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裏話1




 イリカはある狭い地下通路を、匍匐前進で進んでいた。

 前には道案内役のフレジア、後ろには黒田もいる。


 (••••やっと、ここまで来たわね、、)


 イリカはここに来るまでの過程を思い出す。


 何故か集合場所にいた警察官に追われ。

 それぞれ喧嘩しながら、森を進み。

 ついに、無言でここで歩くまでに至った。


 (狭ぇぇ!!早く行けよぉぉ!!遅えぇんだよこの人間!!)

 

 (べ、別に、良いじゃない。急いでる訳でもないわ!)


 (暑い!!狭い!!動きづらい!ノロマぁぁ!!おい!死ね!こいつら!ゴミ!!!!ギエギエギエギエギエ!!!)


 一方、エムは発狂していた。

 小さい地下通路に三人もいるため、非常に蒸し暑いのだ。


 「、着いたわ。泊止まりなさい」


 遂に、フレジア地下通路の端に着く。

 すると、壁の端をフレジアが触った。


 直後壁の奥が開き、広い空間が現れる。


 「そして、暫く待ってなさい。用が終わったらすぐに帰って。しっしっ」


 嫌そうな目をしたフレジアはその空間に降り、近くの白い扉から出て行く。

 この間に、イリカと黒田も無言でそこに降りた。


 (ハハハ!さっぱりだぜおい!風も感じる!ヒューヒュー!!!ヒヒヒ!)


 (そ、そうね••••)


 脳内で、嬉しそうなエムが騒ぎまくる。

 だが、イリカの周りにはまた無言の空間が広がっていた。

 


 イリカはまた黒田に話しかける事に決めた。

 既に何回かやっていたが、その度に黒田から塩対応をされてはいる。

 その原因を、イリカはフレジアが居たからだと思っていた。


 「あ、あのー、、黒田、ノア、ちゃん?あなたは何で、ここに来ようと思ったのかしら、、って••••聞いても、?」


 「••••ふーん。逆にキミは?」


 目を瞑ったまま答える黒田。

 イリカは思ったより塩対応をされ、ショックを受けた。


 「え、え!、わ、私は、、あの、勇者に恨みがあって••••」


 「そっか、来れて良かったね」


 黒田は目も開かず、呟く。

 声もイリカに関心なさげだった。

 更にショックを受ける。


 (ヒヒヒ!冷たい反応されてんな!諦めろ!こいつ完全にお前に関心ないぜ!!)


 (ま、まだあるわ!話の種!大空の話に繋げれば!)


 だが、イリカは諦めない。

 黒田は悪い人ではなさそうだし。

 千晴との関係が聞きたいとも思っていた。


 「そ、そう言えば!大空と仲良さそうだったわよね!!どういう関係なのかしら!!」


 「うーん。ボクがキミに教える義理がないね。意味ないから、もう話しかけて来ないでよ」


 黒田は平然と言う。

 イリカは非常にショックを受けた。

  

 (ヒヒヒ!ダメダメ!お前はダメダメ!!こいつらに対する話かけ方が初心者!こういうタイプとあれで仲良くしようとするのが間違いだぜ!!)


 (ま、間違ったのかしら、、)


 (ヒヒヒヒ!そうだ!間違ってんだよ!全部よ!ハハハ!!全部!全部!ヒヒヒ!ハハハ!)


 エムの全力の煽り。


 イリカはイラッとした。

 すぐ、自分の腕をつねる。


 (痛ぇぇぇ!!!何すんだよこの野郎!!ぐぁぁぁ!!自分でつねっても痛ぇぇ!!)


 (煩いわ!ちょっと黙ってて!!でも痛、い、)


 イリカの左手が勝手に動き、右手もつねる。

 しかし、痛みへの覚悟の差で、ダメージはエムの方が大きかった。

 

 脳内で騒ぐエムを見て。イリカはスッキリする。


 

 このタイミングで、白いドアがまた開く。

 フレジアが入って来た。


 「準備できたらしいわ。来なさい」


 「なんだ。二人じゃ無かったのか?」


 扉からは、もう一人、人間が入って来る。

 騎士服を着た二十五歳ぐらいの女性だった。


 「は?一人消えてるわ••••まあ良いわ。後はやっておきなさい。私はすぐ帝都に来いとお母様に言われているの」


 「••••え、え!?あれ!?黒田、ちゃん!?居ないわ!なんで!?」


 イリカは辺りを見回す。


 この白く広い空間のどこを見ても、黒田が居なかった。

 先程まで絶対に居たはずなのに、とイリカは思う。


 その間にフレジアはまた狭い通路に入る。


 「••••気を付けろよ••••」


 「なにかしら。その程度の事は当然よ」


 フレジアはそう女性に言い、また匍匐前進で進む。

 すぐに姿は見えなくなった。


 「そして、お前が反勇者同盟に入りたいという者か••••一人は消えたようだが、、」


 「は、はい!お願いします!」


 女性は眉間を抑えながら、そう言う。

 黒田の事は一旦忘れ、イリカは頭を下げた。


 「私は反勇者同盟幹部、「00」。反勇者同盟はお前のような魔力が使えないような弱者が来る場所では無い。今すぐに帰れ」


 「え、!?なんで、?あいつは入れてくれるって、、」


 (は?嘘だろ。マジか?やっぱり嘘つかれてたんか?)


 エムの動揺したような声。

 イリカも不安そうな顔になった。


 「入れるか否かは、幹部の裁量に任せられている••••確かに、『傲慢』の奴からは入れてあげれば、とは伝えられてはいるが••••」


 「00」はイリカの目を真っ直ぐ見つめる。

 つい、イリカは目を逸らしてしまった。


 「ま、魔力が使えなくても!役立てるわ!しゅっ!見て!身体能力と武術なら自信ありよ!」


 「我らの敵は勇者だ。奴らには常軌を逸した才能と精神、そして、それらに合った能力を持つ。魔力が無いという事はこれらに全く対抗出来ないのと事と同義だ」


 「わ、私!対抗手段があるわ!あれよ!師匠から教わった武術!これで能力にも対応出来るわ!しゅっしゅっ!」


 (いいぞ!いい言い返しだ!より強く行け!)


 イリカはシャドーボクシングを「00」に見せ続ける。

 すると、「00」は腰に携えた剣に手を添えた。


 「••••そこまで言うか。ならば試してみろ。私が、」


 「は!」


 即座にイリカは女性に殴りかかる。

 突如現れたバリアも破壊し、イリカは女性の腹にパンチを喰らわす。

 こうして、「00」は吹き飛び、扉をごと空間の外に飛んでいく。


 「どうかしら!これだけじゃないわ!反勇者同盟に尽したいという心もあるわよ!!入れて欲しいわ!」


 「•••••なんの武術だ••••全く読めん••••どこで学んだ••••」


 すぐ、「00」は無傷で、扉から戻って来る。

 殴られた時に出来た服の皺すらも、もう無くなっていた。

 

 「む、無傷、、あ、でも!!この武術の真髄は!師匠から教わったの!!どう!?こうやって何かをされる前に殴れば良いのよ!!勇者の保証つき!!」


 「••••一発如きでは偶然かも分からん••••次は追撃も行い、私を再起不能にしてみろ。それが出来ないのなら、この反勇者同盟に入れる価値はない」


 (おい!早くボコれ!『融合』使ってもいい!多少変な魔法を使えるっぽいが!入れねぇのは不味い!」


 またしても「00」は腰の剣に手を添える。

 イリカとエムも、気合いを出す。



 【双方やめ。「00」も落ち着いて】


 すると、近くのスピーカーから声が聞こえる。

 頭に残る綺麗な声だった。


 「••••しかし••••」


 【「00」。彼女を私の部屋まで連れて来て。いつも通り面接をするから】


 「•••••••は••••••着いて来い」


 「え、え、?入れてくれるの?」


 「••••ああ。リーダーが認めれば、の話だがな」


 そう言い、急に扉から出て行く「00」。


 イリカはそれを追い、扉から出た。



 「え、凄いわ••••」


 (なんじゃこりゃ。ここ地下だっただろ)


 扉の外には、地上のような景色が広がっていた。


 青い空と光る太陽が上にはある。

 周囲には畑を耕す人、学校らしき建物で剣を振るう子供達もいた。

 

 「••••早く行くぞ。あいつが待っている••••」


 「わ、分かったわ、、」


 「00」はずんずん進んでいく。

 イリカも早足で着いていく。

 

 最終的に二人は、質素なある平小屋に辿り着く。

 辺りにはこれより小さい小屋が何万個もあった。

 この平小屋のドアを「00」がノックする。


 「はい。どうぞ」


 綺麗で若い声が、小屋の中から聞こえる。

 先程スピーカーで聞いたものと同じ声であった。


 扉が「00」によって開けられる。

 部屋の中には、書類で山積みになった机と椅子に座り書類たちへ何かを書く少女がいた。


 「私は反勇者同盟のリーダー。海小(あしお) 冷奈(れいな)。初めまして••••だよね?」


 「え、あ!え、、はい、、」


 15歳ぐらいのこの少女は、フレジアと非常に似ていた。

 非常に整った顔と、地球のように美しい虹色の瞳に見つめられ、イリカは思わず見惚れてしまう。

 目の下の隈も気にならない程、美しかった。

 

 「まずは、聞くよ。何故あなたは反勇者同盟に入ろうと思ったの?」


 「え、、あの、え••••」


 (は?どうした?入りたくねぇのか?早くしろよ)


 (そ、そうね、言うわ、、)


 エムとの会話で、冷静になるイリカ。

 少し嫌だったが、自らの身の上を冷奈に話し始める。


 「••••それで、母さんまで、私を襲って来たの••••」


 「••••••児戯の勇者か••••」


 「辛かったね。社長直属部隊である彼の被害者は特に多い。現幹部にも被害者がいるんだ。大丈夫。私達はあなたの味方だよ」


 冷奈はイリカの目をじっと見て、そう言う。


 何処か、イリカは安心した気持ちになった。

 だが、一応謝ってくれた役員の人やカルミナ市へ救護に来てくれた人達の事も、イリカは少し思い出す。


 「••••ありがたい、わ、、そしたら、入れてくれるの••••?」


 「もちろん。今は少しでも戦力が欲しいしね」


 笑顔になって、冷奈はそう言う。

 一方、イリカは復讐の為、思い出した事も無視する事に決めた。


 「けれど、ある規則は守って貰うよ。これが守って貰えないのなら、あなたは私達の仲間には出来ない。あなたが勇者連盟のスパイの可能性が捨て切れないんだ」


 「わ、分かった。守るわ」


 (また条件付きかよ。おい。あの野郎がいねぇからか?おい••••)


 緊張しながら、イリカは頷く。

 心臓もバクバクと言っていた。

 

 「うん。ありがとう。そうしたら、あなたの持ち物全てを私に捧げて欲しい。お金も服も何もかも。捧げる物はこの机においてね」


 「え、、え、、え?」


 「この規則は絶対に守って貰う。けれど、本当に嫌ならすぐに行ってね。今なら穏当に帰せる」


 至極真面目な顔になって、冷奈はこう発言する。

 イリカの決意は揺らいだ。


 (は?何に躊躇してんだ。何を捨ててでも復讐して、家族の体を取り戻すんだろ?ここを逃せば復讐出来る可能性は超低くなるだろうが。はよ服ぬげ)


 (••••••••••••分かってるわ••••)


 イリカは覚悟を決めた。


 財布を置き、靴を置き、脱いだ服も置き、鎖も置く。

 最後に黒い花の付いたネックレスも首から取り、全部の上にゆっくり置いた。


 直後、冷奈はまた笑顔になる。


 「うん。ありがとう。それで。財布以外の全てはあなたへ無制限に貸すね。これで私達は仲間。宜しくね」


 「え、え、?よ、よろしく••••」


 イリカは冷奈から差し伸べられた手を掴む。

 冷奈は笑顔のままだった。

 

 






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