力トレーニングでも行われる、全力で限界まで走り続けて、肺活量を鍛えるように、オーラを限界まで追い込む必要がある。それが無理だったから、技の精度を上げていた。

 オーラを右手に集めて、それを瞬時に左手に移動させる。その移動が速ければ、交互のラッシュにもオーラを合わせられる。オーラを一カ所に集めて殴るだけでも、全体に纏うよりも強力な攻撃となる。その移動がスムーズなら、結果として武器になる。

 そして、もう一つ。その修行のお陰で、細かな微調整も可能となった。前は、敵にも気付かれるほど大きな塊でしか、オーラを飛ばせなかった。でも、今なら、限りなく見えにくい技となっているだろう。

 この村に来てからも、修行は続けた。ぼんやりと見ていただけじゃない。

 祭りの最終競技は、ブルジ同士で戦わせるものだった。ただ、午前の二つの競技を見て、参加しない者も多い。これに勝ったところで、優勝に届かない者や、負けて怪我を負わせたくない者などだ。

 エントリィしているのは、キムチだけだった。まもなく、締め切られる時に、ゴーヤは申し出た。ゴーヤのブルジは脚を怪我している。

 キムチは余裕の表情を浮かべているように見える。怪我をしたブルジでは相手にもならないのだろう。最終競技は、二人の一騎打ちとなった。彼らは二十メートルほど離れた位置で向かい合い、さらに、その周囲を村人が囲っている。

 その輪の外の丘とも呼べないちょっとした高さのある場所に、俺は立っている。手には、拾った木の枝。長さが三十センチ、太さは一センチほどの小枝だ。

 その枝に、オーラを纏わせた。これだけでも、枝の強度が上がり、さらに、この状態で叩けば、それなりの威力になるだろう。ギア能力者なら、殆ど全員使える応用技だ。

 でも、そのオーラを刃状に変化させるのは、俺のオリジナルだ。ここの人がブルジを操るように、俺の能力はオーラに切れ味を持たせる。

 元々は、刀を使って戦っていたが、中遠距離攻撃がメインの魔術師相手だと、リーチの短さに限界を感じて、生まれたゴーストだ。刀にこのオーラを纏わせることで、切れ味を維持したまま、三メートル先の相手だって斬れる。さらに、重さを持たないので、三メートルもある大剣を振り回すよりも、身軽に扱える。

 そして、この能力はそれだけじゃない。もう一つの使い方がある。

 最終競技が始まった。

 ゴーヤとキムチは、それぞれのブルジを鞭で叩いた。鞭を媒介として、命令とオーラをブルジに伝えているようだ。つまり、どんな命令を与えたかを、最初の時点で決めなければならない。ブルジにプログラムを組み込み、あとは、自動で動くブルジを見守るしかない。ラジコンのように、常に微調整しているわけではなく、完全自立型のロボットとして操る。なので、力だけじゃなく、命令の内容が勝敗を分けるだろう。

 ただ、プログラム通りに動く機械と違うのは、ブルジが生命だということだ。つまり、歩いたり、走ったり、避けたりは、当たり前にする。なので、対象を完全に支配しているわけではなく、行動の一部を強制しているのだろう。完全支配の方が、力が強いので、その分、オーラを大量に消費するか、命令に従うリーチが短くなるか、ギア能力には、そんなリスクが付き纏う。万能な力ではないが、条件次第では、一撃必殺の能力にもなるのが、ギアだ。

 本来なら、ゴーヤにも勝算のある戦いだろうが、脚を怪我している以上、フェアじゃない。

 罪のない動物を傷つけるのは、心が痛むが、ブルジの治癒力なら、すぐに治るだろう。

 木の枝にオーラを纏わせたまま、それを振り下ろした。

 刃状のオーラは、木の枝から放たれ、そのまま飛んでいく。

 速度は遅い。それに、威力もない。

 皮一枚斬る程度だろう。

 それゆえ、気付かれにくい。目視では、殆ど見えないし、オーラも感知されづらい。

 斬撃を飛ばす。

 それが、俺のもう一つの能力だ。

 飛ばしたオーラは、そのまま消費されるので、燃費の悪い技だ。

 ただ、この程度なら、問題ない。

 斬撃は、キムチのブルジの左目に当たった。

 キムチのブルジは、怯んだ。生物として、当然の反応だろう。完全に支配する能力なら、痛がる素振りも見せないだろうが、行動を強制するだけなので、こうなる。

 ゴーヤのブルジは、その隙に、一気に突進した。隙があれば、突進するように、命令していたのだろう。

 その一撃が、勝敗を分けた。ブルジの角が、怯んだブルジの首に刺さり、致命傷となった。

 迫力のある試合だったが、終わってみれば、一瞬だ。

 これで最終競技が終わった。


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