カーブミラー
……カーブミラーを見るのが、好きだ。
丸型の凸面鏡に映る光景が…たまらなく好きなのだ。
散歩の途中でカーブミラーを見かけると、つい…立ち止まってしまう。
鏡に映る、なんてことのない日常を…望んでしまう。
ごく普通の乗用車が近づいて、遠ざかっていく。
よぼよぼしたじいさんが、横切っていく。
太ったおばさんが、もさもさした犬と一緒に移動していく。
……カーブミラーを見るのが、クセになっている。
丸型の凸面鏡に映る、鏡越しに見る光景が…たまらなく魅力的なのだ。
目の高さにあるカーブミラーの前を通る時は、つい…近づいてしまう。
これから映し出される、ありえない光景を…待ち望んでの事だ。
間近で見る凸面鏡には、より…見慣れないものが映し出される。
お高い位置にあるカーブミラーでは楽しめない、個性的な映像が望める。
鏡面に映し出される、非現実的な光景。
思いがけない形に変化する、ごく普通の乗用車。
急に速度を上げて通り抜ける、スピーディーなじいさん。
いきなりでっかくなる、子供が連れている小さな子犬。
凸面鏡の丸みを帯びた面に映ったとたんに加速し。
凸面鏡の丸みを帯びた面に映ったとたんに膨らみ。
交差点をごく普通に通過しているだけのものが、凸面鏡に映った瞬間…変貌するのがたまらない。
凸面鏡から目を背ければ、なんてことのない平凡があるだけなのも…愉快だ。
いつまでも見ていたい……、交差点の風景。
飽きることのない、日常の光景が……、ここにある。
……たまには、少し、歩いてみようか。
新しい、カーブミラーに……、出会えるかも知れない。
見慣れていない、平凡な非凡が……、どこかにあるかもしれない。
一歩、二歩、三歩……。
ゆっくりと歩き出した自分の姿は、頭上のカーブミラーに、映っていない。
四歩、五歩、六歩……。
やや速度を上げた自分の姿も、真横にあるカーブミラーに、映ってはいない。
七歩、八歩、九歩……。
立ち止まってのぞき込む自分の姿も、真正面にあるカーブミラーに、映っては……いない。
………これは、一体、どうした事だ。
………これは、いったい。
どういう、事だ……