“encounter”
軍事ネタやらはあまり詳しくないので突っ込まないでくださいm(__)m
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兵士は戦場にいた。正確には戦場だった場所にいた。大きな大陸には幾つもの国家とそれらを統べる首都があった。ある日大陸内の2つの国が戦争を始めた。きっかけは些細なことだったがそれらは他の国を巻き込み戦火を広げていった。
士官学校を主席で卒業した兵士はとある戦場で残党狩りをしていた。逃げ惑う人を撃ち、倒れたところでさらに頭を撃ち抜く。ただそれだけのこと―だがそれだけのことが兵士には苦痛でしかなかった。兵士には既に戦意をなくしている人を殺すことが苦痛でしかなかった。だが殺せば殺しただけ誉められた。
同期の兵士が軽い口調で言った。
「気にすんな。どうせ奴らは死ぬ運命だったんだからさぁ」
先輩の兵士が叱咤するかのように言った。
「絶対に躊躇するな。迷いは死を招くぞ」
兵士の上官がため息を吐きながら言った。
「まだアイツらが人に見えるお前が羨ましいよ」
兵士にはそれらの言葉は罪の意識を軽くするどころか重荷にしかならなかった。
「気を抜くなよ」
「分かってる」
そんな一言を交わすと兵士は戦場に向かった。
兵士は覚悟していた。敵が人に見えるうちに手に持ったライフルで逝こうと。
そこも既に殺戮が終わっているらしく、残っている人を撃ち殺すのが兵士の仕事だった。6人で一つ一つの建物を確認しながら移動していく。7つ目の建物を確認したところで2発分の銃声が響いた。それと同時に後ろを歩いていた二人の頭が地面に叩き付けられたトマトのようにぐちゃぐちゃになって吹き飛ぶ。
「ちっ!!撃ってきや…」
誰かが叫んだがその叫びは最後まで続かなかった。無慈悲な弾丸が叫んだ兵士の頭の右半分を吹き飛ばしたからだ。味方が銃声のした方に向かって撃った。しかしまた味方の顎が吹き飛ぶ。残ったのは兵士と同期の兵士だけだった。兵士は覚悟して撃ってきた敵に狙いをつけて撃った。兵士の撃った弾は寸分の狂いもなく敵の腕を貫く。しかし同時に同期の兵士は敵の弾により左胸に穴を空けられていた。銃声は鳴り止み、聞こえるのは兵士の呼吸と風の音だけ。しばしの沈黙が過ぎ、兵士は周りを見た。そこには廃墟と味方の無惨な死体が転がっているだけだった。
「…とりあえず連絡しなくては」
こんな見晴らしのいいところにいてはまた撃たれる。そのためすぐに最寄りの建物に入った。しかしそこには先客がいた。
「……」
先客の少女は兵士に目をくれずボロボロになったマリア像に祈りを捧げていた。兵士はその姿に目を奪われた。
「何をしている?」
ふとおもいたって兵士は少女に話しかけてた。
すると少女は兵士に初めて気づいたらしく、少し肩を震わすと兵士の方を見る。兵士は改めて祈りを捧げていた少女を見た。歳はまだ十代半ば、質素な真っ白のワンピースが黒く長い髪を引き立てている。もう少し怯えていると思っていたが少女の視線はしっかりと兵士を捕えて動かない。
「…マリア様に祈りを捧げていたのです」
聞こえてきたのはまるで実際に女神が話しかけてきたように感じるほど美しくそして透き通った声。兵士は一瞬我を失ったがすぐに質問を再開する。
「マリア様に守ってもらうためにか?」
「安心してマリア様のところに行くためです」
「…死ぬのは怖くないのか?」
「人は遅かれ早かれいつか死ぬのです」
「じゃあ俺がこれで君を殺そうとしても怖くないのか?」
そう言いながら兵士は持っているライフルを少女に見せる。しかし少女はそれを見ても怖れる素振りを全く見せない。
「貴方はまだ私達を人と見てくれてます」
「っ!?」
兵士は自分のことを突然当てられたことに動揺した。なんとか気持ちを落ち着かせて兵士は問い返す。
「何故そう思うんだ?」
「だってそうでなければ戦場で敵と話すなんてありません」
少女の言葉は的を射ていた。
「現にまだ私は生きています」
覚悟というものは意外と簡単に変えることが出来るものらしい。兵士は帰ったら死ぬ覚悟をしていた。しかし今は帰ったら軍を抜ける覚悟をしていた。
「君、名前は?」
この場に全く合わない質問をした兵士に少女は内心驚く。だが驚いた素振りを見せずに答える。
「…私が小さい時に両親も仲の良い友人達も死んでしまいました。私の名前はその時死んでしまいました」
「……」
少女が言っているのは今も続いている戦争の初期のことだろう。その頃の兵士はまだ戦場で敵を殺すことが当然だと思っていた。敵を殺せば英雄になれると思っていた。
「…俺はここから生きて帰ったら軍を抜け、そして旅人になる。その時は一緒に来ないか?」
「えっ?」
自分達を殺すために来た人が殺すのを止めて、自分を助けそして旅に出る。少女は何故兵士が自分を誘ったのか分からなかった。
「いや…単に一人は寂しいだけだし…嫌なら断わってもいいし…」
まるで照れ隠しのように頭を掻きながら意味もなく建物の隅を見ながら兵士は言う。そんな兵士を見ながら少女は彼が本気で軍を抜け旅人になるつもりだと感じた。
「それは面白そうですね…でもどうやってこの広い大陸を移動するのですか」
「えっ…あっ、それなら知り合いがもういらないバギーがあるってゆうからそれ譲ってもらって…」
「それは何人ぐらい乗れますか?」
「えっと…多分四人だけど後部座席は荷物を置くから実質二人…かな」
「それなら私も乗れますね」
兵士はまさか本当に少女がついてくるとは思ってもいなかった。しかし兵士には少女が冗談を言っているようには見えなかった。
「だがいきなりは無理だ。とりあえず3日待ってくれそしたら俺はここに戻ってくる」
「…分かりました」
少しだけうつ向いたがやはり決意は変わらない。
「大丈夫だ。必ず来るさ」「…はい」
そうして兵士は戦場を離れ、少女は戦場で兵士が来るのを待った。
「准将。折り入って話があります」
戦場よりベースキャンプに戻った兵士は味方達の酒盛の誘いを断わり、その地区の司令官である准将に会いに行った。
「どうした」
「私はさきの戦場で亡くなったことにしてもらえませんか」
既に老眼鏡がなければモノを見ることさえ困難な准将は老眼鏡の奥にある老人とは思えないほど鋭い目を少し細め、そのまま立ち上がると兵士に背を向け歩きだし本棚の前で止まった。
「…何故だ」
本棚より取り出した分厚い本をパラパラとめくったかと思うとすぐに閉じ、また開ける。だがすぐに閉じ、また開ける。それを繰り返し本を本棚に戻すと重くしっかりとした声を発する。
「自分は未だに敵が人間に見えてしまいます。敵が人間に見えてしまう以上どうしても敵を殺すのを躊躇ってしまうのです。そんな奴が戦場に出ても殺されるだけで、そのせいで士気を下がり味方が殺されるのは嫌だからです」
兵士はただ自分のせいで味方が殺されるのは嫌だと主張した。しかしそんなのは理想論でしかないと兵士はわかっていた。それと同時に人手不足の今ではこの頼みを即却下されると感じていた。
「……」
准将は言葉を発することもなく、自分の机まで行くとそのままペンを手にとり紙に何かを書き始める。
「あの―」
「報告書の偽造はバレれば軍法会議ものだ」
「……」
准将が書いていたのはその戦場での戦死者のリストだった。
「…准将」
「お前がそう思うなら思った道を行けば良い」
兵士の方を見ずにさっきとは違い、どこか優しさのある声で兵士に言う。
やがて報告書を書き終えた准将は相変わらず鋭い目を兵士に向ける。しかしその顔はさっきの声と同じくどこか優しさがあった。
「してお前は軍を辞め、どうするのだ?」
「自分は旅人になろうと思っています」
兵士の返答に呆気にとられた准将は口を少し開いたがすぐに閉じた。
「…何故だ」
「軍が敵と言っている人達をもっと知りたいからです」
「一人でか?」
「はい」
もちろんさっきの戦場で出会った少女と一緒になんて言えるわけがない。兵士は理解していた。だからこそ嘘をついた。
「…お前は嘘が下手だな」
「嘘をつくのが嫌いですから」
「そろそろ飯の時間だよ」
「すぐに行く」
少女は兵士と別れてすぐに戦場を離れ、人々が避難している洞穴に向かった。そこにはさっきの戦場から逃げ延びた人々が集まっていた。
「どうしたんだ、嬉しそうな顔をして」
「えっ?」
呼びに来た少女と顔見知りの少年は戦場で多くの同胞の血が流れたのに少女が少し微笑んでいるのに気がついた。
「あ、ううん。何でもない」
少女もまさか『3日後に戦場で知り合った兵士と旅に出る』なんて言えるわけがない。
「…もう配り始めてるよ」「わかった。すぐ行く」
少年は少女の言葉を信じ、すぐに食料の確保に向かった。少女も少年の後について部屋から出ようとして、少年の姿が見えなくなると立ち止まった。
「…さようなら」
誰に言うわけでもなく少女は一人で呟き、少年の消えていった方に向かい歩き始めない。
「…ありがとう」
さっきの戦場で出会った兵士の照れて赤くなった顔を思い出し、少女は少年の消えていった方に向かい歩き始めた。
そして約束の日。兵士と少女は初めて出会ったマリア像の前で再会した。
兵士はジーンズに無地のシャツの上に茶色のジャケットをはおり、知り合いからタダで貰った迷彩柄のバギーに着替えや二人分の寝袋など、旅に必要なモノを積んでやってきた。
少女は初めて兵士と会った時に着ていたモノと同じのワンピースと麦ワラ帽を身につけ、自身が持っているモノで一番大きいリュックに着替えや洞穴から無断で盗ってきた携帯食料などを背負い待っていた。
「ごめん、待たせたね」
「時間を決めて待ち合わせしてないので待ってはいません」
「女より先に待ち合わせの場所に着いてないなんて俺のポリシーに反する」
「…ふふっ」
左手を腰にあて右手を強く握り真剣な顔で力説する兵士に少女はキョトンとし、すぐに我にかえり微笑んだ。
「どうした?」
しかし兵士は少女が何故微笑んだか分からずキョトンとしたが理解出来ず、すぐに首を傾げた。
「あの時とはまるで別人みたい」
「軍にいたらどうしても我を出せないからね」
もちろんそれは上の人間と話す時だけだが兵士は必要以上に我を出さず『仕事』をしていた。
「それが本来の兵士さんってことですね」
「まぁ、そうだな」
ひとしきりこれからのことを話し合った結果、時計回りに大陸を旅することになり、出来るだけ多くの国を回れるように一つの国には最低1日最高5日滞在することになった。
「…行きましょうか」
「ああ」
そして二人は
目的地のない
旅に出た