“discrimination ”
「ひとつだけ注意をしておきます。滞在中は必ずこれをつけて下さい」
二人は簡単な審査を終えて入国する直前に北門の審査官から腕輪を付けさせられた。それは専用の鍵を使わなければ外れないようになっていた。
「これは一体?」
兵士が質問するも審査官からの返答はありません。ただ早くそれをつけろと言いたげだったので黙ってつけた。
「では我が国を満喫してきてください」
事務的な口調を背に二人を乗せたバギーは入国した。
「どうしてこれを付けなければいけないのでしょうか?」
ひとまず車庫のあるホテルにチェックインして、観光と必要な物品を揃えるために市内をバギーで散策していた。
「国民と旅人を区別するためだな」
「どういうことですか?」
「そこまでは分からないな、まぁ何か理由があんだろうな」
「おや、旅人さんかい」
「どうも」
「まぁ、ウチは小さな店だけど旅に必要なものは針から銃弾までなんでも揃っているからゆっくり見ていきな」
「ありがとうございます」
「あの…」
「んっ、なんだいお嬢ちゃん」
「この腕輪は一体どういう意味があるのですか?」
「それかい?そいつはな―」
「いらっしゃい、旅人さん」
「どうも、この店のお勧めって何ですか?」
「それならコイツがお勧めさ」
「…パンとクリームを五段ほどサンドしたのなんて少しきついな」
「そうですか?私はこれくらいならいけそうですけど」
「別腹ってやつか…太るぞ」
「…覚悟を決めて食べるから平気です」
「あっそ。じゃあそいつを一つ」
「あいよ」
「あっ、それと」
「なんだい?」
「腕輪に何の意味があるか分かりますか?」
「それはね―」
翌日の正午過ぎに兵士と少女は出国の手続きをしていた。
「どうでしたか、我が国は?」
「……」
南門の審査官の問いかけに少女は答えない。兵士も何とも言えない表情で審査官を見ている。しかしそんなことを気にせず審査官は二人の腕輪を手際よく外した。
「しかし…よく生きておられましたね」
その言葉に素早く反応した兵士は少女を自身の後ろにかばうのと同時に腰にある拳銃を抜いて審査官に向けた。
「大丈夫です。既に外れていますからお二人には適用されませんよ」
腕輪を見せながら言う審査官から標準を外した兵士は言った。
「国内に居たときはあまり気にしてられなかったがどうして『この腕輪を付けている人間を殺しても構わない』って法律があるんだ?」
「正確には『この腕輪を付けている人間が犯罪―どんな軽犯罪…それこそポイ捨てだろうとしたら殺しても構わない』ですね。しかしどこから話したらいいのでしょうか?」
「さっさと次の国に行きたいから簡単に頼む」
兵士の言葉に審査官は「分かりました」と言うと語り始めた。
―この国は『旅人を逮捕、または有罪にしてはいけない』という法律がありました。大半の旅人は迷惑をかけることもなく滞在していましたが、それでもその法律を知り、犯罪を犯すタチの悪い旅人は少なくなかったのです。
あるとき、一人の旅人が一人の国民と揉め事を起こしました。そのうちそれはエスカレートしていき、遂に旅人は国民を殺してしまいました。それを見ていた警官はすぐに殺人罪で旅人を捕まえようとしましたが法律によって旅人は無罪放免されました。
あるときは旅人に変装した山賊達が入国し、宝石などを盗みましたが決して捕まることはありませんでした。
そのようなことが増えたある日、多くの国民が法律改正のために立ち上がりました。そして三日間にも及ぶ交渉の末に現在の法律が制定されたのです。
「お分かりいただけましたか?」
「…ちょっとやり過ぎではありませんか?」
話を終えた審査官に少女は問いかけた。
審査官は「確かにそうですが…」と言うとそこで言葉を切り、複雑そうな顔をして言いました。
「ほとんどの国民が納得しているので仕方ありません。なんせこの法律は三日前に制定されたばかりなんですから」